融解02



――歳は?

『14』


――だいぶ経つな、当時何歳だった、

『……。12、あんたとはじめて会ったのは10』


――残念だけど、あの組織は無いし、俺はもう、マグマ団でも無いんだわ、

『……聞いた』


――そうかい、しかし、生きてたとは、

『おれを覚えてる人間が全くいない、あんたは、おれが生きて見えるの』


――まだ死んでは無ぇだろ、

『確かに…、墓はあるけどな』


――運の良いガキだよ……お前の存在はウチが欲しい、

『あんたしか知らない』


――可愛い事言いやがって、

『他は……知らない』


――ふ−ん、しかしよく逃げたな、どこへも見つからずに、

『騙す』


――騙す?

『自分すら……、自分がもう存在しないと思えば簡単だ』


――だがもう限界、だろ、そろそろ生き返らせてやろうか、

『え…?』


――お前、別の人間になれるか?

『ここにいても、いいのなら……何でも』


――うん、いいぜ、いずれはマグマ団へ世話してやってもいい、

『本当に……!』


――待て待て、ただし条件がある、

『条件……、おれは何でも、あんたの言う通りにする』


――そうか! 良かった、どっちにしろ今日お前を帰すつもりはなかったぜ、ホムラ。


『……ホムラ?』


――そのままの意味さ、ホムラ、




お前は今日から、“おれ”になるんだ。




よりにもよって、“それ”かよ!

高笑いされた記憶が甦る。
性悪な大人の事なんだから自分善がりに決まってる。
助けて貰おうなんて、無理だった……。





ホムラ「どこまで歩かせる気だ」

*「…。」

ホムラ「何を笑ってやがる…気色悪い」

*「会わない間に忘れた?こういうカオなのさ」



男はよく笑うが、感情という熱は無い。
生まれ持って無いのだ、と思う。

過去、男はアクア団でもありマグマ団でもあった。
当時を知る者は、失脚したはずの男の返り咲きを目にし、二つの団の頭文字からアクマの亡霊と呼んだそう。成るほど確かに悪魔だ、今なお黒い闇の底に居座り、そこから人間を誘い込んで思い通りに堕落させては楽しんでる。

各地へ張り巡らせた糸の先に括りつけた手下達を“悪魔の駒”と言うらしい。
この男のため、夜な夜な資金を集めていた移動遊園地の“魔術団”。
かつてその首領であったバトラーも、そうだった……。




男は暗い森を、歩いて行く。
どうやら目的があるらしく、それは森を抜けた場所で開けた高台だった。


ホムラ「チッ……キンセツ、お前の根城か」

*「そう。もっとこっちへ来い、俺の街を見せてやる……!」

ホムラ「どこだよ、ここは!」

*「シダケの、山中」

ホムラ「テメェ、回りくどいんだよ! さっさと街へ連れてけばいいだろ」

*「その前に、是非上から見てほしくてだな――ほら、下を見ろ、ネオンだ」


高台から見下ろせば、キンセツシティの輝く夜景が広がっていた。
再開発をして、あの寂れた街が、まるで城塞のような巨大施設へと生まれ変わった。
たった10年程で。


*「何とでもなるだろ、ホムラ」


街の再開発に深く関わった人物が、この男である。


*「地下開発のニューキンセツ計画は潰された。しかし、地上へ築いた……!」


そういえば、再開発完了の式典の日だ。

だから、迎えに来たのか。

見計らったように黒の車がやってきて……男は、そのドアを開いた。



*「魔都へ」





つづく