フエン温泉七夕祭りC



さあ、幕が上がった。


暗いステージの中央に、ピンスポットライトが当た。

そこに立つのは、浴衣姿のフエンジムリーダーのアスナだ。

ペコリとお辞儀するアスナ。

それ見た客席のホカゲは身だしなみを整え、背筋を伸ばした。


アスナ「Σよ、よかキタな…!アタシはフエンタウンジムリーダーですッ」


カチンコチンだ。

すぅ… はぁ… はぁ… くぅ…

深呼吸音がマイクに拾われる。

アスナは袖の内から小さなカンペを取り出して、読み上げ始めた。


アスナ「七夕祭りのご挨拶。

フエンタウンジムリーダーアスナ。

七夕のお星さまへ、お願いごとされましたでしょうか。

見上げてください夜空、天の川が美しいですね。

実に十年ぶりの開催となりましたフエン温泉の七夕祭りです。

七夕の夜にやっと再会、やっと開催する事ができました。

雄大な煙突山の自然と、その恩恵であるフエン温泉。

人々の癒し、美しいふるさとフエン。

私たち誰もがこの温泉町に恋をしてます。

世界にはいろんな街があるから、

一番星にはなれないかもしれないけど、

夜空のなかに小さく光る星々みたいに、

この町がずっとひかえめに輝き続けますように。

そしてテーマです、"さあ、恋の花火を打ち上げよう!"

フエンっ子の皆さん。今夜、フエンへの恋の花火を打ちあげましょう!」


一気に言えた!…アスナは小さくガッツポーズした。


ホカゲ「ああ、なるほどそういう恋か…分かりづらいてか分からない」

ワタル「…何だ何だ、ドでかい花火大会か!?」


実行委員を代表したアスナの挨拶が終わると、

ステージ全体が照らされていき、同時に天上からは横断幕が降りてきた。


【湯煙美形番付、ミスターフエン選考会】 書・マツブサ


そして先程まで入口にあったあの巨大な美形番付表が運び込まれ、

出場者…おもにフエン煎餅屋若旦那へ贈られたお祝い花がズラリと、

ステージ両サイドへ飾られて出来レースかと思えるほど壮観になった。


アスナ「最初の催し物は、湯煙番付・ミスターフエンの結果発表です!」


湯煙番付とは、ミスター・コンテスト。

参加資格はざっくり、フエン在住の男子。(年齢制限/20〜∞)

フエン男子が氏名と写真で一人ずつ紹介されていく。

初めは内輪の選出だったが年々応募の数が増えていき、

特に今年は大賑わいで、殆どの地元住民(♂)が参加したようだ。

これに優勝するとミスターフエンとして一年様々な活動を、

著名人枠の観光大使カゲツと共に行っていく予定を組まれる。

ちなみに番付殿堂入りの懸かってるフエン煎餅屋の若旦那だが、

今日の連覇を見越した上での"カゲツ先生との商品コラボ"だ。

跡取り息子のミスターフエン殿堂入り記念と称して、

地元銘菓フエン煎餅を更に更に売り込んで行く作戦なのだ。

優勝すれば賞金・表彰盾・更にフエン温泉フリーパスが貰える。

ちなみに番付残念賞はフエン煎餅つめあわせ(カゲツ先生煎餅も入ってます!)

…どこまでもくい込んでるフエン煎餅のたくましさ。


ワタル「Σ…ン!?」

眠かったるそうに美形番付表を眺めてたワタルだが、

ふと何かに気づき、お隣にいるホカゲの顔を確認した。

察したホカゲも、ワタルの方を見た。

ワタル「…ホカゲ?」

…どう見ても、ホカゲ。

…あれは、ホカゲ。

ステージ上のでかい番付表に大判引きのばしのホカゲの顔写真が使われてる。

誰かに不意打ち接写でもされたのか、「!」と、驚きの表情だ。

ちなみに全身写真はマグマ団のお庭で寝っ転がってる写真(私服)だ。

ホカゲ「うおばれましたか」

ワタル「お前ついに手配されたかと…って何だ!美形番付だァ!?」

ホカゲ「いやこれには深い事情というものが…


アスナ「残すは上位3名の発表です、紹介しますのでステージ上へどうぞ!」


黒子服に身を包んだスタッフ(マグマ団員)がホカゲのもとへ来た。

マグマ団員「さすがっすホカゲさん、M団代表としてやっちゃって下さい」

ホカゲ「んでは、ちょっくら行ってきます…」

ホカゲはスッと立ち上がり、芋浴衣の襟とかちょちょいと直して、振り返った。

ホカゲ「トウキさん、オレはナカマに売られた男…だが勝ちに行…

と、トウキへ言葉を投げかけたのだが、

ワタル「おう!絶対負けねぇぞ!!」

何故かピッタリとワタルが背後に立っていて、思いっきりのけ反った。

ホカゲ「Σなんすかビビる、じゃまなんだがワタル氏」

ワタル「ポケモンバトルだろ、このオレ様がセコンドでついてったる!!」

ホカゲ「Σポケモンちげーニンゲンニンゲン」

ワタル「む。違うのか…」


アスナ「マツブサさんのところのお兄さん、はやくー!」


上位三名中、他の二名はすでにステージ上へ並んでる。

マツブサ「え、マツブサおにいさん呼ばれた?」

更に、アスナの"マツブサ"の名出しによって、

いまあんまり関係ないマツブサまでステージ上へ現れた。

アスナ「Σギャ!びっくりした、マツブサさん登場です!」

思わずアスナは、マイクをマツブサに向けてしまった。


マツブサ「こほん。わたくし、フエン湯煙美形番付・初代横綱の者です」


客席のこども「さっきのまいくてすとだー」

客席のこども「まいくてすとのひとー」


マツブサ「でもね。僕は殿堂入り済みですよ、きみたち、ラッキーしましたね!」


これは、先輩として後輩たちを煽っているのだろうか。

マツブサさんはすっかりアスナからマイクを奪っちゃって、司会を…。

マツブサ「上位3名の紹介ですね、まずは殿堂入りの懸かったこの子からいこう」

若旦那「Σあ、はい… 私ですね?」

まずは今日よく活躍するフエン煎餅屋の若旦那である。

マツブサ「一言、ご挨拶くださいな」

若旦那「フエン煎餅屋の者です、皆さまの貴重な票をありがとうございます」

マツブサ「もう優勝でしょ。ね、マツブサ凄くこの子推しなんですよ」

若旦那「恐縮です」

アスナ「いいのかな…(運営は?公平に…?いいのかな…)」


 若旦那親衛全部隊『若旦那さーーーーーーん!!!!』


フエンマダムたちの絶叫が轟いた。

なんという中高年パワーだろう、マツブサは揺れるしアスナはコケた。

助けに来たスタッフが、ついでにアスナにマイクをあげた。

マツブサ「あ、すいませんマツブサ調子のりました…」

アスナ「五連覇中で、今年も優勝で殿堂入りが懸かってますがどうかな?」

若旦那「そうですね、五年も連続で呼んで頂けたのがまず嬉しいです」

マツブサ「(Σいま殿堂入りに五連覇も必要なんだ;;)…ゆ、優勝するよね?」

若旦那「はい、」

マツブサの質問に、若旦那は両手をグッと握り込んで気合を入れた。

若旦那「します!」

親衛隊が、すごく黄色い悲鳴を上げた。


若旦那さんというのは、品のある温和な顔立ちで、

温泉で磨かれた白い美肌と、スラリと引き締まった体系の、

現代風・和装美男子なのである。

お家を背負って頑張ります!

そして次はふたり目の紹介だが、今年初参加のダークホースだ。


アスナ「どうもこんばんは、実はお兄さん漢方屋さんのお孫さんでしょ」


漢方屋の孫「…。」

喋らない、無言。

無表情、無愛想。

ちょっと前に、フエンの土地に姿を現した謎の男前だった。

町外れに住みついてしばらく、あまり近所付き合いもなかったが、

商店街の漢方屋さんをふらりと訪ねてきたところで、

フエンのじじばばに捕まり、囲み取材され判明した。

実はこの人、フエンに帰郷した漢方屋夫婦のお孫だったのだ!

ちなみにフエン漢方屋とは、この湯煙美形番付の仕切り役である。

今年も美形番付がフエン煎餅屋の若旦那さん独壇場になりそうなので、

そうじゃ!と思いつき爺さんが勝手に孫の名を書き参加させてしまい、

こんなお披露目の舞台へ引っ張り出されてしまったらしい。


マツブサ「でしてこれは…湯煙美形・同世代同士の戦ですね」


彼は、若旦那さんとは対照的だ。

上質な生地を使った浴衣をさらりと着こなす若旦那に比べ、

こちらは頭に手拭い、身につけてるのは紺色の作業着、

仕事場からそのまま出てきた感じの様子である。

マツブサ「ひげは無いほうが、いいな」

漢方屋の孫「…。」

黒い髪は無造作に伸びて、無精ヒゲもちらほらある。

無愛想なのだろうか、終始無言だし客席を怪訝そうに睨んでる。

ちなみに彼のご職業、ジョウトのヒワダで修業した炭職人さんである。

そんな彼の焼いた良質な"もくたん"は、漢方屋さんでお求めになれます。

※まれに爺さんから貰えます。


若旦那「なっ…!」


漢方屋の孫を訝しげに見てたフエン煎餅屋の若旦那だが、

そこで突然稲妻に打たれたように震えた。


若旦那「カンちゃん…」


アスナ「?」

マツブサ「え、知り合いなの…?」


若旦那「漢方屋のカンちゃん…気づかなかった、フエンに戻ってたのですね…!」

漢方屋の孫「…。」

孫はガン無視だ…いや、ちょっと気まずそうな顔してる。

彼が漢方屋の孫だというのはもはやフエンの誰しも知ってるネタだが、

若旦那さんは方々に飛びまわって忙しい人、今この場で気づいたようだ。

若旦那「幼馴染ですよ、ほんの近所でして。けど、越してしまって以来だね」

若旦那は微笑むと、漢方屋の孫の方へ歩み寄ってきた。


マツブサ「さーて!次は、三人目の子を紹介しなくてはね!」

そこへマツブサが割って入って、ステージの端を、ほい☆と指した。


ホカゲ「Σ! ちわーす」


ステージ上にようやくホカゲが現れた。

 マグマ団員『ホカゲさーーーーーーん!!!!』

これにあわせて休憩取ったマグマ団員(金髪組)も、負けじとエールを送った。

 じじばば「ほ、ほかちゃ〜ん…」

フエンの老人からもふるふるした声でエールがきた。

アスナ「あ、出た!金髪のお兄さん、パス!!」

ちょっと遠かったので、アスナが慌ててマイクを投げた。


 キーン (マイクの悲鳴)


ホカゲ「Σ雑!」

マツブサ「あ、マグマ団枠出場のホカゲくんです宜しくね」

アスナ「金髪のお兄さん、そのまま一言どーぞ!」

ホカゲ「えー、いつもうちのマツブサがお世話になってます」

ホカゲはとりあえず会場見渡し日頃の感謝を込めてお辞儀した。

頭を下げながら、ホカゲはけっこう赤面してた…。

ホカゲ「なぜ」

ホカゲ「なぜなぜ」

ホカゲ「なぜオレみたいなモンが出るという間違えが起きたのか…」





☆…ホカゲの回想…☆


ホカゲはなぜこのイベントへ参加する事になったか。

ちょっと前のこと…一ヶ月くらい前か。

下っ端団員たちがマグマ団食堂でゲラゲラ笑ってた。

彼らが囲む卓上には、フエンの民報が広げられていた。

笑撃…!

ミスターフエンのエントリー期間が〆られ、

出場者一覧の情報が公開され紙面に載ってたようで、

その中にマグマ団一の残念メン…、

マグマ団世紀の珍人選で有名なゴンザレス団員(29話参照)が…、

顔面ドアップの写真とともに受付済とされていたからだ。

その時はホカゲは「へー」と思うくらい、気にもとめなかった。

…の、だが。すぐに上層部へ持ち込まれたらしい。


緊急招集!


マツブサ「きみーーーーーっほんとおねがい、ほんとマグマ団やめて」

マツブサが机の上に伏してうな垂れてた。

バンナイ「なんで堂々とミスターコンテストに応募できんのお前」

バンナイが顔を引きつらせて壁にもたれ掛ってた。

ふたりともショックで立ってられないのだ。

…あってはならない事件。

ゴンザレスの職業欄に"マグマ団"と載ってしまってるからだ。

ようは自己推薦だが、ミスターコンへのマグマ団代表枠だ。


ゴンザレス団員「逆手で勝てる、かな。と」


口をパクパクさせながら、ゴンザレス団員は答えた。

さすがの彼もけっこうピンチだ、脂汗をダラダラ流してる。

かつて、マグマ団のイケメン団員たちに憧れて入団したゴンザレス団員。

先輩方のように赤い団服を身につけ、日々、容姿を磨き上げてきたはずだが。


マツブサ「ゆっちゃう、きみ。それ言っちゃう?」

バンナイ「部屋に鏡、置けよ。給料出てんだろ、買えよ真実」


ゴンザレス団員「コンテストだったら、かわいい部門てきな…」


マツブサ「うー…うー… ぎりぎりゆるキャラかな…」

バンナイ「甘ェよ。うち、ゆるキャラならホカゲさんで手いっぱいです」


ホカゲ「Σおれか」


あんまり興味なく、窓辺でフエラムネを吹いて遊んでたホカゲだが、

ゆるキャラですとな…!!

ホカゲが驚くその横で、ホムラが苛立ったため息を吐いた。

不穏な空気だ…その場の全員が恐る恐るホムラへ注目した。


ホムラ「…必然的に、ウチの代表って事だろ」


ホムラ「…野郎、テメェがよ」


ホムラ「…組織の底辺っての自覚あんのかテメェ」


ホムラ「…下っ端野郎が軽はずみな行動してんじゃねぇぞ」


捲し立てかたが普段より恐い!口数も多い!

ホムラ「この件、…消すか」

え…

その場の全員が凍りついた。


ホカゲ「つーか、ゴンザレス…フエン出身じゃね?別に出てもよくね」


「ア?」ホムラが睨んだ。

ホカゲの助け舟に、マツブサがポンと手を打った。

マツブサ「いける…!訂正の記事を出して貰えばいけますよ!!」

ホカゲ「だな。マグマ団代表とかでなく、フエンの一住民枠つーことで宜しく」

ゴンザレス団員「も、も、もちろんです!!」

ホカゲ「そしてどうせ落ちんだろ、残念賞でフエン煎餅だろ」

ゴンザレス「え?」

ホカゲ「え?」

ゴンザレス「残念賞ではなくて、失格ですけど…」

ホカゲ「ん?どゆこと??」

ゴンザレス「そんれが、ミスターフエンの応募資格20歳以上でして!」

マツブサ「うん、知ってるよ」

バンナイ「知って… ハッ!そうだこいつ…!!」

バンナイが何か気づき、苦い声を出した。

バンナイ「思いだした、こいつ未成年ですよ…少年なんだよ!」

マツブサ「…マサカー バカナー」

ホカゲ「まじか。発育よすぎつーか、年齢を外見が先越しすぎだろ」

マツブサ「写真の老け顔だけで成人だとスルーされちゃったんですかね…」

ホカゲ「選考委員もウルトラ老眼か…書類の確認ちゃんとしろよ」

マツブサ「今年は応募多かったみたいですからね…しかし未成年とは恐ろしや」

バンナイ「坊や、まだ酒飲めねぇだろ?」


ゴンザレス「はい!!」


バンナイ「さ。とっつぁん坊主の過ちって事にして、応募取り消そ!」

マツブサ「何もなかった事にしよう!マグマ団もクビにしよう!!」

ホカゲ「確かー こいつ雇ったの、ホムラだったな」

バンナイ「ほらみろ、ホムラさん。いつぞやのツケがまわったな」

ホムラ「…。」

ホムラは深いためを息ついた。

ホムラ「…フエンタウンあってのマグマ団だ、以後表立った行動は慎め」


ゴンザレス「はい!!」


バンナイ「こいつ返事だけは良いけど、絶対やるよ、また絶対やらかすよ」

マツブサ「いますぐ荷物まとめて出てって大丈夫ですよ」

ホカゲ「今回は未遂って事で許してやんだな、優しい〜ホムラ」


マツブサ「でもね、マグマ団からも一人出してって言われてんですよね」


さらりと、マツブサが爆弾発言した。

マツブサ「応募期間は〆られてますけどね、掲載差し替えでいけるはず!」

ホムラ「こいつ、何言ってんだ」

マツブサ「だから!町内会から、うちの子をひとり出場させてと頼まれまして!」

ホカゲ「それってコネでズルだろ」

ホムラ「無視しろ」

マツブサ「ごめん僕はね、むかし殿堂入りしたからもう出場できないの」

ホムラ「いつ、誰が、テメェに打診した」

マツブサ「漢方屋さんいつもね、君たちの事なめるように品定めしてますよ」

ホムラ「非常に、迷惑してる」

マツブサ「ホムラ君、どうかなそういうの…だ、だめかな…」


ホカゲ「ホムラはだめだろう」

バンナイ「一番出ないとこいったな」


ホムラ「…解散」

ホムラは言葉を吐き捨てて出ていった。

マツブサ「あ、あ、じゃあバンナイ君は!?」

バンナイ「いや、俺も嫌いじゃないけどちょっとね〜事情がね」

マツブサ「じゃあホカゲくんね」

ホカゲ「ん?」

 バンナイ「ゴンザレス庇ったし、適任適任〜」

マツブサ「ね。きみ、漢方屋さんと仲良いでしょ」(1話参照)

ホカゲ「ん?」

  バンナイ「やったじゃん、決まり〜」

マツブサ「ホカゲくんで、決まりね」

ホカゲ「ん?」

マツブサ「よし、エントリーシート書いとくね」

ホカゲ「ん?」

マツブサ「写真ね、はい、チーズ」


 パシャリ (トイカメラ)


マツブサ「じゃ、応募しとくね!」

マツブサはあっという間に選考書類を仕上げ、足早に駆けてった。

そういえばバンナイもいつの間にか消えていた。

ホカゲ「ん?」

ホカゲはゴンザレスとポツンと取り残された。

…ん?

ゴンザレス「おおお、すげえええ!幹部さんすげえええ!!」

ホカゲ「いや、待て待て待てー…!待てー!!!!」

やっと状況を理解したホカゲは必死で後を追った。


『ぶじ、エントリー受付け貰えました〜!』と、

直ぐにポケナビでメール報告されホカゲは愕然と床に崩れた。

ホカゲ「マツブサめ、こんな時だけ仕事はえええええー」


☆…回想おわり…☆





ホカゲ「そんなこんなですが、フエンタウンまじ愛してます」


顔を上げ、客席みつめてホカゲは腹を決めた。

…ふだんあまり表は出ませんが、フエンのためならがんばれる。

…フエン温泉すばらしいですけん。フエン商店街やさしいですけん。

…しぬまでフエンでがんばって、しんじまったらフエンの土となります。

…以上!


ホカゲ「さあ!フエン湯煙美形番付、今年の優勝者を発表すりゃいい!!」


ホカゲはドーンと胸を張って、発表を待つことにした。

言ってる意味はよくわからんが…フエンのご老人たちは感涙してくれた。

若旦那もうんうん頷いて拍手してる。地元フィーリングだ。


アスナ「では、結果発表です!湯煙美形番付、今年の優勝者は…!!」


ちょっと遅れて、ドラムロールがちゃんと鳴った。


アスナ「フエン煎餅屋の若旦那さんです、5連覇ー!!」


マツブサ「やったー!!」

若旦那さんより先に、マツブサが万歳して喜んだ。

若旦那「あ、ありがとうございます…」

スポットライトを浴びた若旦那に、アスナが冠と優勝タスキをかけた。

フエン町長「おめでとう、殿堂入りです!」

フエンの町長が表彰盾を授与した。

フエン町長「歴代のチャンピオンと共に永遠に記録して称えましょう!!」

その言葉と共に、天井から大きなクス玉が現れた。


ホカゲ「まあ、妥当ですよな…」


雰囲気的に舞台の端へと追いやられながらホカゲは呟いた。

一方、影の薄い漢方屋の孫はソローっと舞台袖へ はけようとしている。

フエン町長「さあ、紐を取って!"せーの"で引きますよ」

クス玉を割り、若旦那さんの晴れ姿が決まろうとしたその時…!


?「そいつは、偽者だーっ!!」


客席の後ろから、でっかい怒鳴り声が響いた。

まさにクス玉が割れようとした感動の瞬間が台無しだ。

誰もが客席を振り返った、その声の主はズカズカ歩いて舞台に向かってくる。

客席から「あれ?」「あれ?」という声が上がる。

そいつは荒っぽくステージ上へ乱入すると、中央の若旦那…とかではなく、

謎の男・漢方屋の孫の前に立ちはだかった。


一同『あ…』


アスナ「Σええええー!ど、どうして漢方屋さんの孫がふたりいるの!?」


いま、アスナの言った通り。

ステージ上に、漢方屋の孫が"ふたり"いる。

どっちがどっち?

どっちもどっち?

先程まで ぶすーっとしてた漢方屋の孫が、

今怒鳴りこんできた 漢方屋の孫が、

つまり漢方屋の孫が同時にふたり存在している。

いったい何なんだ、

これは鏡か…


バトラーの声「鏡か…!」


パチン☆、と音が鳴った。

舞台の上手側(客席から右)のほうからポム・ポム・ポムと、

一体のスライムが跳ねてやってくる。

頑張って跳んで、中央の若旦那さん達を跳ね通りすぎて、

下手側でトラブってるふたりの孫たちのとこまでやってくる、

孫ふたりの狭間に入ると、そこでピタリと止まった。

スライム「モーン」

あ、鳴いた!…その瞬間、スライムは大きく脹れて"鏡"になった。

あのスライム、ポケモンのメタモンだ!

"へんしん"して大鏡に変わり、

ひとりの孫を覆うように人々の目から隠してしまった。

見えてるほうの漢方屋の孫「なっ…!」

まるでホンモノ、その光る鏡面にはしっかりと漢方屋の孫が映り込んでいる。

見えてるほうの漢方屋の孫「に、逃げるな…!」

漢方屋の孫が手を伸ばして鏡に触れると、どうやら中へ入れそうだ。

孫はそのまま鏡の中へ入って行ってしまい、鏡に映った孫も同じ動きをしたので、

孫の姿は鏡の外からも中からも、忽然と同時に消えてしまった。


若旦那「何がなにやら…」

真横で見てたが分からない、若旦那は驚いた口元を手で隠した。

これは魔鏡か…!客席はざわつき、ご老人たちは手を合わせて拝んでる。


漢方屋の孫を吸い込んだ大鏡だが、突然くるりくるりと回転しだす。

必然的に鏡の後ろも見えるわけだが、誰の姿も見当たらない背後は舞台のみだ。

あれよあれよと何回転もまわった鏡がようやく止まると、

鏡の前には綺麗な浴衣姿のバトラーが立っていた。


バトラー「おっと!」


バトラーは両手を軽く上げた、何か忘れ物したらしい。

一歩、二歩と大鏡から離れると、

鏡面には白の燕尾服(マジシャン衣装)のバトラーが現れた。

それに気づいた浴衣のバトラー振り返ると、鏡の中の彼も振り返った。

鏡の中のほうの彼の腕には、大きな花束が抱えられている。

これを探しているのでしょう、そんなサインだ。

鏡越しに花束を手渡すと、鏡の中の彼はシルクハットを軽く持ち上げ挨拶した。

そのさなか、大鏡のメタモンが「モ〜ン」と大きなアクビをした。

大鏡は縮み、もとのメタモンの姿へ戻ってしまう。

鏡の中のバトラーは、アッ!と驚いた顔を残して消え去った。


バトラー「…。」


バトラーは首を傾げてメタモンを見つめる。

メタモンは「モン…」と気まずそうにへたる…。

バトラーが指を鳴らすと、それを合図に再びメタモンは跳ねて移動した。

今度は上手側に戻り、もう一度、大きな鏡へ変身した。

そのまましばしの沈黙…。

バトラーは懐の中からセロファンのような包みを取り出し、

それを手で広げると ふぅと息を吹きかけた。

そこから細やに光るピンクの粉がステージ上へ広がっていき、

大鏡はそれを吸い込んでしまったようで、思いっきり、クシャミをした。

その瞬間、鏡面部分が扉のように開き、中から漢方屋の孫が飛び出てきた。


漢方屋の孫「Σ何だったんだ!?」


このテンションの高さ、怒鳴りこんできた方だろう。

ホカゲ「おお、すげー。まじファンタァスティック」

舞台の端っこでボケーっと見てたホカゲだったが、

ふいに背後から小さく声をかけられ、振り返った。


小声のバンナイ「ホカゲさん、中央っ。中央行って」


ホカゲは小さく頷くと、そのまま平然装いステージ中央へ寄ってった。

ホカゲ「やべえ、バンナイくん… (へそ…)」

ホカゲがいま一瞬見てしまったバンナイの格好…、

一言で表すなら「へそ」だった。


アスナ「すっごい…ビックリしたよ!!」

マツブサ「鉢合わせした一時はどうなるかと思いました…」

アスナ「?」

マツブサ「いえ、コチラノハナシです」


バトラー「ああ、MR.フエン!驚かせてしまいマシタカ」


人の集まるステージの中心で、バトラーが若旦那さんへ花束を手渡した。

バトラー「優勝、おめでとうございます。あなたに素敵な一年を」

全ての人が、ミスターフエンへ拍手を送った。


ホカゲ「このホカゲをモブとして扱うとはさすが博士です」

ホカゲも舞台上の拍手要員として、使命を全うした。


バトラー「あなたも、戻ってこれましたね、良かったです!」

漢方屋の孫「あ…、あれは手品でドッキリだったのか?」

バトラー「きみ、凄い遅刻をしたでしょう」

マツブサ「漢方屋の君のお爺さんがカンカンだったので、代役立てときました」

漢方屋の孫「そ、そうなのか?すいません…って、俺が謝るのでいいのか?」

マツブサ「そうだよ、台本にないんだからね!」

バトラー「アクシデントも楽しみのひとつ、気にしないで…」

漢方屋の孫「す、すいません…?いやでも代役って…え?」

さっきまで激怒してた漢方屋の孫も落ち着いてきた。

バトラー「では、こうして揃って再会しましたので…お祝いしましょう」

手ぶりで、若旦那へクス玉の紐を引くよう促した。

若旦那「そうですね、それでは改めまして…」

それまで舞台袖へはけてた町長が慌てて出てきて音頭をとった。

フエン町長「せーのっ!!」


ぱかっ


-祝!ミスターフエン優勝 おめでとうございます!- 書・マツブサ


クス玉は無事に割れて、垂れ幕と紙吹雪がはらはらと降ってきた。


アスナ「若旦那さんに大きな拍手を〜!これにて美形番付終了です〜!」

マツブサ「投票の結果は番付票に貼り出しましたので、気になる人は見てね」

投票結果は、若旦那さんのぶっちぎり1位だった。

もはや他二人とは認知度が違います、

マグマ団からひとり貸した所で覆る票数ではなかったのだ。

めでたいめでたい、よかったよかった。

若旦那親衛隊は手作りボンボンを振りまくって涙している。

ホカゲ「オレめっちゃ事故ってねーか??」

なんか、なんでここにいるんだろうと思ってるホカゲの目の前に、

先程のクス玉の紐のようなものがもう一本、天井から垂れてきた。


ホカゲ「?なんすかコレ…」


残念賞でフエン煎餅でもばら撒くんだろうか…

ホカゲが迷っていると、なんとピンスポがホカゲにきた!

会場がホカゲに注目する…これは、引っ張る役目でしょう。

紐のほうも、さっさと引けよとわざとらしくユラユラ揺れて誘ってくる。

ホカゲ「こ、こんなはずかしい事ばっかさせやがって…」

ホカゲは汗がタラタラだ。


 客席のワタルの声「やっちまえー!!」


フエン町長「早く引けよ、ホカゲさん」

なんと!町長からお許し頂いたので、ホカゲは紐を引いてみた…

ていっ とな。


ガタンッ!


天井から金の檻が降ってきた。

アンティーク調の、人ひとり分サイズの金の檻だ。

ホカゲは紐掴んだままポカンとし、若旦那と漢方屋の孫はのけ反ってる。

アスナはマツブサとビビってずっこけてる。

…クス玉模した罰ゲームかな?と予想した全員が裏切られた。


 ?「そいつは、偽者ですーっ!!」


またか…。

一瞬、会場全体がそう思ったわけだが、

なんと、声の主はフエン町長だ。

天井から降ってきた金の檻の中へ捕らわれてる!

天井に、町長?

ステージ上にも町長?

どっちがどっち…?

つまり、今度はフエンの町長さんがダブって存在しちゃってるである。

元いたほうの町長は、注目されると「てへっ」と笑った。

次の瞬間、衣服を剥ぎ取りながらクルリとターンした、


?「ジャーン!」


町長だったはずが、一周まわっただけで別人となった。

なんと、ポケセンのシルバーナースだ!!

客席から「ほ、ほええええ〜!」と聞こえてくる、ご本人様だろう。


?「うーん…あんまり著名人にはならないんだけど特別ですよ!」


そう呟くと、シルバーナースの偽者はステージ上をダッシュした、

アスナ「うえ!?え、アタシですか!?」

素早くアスナの手を取って、グルグルとその場で回転した。

アスナ「あー!!」

アスナ「あーアタシでーす!!」

なんとアスナだ、アスナがふたりになった。

浴衣までもがそっくりそのまま!


この隙に、金の檻から本物の町長が救出され、

マツブサ「あ、おつとめごくろうさまです!」

ホカゲ「ス。」

マグマ団ふたりに意味深な言葉とともに敬礼された。


バトラー「どうやら、イタズラ好きのピクシーが迷い込んでしまったね」


バトラーがマイクで会場へ語りかけた。

ヒュイっと指笛で合図すると、毛並みの美しいグラエナがステージへ駆けつけた。

口に咥えてきた白のシルクハットを差し出すと、行儀よく待機した。

バトラーは受け取ったハットを流れる動きでひと回転させ、何もないと示し、

そこへ手を入れると、長ーいステッキを取りだした。

マジシャン・バトラーの白の衣装とともにアイコンとして有名なステッキだ。

バトラー「ハットはまたあとで…」

白のシルクハットは着てる浴衣には合わない。

バトラーは、頭を上げたグラエナの方を見向きもせずに、

片手で飛ばして被せてみせた。

アスナ「だめもう、目が回るよ〜…」

踊って遊んでたアスナふたりだが、本物っぽい方が音を上げた。

元気なほうのアスナは、腕組みしてニヤリと不敵に笑ってみせた。

アスナがあんなワルい表情するはずない!あっちが偽者だ、

…が!

バトラー「さて。そろそろあのイタズラ好きを止めませんとね」

突然、その偽者の身体がふわふわと宙へ浮いて、運ばれていく。

偽者アスナは驚いて抵抗してみせるが、だめだった。

ふわふわと、そのまま先程まで町長が捕らわれてた金の檻の中へと運ばれて、

待ち構えてたバトラーに戸を閉められ、ガチャリ…と、

チェーンつきの南京錠でしっかり施錠されてしまった。


アスナ「あ…アタシが捕まった」

バトラー「大丈夫、きみではありません」

腰を抜かした本物のアスナに、バトラーがウィンクした。

アスナ「Σくぅ…!ぜんぜん台本通りに進まない、アクシデントだらけ」

持ち直したアスナは頬を両手でバチンと叩いて気合入れ直した。

…そこで気づいた、

舞台袖には、祭り運営委員では見た事ないスタッフがパネルなどの大道具、

大玉やアイテムボックスなどの小道具を動かそうとスタンバイしている。

彼らはきっと、バトラーが出す舞台転換の合図を待っているのだろう。

アスナ「…ここから先、更に何が起きるの?」

バトラーは微笑んだ。

フエン町長は、ハッとして喋った。

フエン町長「マジックショーが始まるのかね?…ぜひ客席から見たいですな!」


バトラー「Of course, OK yes…!!」


バトラーはステッキを持ち上げると、宙に大きく、まるい輪を描いた。

輪は光ってフワフワ動き、動くうちにシャボン玉のような球体になった。

バトラーはそれをいくつも描いてつくった。

マツブサ「綺麗ですね〜、でも増えすぎじゃない?」

むしろバトラーは、ステージ上をシャボン玉だらけにしてる。

ホカゲ「うお」

大きなシャボン玉は、ホカゲたちステージ上の人たちのもとへフワフワやってきて、

触れても割れることなく、接触したひとをシャボンの中へ取り込んだ、

アスナ「えっ浮くんですか!?」

バトラーはアスナにだけハート型のシャボンをつくってくれた。

アスナ「あ、ありがとうございますー!」

バトラー「どうか、楽しんで。My lady」

ついにバトラーの姿も泡につつまれ見えなくなってしまった。

シャボン玉は人を乗せたままフワフワ浮いて、客席へ。

空席となってた最前列の関係者席へ運んだ。

正確な位置でパチンと割れて、みなそのまま着席した。

ホカゲ「博士はエスパーか?すげえ」

マツブサ「子供の頃なら嬉しかったでしょう…さすがに恥ずかしいね」

ホカゲ「もはやオレ、羞恥心はオフりました」


ステージ上からシャボン玉が消えていくと、

金の檻はそのまま残ったが、セットが西洋風へ様変わりしていた。

温泉街の祭りのわけだが、フエンに媚びる気はないらしい。

最後のシャボン玉が降りてきて、パチンと割れると…

いつの間にかマジシャン衣装…白の燕尾服姿となったバトラーが、

ステッキを抱えてお辞儀していた。


カゲツの声『Ladies & Gentlemen !! お待たせしました、

コンテスバトル・グランドフェス五部門覇者の天才コーディネーター、

マジシャン…グレート・バトラーッ!!』


バトラー「…ステージ ON!」


彼が顔を上げると、グラエナが寄ってきて、

預かってた白のシルクハットをトスした。

バトラーはハットを受け取ると、前後に振って中から蝶を1匹飛ばした。

アゲハントだ…「モーン」と鳴いてるのは気になるが、

銀に輝く鱗粉を振るいながら優雅にステージを舞った。

その様はまるで妖精。…アゲハントの残念な顔は見ないでおこう。

一度降りてきて上向くグラエナの鼻先をくるくるまわり、

最後に金の檻の上で羽を止めた。


カゲツの声『そしてあの金色の檻に閉じ込めたのは、今日のバトラーの助手!

千の顔を持つ変装の名人だけどイタズラばっかりしてるから、

こうしてバトラーに閉じ込められちゃったんだ、良い子はマネすんなよ〜!!』


檻の中の偽物は、アスナの姿から金髪の綺麗なお姉さんに変わってる。

赤の衣装が何ともセクシー!手をヒラヒラ振ってみせてお客をメロメロにした。


 客席のワタル「イタズラどころじゃねぇよ、手配中の大泥棒だあの野郎め」

 客席のアスナ「Σ何てセクシーな」


バトラーは先程施錠した南京錠の鍵を取り出した。

助手はじーっと檻の中からそれを眺めてる。

バトラーがすっと鍵を持ち上げてみせると、助手もそれを欲しそうに大きく頷く。

そういえばこの鍵が食べれるかも!そんな動きをしたバトラーは、

パクっとかじって大事な鍵を真っ二つにしてみせた。


カゲツの声『おやおや、鍵を食べちまったよ。

まっ、害がないならいいんだけどよ。

グレート・バトラーはイジワルか?』


助手はプンスカ怒って檻を握りガタガタ揺らした。

けっこう怒ったので、檻のまわりに一瞬だけ火ついた。

助手も驚いたが、休んでたアゲハントも驚いた。

「メタモーン」とか鳴きながらひらひら舞って、天上へ逃げていった。


カゲツ『うーん、助手のねーさんはいい顔してるな、いいぞ!いい感じだぞ!』


 客席のホカゲ「…このカゲツ先生のナレーション、いるのか?」


次に、一匹のバネブーが頭に無茶な大きさの玉をはめてやってきた。

ぴょこぴょこ跳ねて頑張って運んできてくれたが…こぶたの顔はやっぱり残念。

バトラーの傍で大玉をつるりと落とすと、

バネブーはブーピッグになり、しっぽを更に丸めて逃げてった。

バトラーは手を貸し、グラエナを素早くこの大玉へ乗せた。

グラエナは大玉を転がしながら、主のまわりを一周した。

…お上手!拍手が上がる。

バトラーが小さなボールを取り出し、ジャグリングをはじめた。

最初は一個、分裂して二個…三個四個…おや、尖った物にすり替わってる、

危ない、あれは短剣だ!

ちなみにグラエナの乗る大玉、所々に穴が在り、

そこへ向けてバトラーが短剣を投げはじめた!

鋭い短剣はトスっ…トスっと刺さっていく。

グラエナはヒヤヒヤしながらバランスとる。

ああっ…と!いつにバトラーが短剣で当りを刺した!

グラエナがキャウキャウ慌てるうちに、大玉が解体して、

中から巨大なドラゴン・ボーマンダと、金銀財宝が飛び出てきた!

ドラゴンは大玉のなかで眠っていたようで、突然召喚されて怒ってる。


 客席のワタル「うおーっ 見事なサイズのボーマンダじゃないか」

 専門家のワタル氏も太鼓判押した。

 客席のワタル「マグマ団最強トレは、やはり博士だな…」


一方お宝はどんどん湧いて増えていき、ステージ全体が財宝部屋になった。

これは夏のお子様仕様で、財宝部屋とそれを護るドラゴン設定だ。

(女性のお客様が多い場合、ガラス玉からお花とキルリアが出てきたりします)


カゲツ『おっと?檻の中で助手が目を輝かせているぞ?』


捕まりっぱなしの助手は、セクシーな具合にお宝に熱視線を送っている。

その欲しがりな視線に誘惑されて、ボーマンダは勢いよく"かえんほうしゃ"した。

ド派手な炎が爆発し、上空から火の粉が輝き落ちてきたが、

バトラーはよいしょとステッキを広げて傘にして、

涼しい笑みを浮かべてやり過ごす。


カゲツ『おーっと、グラエナは熱にやられたか?具合悪そうだぜ』


グラエナの様子がおかしい…前足で口元を押さえてる。

もうダメ!口からピョコっと何かを出した!

バトラーはそれを受け取り持ちかざして見ると…?

どうやら失ったはずの、金の檻の鍵だ。


カゲツ『どうしてお前さんが持ってんだー!いや、食ってたんだ?』


金髪の助手は、檻の南京錠を開けるよに必死に手を振る。

そんな金髪美女にメロメロだったボーマンダが動いた!

巨大な翼を広げ咆哮すると、飛び立った。

火を噴きながらステージ上を旋回して助手の入った檻の上にドシっと降りてきた。

おっとこれはまずい、通常より大きなボーマンダの重量に金の檻が悲鳴を上げた、

美人助手が中へ閉じ込められているというのに、檻がダメになりそうだ!

ドラゴンの重さと熱で上の方から変形してきてる…!


カゲツ『こりゃ絶体絶命…!もって3分ってところか!?』


バトラーのグラエナが財宝の中をせっせと掘って何か掘り当てた。

バトラーが呼ばれて引き上げると、なんと、大きな砂時計だ!

バトラーはその砂時計を逆さにし、きっちり3分計り始めた!


カゲツの声『さあ、本当に時間なないぞ!失敗したらペシャンコだ!!』


ボーマンダの炎を避けながら、檻を開けて助手を助け出さなければ!

バトラーは上着を探って、いろんなアイテムを放りだした。

モンスターボール、おもちゃのラッパ、びっくり箱、お風呂のアヒル、

グラエナの骨おやつ…は、グラエナが咥えて逃げてってしまった。

バトラーは両手を上げて、やれやれと首を振った。

おっと、エネコドールだ…が、また顔が残念なやつだ。

バトラーはステッキをまわして、エネコドールにコンと触れた。

「モーン」エネコドールがおおかた本物のエネコになって動き出した。

エネコは自分のしっぽを追いかけてその場でクルクルまわりだした。

クルクルクルクルどんどん回転が速くなる…

おや、回転してるのはさっきの大鏡じゃないか!

クルクルクルクル回転してピタッととまった。


カゲツの声「ジャーン!」


大鏡の前には、ホウエン四天王のカゲツがニヒルな笑みを浮かべて立っていた。


 客席のホカゲ「うおーカゲツ先生!」

 客席のワタル「なぬ」


カゲツ「フエン観光大使の四天王のカゲツだぜ」

これはゲストの助っ人召喚だ!

バトラーとカゲツはガッシリ握手を交わした。

カゲツ「ちょっとオレ、本気出しちまうぜ!」

カゲツを出した鏡は縮んでいき、ゴージャスボールにコロンとなった。

バトラーはそれを左手で拾うと、腕から肩へ転がして右手でカゲツへ渡した。

カゲツ「さあボーマンダ、俺とお前で」

カゲツがボールを投げた、

カゲツ「この七夕祭りでしか出来ない戦いを楽しむとしよう、ぜッ!」

本物だ!四天王カゲツの本物のアブソルだ。


 客席のホカゲ「ででで、でけー!!なんだあのアブソル」

 客席のアスナ「あ、あ、あれが四天王のアブソル!!」

 その横でワタルがふくれてた。

 客席ワタル「どうして俺は誘われんのだ…チャンピオンなのに」

 客席のホカゲ「いつもやりすぎるからだろう…」


カゲツのアブソルとボーマンダの戦いが始まった。

カゲツがドラゴンの注意を引き受けてくれてる、そのうちに…

バトラーはそーっと行動を開始した。

鍵を持ちながら、金の檻へ近付いていく。

ボーマンダの重みで檻は今にも崩れそうだ。

金髪の助手がハラハラしながら待っている…もう少し、もう少し!

放ったらかしの砂時計も飛び跳ねながら残り秒数をお知らせしてる。

ここでカゲツのアブソルがボーマンダに勝利したようだ、

切り裂きがヒットし、ボーマンダの切られた体から火が噴き出す。

同時にバトラーが鍵を使い、手を差し出して檻から助手を救出した。

その瞬間、金の檻はペシャリと潰れた。

…危機一髪!

バトラーと助手は慌ててその場を後にした。

使命を終えた砂時計はパタリと床へ倒れた。

それを見た瀕死のボーマンダは悔しそうに炎を吐いた、

そして最後の力を振り絞り、ふたりめがけて這いつくばって追ってくる。

どうやら恋路を邪魔したバトラーを、最期の道ずれにするつもりだ!

…逃げ切れない!とっさに助手がバトラーの身体を突き飛ばし、

彼の代わりにボーマンダにのみ込まれてしまった!

その瞬間ついにボーマンダは爆発した。

大きく破裂したあと、お宝とともに忽然と消え去った。

つまりボーマンダが爆発したあとの場所には、何も残らなかった…


カゲツ「なんてこった」

バトラー「どうしてこうなった」


 客席のワタル「博士がねーちゃん閉じ込めて、ボーマンダ出したからだろ?」

 全ての観客に、ワタルは「し〜!」っと怒られた。


カゲツとバトラーは悲しみにうな垂れていると、

客席の上空、つまり天から細かい星が流れてきて、

ステージの上に少しずつ積もっていった。

☆はすべてキラキラ光り、ステージ上が輝き始める。

どこからともなく白のスモークが現れて、幻想的な雰囲気を演出する。

突然客席の後ろをスポットライトが照らした。

そこにステージ上から消えた、金髪の綺麗な助手が立っているじゃないか!

ジャジャーン!と、助手は高らかに手を上げた。

そして不思議な力で飛んで戻ってきて、ステージの上のバトラーと手を取り合った。


カゲツ「おや、万事解決か?助手も無事に改心できたみたいじゃねぇか…、

これに懲りて、二度とイタズラはすなよ!あんたら火傷とか大丈夫か?」


バトラーと助手は、ふたりそろって手で「OK」ポーズを作った。


カゲツ「まさに再会、七夕祭りに相応しいラスト!」


バトラーと助手は深々とお辞儀して、軽くワルツを踊ってみせた。

カゲツは手を振りながらお別れのご挨拶した。

カゲツ「それではまた、天の川に橋のかかる来年〜!」


キラキラ輝くステージに、静かに幕が降りていった。

グレート・バトラーのマジックショー おわり。


「よかったよかった…」「ねえ、ほんとうにねぇ…」とか、

純情ハートを持つご老人方のすすり泣きが響いた。


客席ではホカゲが衝撃の顔して拍手してた。

ホカゲ「まんまと感動しちまいました」

アスナ「すごーい、まるで七夕のポケモン映画みてるようだったよ〜」

ホカゲ「おれは金髪の美女にメロメロです、ボーマンダ安らかに眠れ…」


ステージの余韻に浸るホカゲたちのもとへ、テテテッとひとり駆けてきた。

万遍の笑顔を浮かべたバンナイだったが、

もの凄い服を着ている…!


ホカゲ「Σでたまじかその格好まじだったか」


さて皆さん、ご注目…!

バンナイ、非常にキワドイ衣装を身につけている!

紫のマントを巻きつけ、中には片腕を大きくカットした燕尾服(夜なので)、

タイとシャツ(短い)、細身のズボン(浅履き)…何より、おへそ。

この衣装、田舎の夏祭りには刺激が強すぎるかもしれない、

アシメなデザインがバンナイらしいが、肌色の面積が特に多いのだ。

黒いシルクハットまで被っているが、いま、

イタズラっぽい笑みを浮かべながら、つばを軽く持ち上げ挨拶した。

…これはどこかで見たような。


バンナイ「こんばんは。イタズラ好きのピクシーです…なんつって」


ホカゲ「いや待て、ちょっと待て」

ホカゲは思わずツッコミ入れた。

ホカゲ「イタズラ好きのピクシーってさっきのあのアレだろ金髪美女」

バンナイ「はいはい、そうです俺です」

ホカゲ「Σはえ!?」

バンナイ「だからー俺俺、俺だよおれ〜ピクシー☆」

アスナ「すすすごい衣装ですね、マツブサさんとこのセクシーなお兄さん」

マツブサ「いや〜!好きですねぇ〜!!」

横からマツブサが入ってきた。

ホカゲ「マツブサ、セクハラよくない…が、あれはしゃーない」

若旦那「Σバ、バンナイ…何て姿に…!?」

そのまた横にいた若旦那さんはうろたえヨロめいたので、

傍の漢方屋の孫が支えた。

バンナイ「どう?良かったでしょ、即行で作ったんだけど完璧!」

ホカゲたちには意味が通じず、みな「?」と首を傾げた。


ワタル「…いつもあの姿でいろよ、さすがお前の女装、可愛かった」


ふてくされながらワタルも寄ってきた。

バンナイ「Σ変装な、女装じゃなくて変装な!!」

ワタル「結果、女装だろ!?」

バンナイ「あれはバトラーさんの昔のオンナですよ、むかし助手してたんだって」

ホカゲ「Σなんですと、昔の恋人連れ込むなんて博士奔放すぎませんか…!?」

バンナイ「だからー、通じないなぁ。まあ別にそれでもいいか…」

ワタル「信頼関係が築けてないな、誰もお前を信じない」

バンナイ「Σ言い方ね!?」

ホカゲ「ところでバンナイ君は何でそんな謎衣装着てるんだ?」

バンナイ「本当は舞台で正体明かしするはずだったんですけど…」

ホカゲ「?」

バンナイ「さすがに雰囲気がねぇ、ロマンスじゃちょっと違うなってね〜」

若旦那「Σやはり…あれは…きみが」

バンナイ「まあでも?せっかくステージ衣装を着飾ったので…」

バンナイはイタズラっぽく笑った、

バンナイ「拝ませてやりに来たよ、…どう?若旦那さん」

若旦那「Σと、とってもいいです…!」

バンナイ「じゃあ後で、拝殿裏でな」

バンナイはそのままステージ上へ登った。


バンナイ「お客さーん!このステージは盗まれ…あ、間違えた。消えまーす!」


バンナイが片手を上げた、5!4!3!2!1…

ピカッ!と眩い閃光がおきた。

誰もが目をつぶって、再び開いたときには、ステージは無くなっていた。

かわりに、同じ場所に和風の"祭りやぐら"が立っている。

実行委員のアスナが飛びあがった。

アスナ「Σハッ!!いまの私の仕事だったのに…楽しんじゃって忘れてた」

祭りやぐらの上に、カゲツがマイクを持ってやってきた。

アスナは慌ててそこへ向かった。


カゲツ「おいおい大丈夫か、息上がってるぜ?」

アスナ「これが最後のお役目なので…ハアハア」

カゲツ「ほら、このマイク使えよ」

アスナ「ありがとうございます先輩!さて、七夕祭りもラストです!!」

カゲツ「いや待て、ラストの前に俺のポケモン講座を…」

アスナ「最後は全員参加型の、フエン音頭で幕を閉じたいと思います〜!」

カゲツ「あ、いや、だから俺はポケモン講座を頼まれてて」

アスナ「準備が整うまで、四天王カゲツ先生がポケモン講座をしてくれます!」

カゲツ「あ、そういう事ね…Σって、扱いひどくね!?」

四天王カゲツのポケモン講座。

マイクを取ると、こどもたちがワーっと寄ってきた。

だが、その最前列に…

ワタル「やってみろよ」

物凄く、人相の悪い怪獣がふんぞり返って場所取っていた。

カゲツ「うわー…や、やりずれー。そこの大きなおともだち、お手柔らかにね!」


さて。祭りの〆であるフエン音頭の準備だ。

芋色のマグマ団員たちが力仕事を頑張ってる。

長椅子を並べた客席を全て取っ払い、広場をつくった。


マグマ団員「もうOKっすよ!」


アスナ「はーい、もう大丈夫ですカゲツ先生!」

カゲツ「え、あ、そう?」

こどもまみれのワタル「参考になりましたァ〜カゲツ先生」

こども「ぴかちゅう!ありがとうぴかちゅう!」

カゲツ「Σ誰がピカチュウ、え、おれ!?」

ワタル「なんだよガキども、じゃあオレはー?」

こども「かいじゅうー!!わるいやつー」

ワタル「そろそろ…破壊光線、見せてやろうか?」

カゲツ「Σやめろーーーーー!!」

アスナ「Σはやく音楽かけてーッ!!」


和太鼓の音がドンドン響く、

しぶーい、フエン音頭の曲が流れて、参加者一同は踊りだした。

祭りやぐらの前方広場をくるくると踊ってまわるのだ。





【フエン音頭・南側】


先陣切ったのはマグマ団下っ端たちだ。

予めリーダーに踊りを教えて貰っていたので、みなパタパタ踊りだした。

マツブサ「そうそう、そのままそのままトトントパ!」

下っ端1「はい、リーダー!」

下っ端2「お。ゴンザレス、上手だな!」

ゴンザレス「フエン音頭は、フエン音頭は、フエン音頭は癒しの鼓♪」

下っ端3「確かに上手いが、最高に腹立つな…」


フエンのじじ「ほっほ。座ってばっかで体ばきばきじゃ…」

フエンのばば「ほえ、お隣のじさまがいけめんに見えてくる…」

フエンのじじ「なんじゃと…わしも隣のばさまがせくしーびじょに…!」

フエンのばば「ふ、ふえんのこいの花火、打ち上げちまうかえ」

シルバーナース「しぇー、しぇかんど・らぶじゃ…!」


アスナ「ぼく、フエン音頭、踊れる?」

こども「うん!ハジツゲ踊りといっしょでしょー」

アスナ「Σはぅあ!!??」

こども「ぼくハジツゲシティから来たけど、振り付け一緒だ、ぱくりだ」

アスナ「Σち、ちがうよ!うちが元祖、あっちがパクリなのー!!」

カゲツ「Σ滅多な事いうなよ新米」

アスナ「あ、ピカチュウ先輩!」

カゲツ「ピカチュウちがう!…って、誰がどこで聞いてるかわからねぇぞ」

アスナ「ハジツゲ踊り…曲は違うけど、うちの踊りをマネた振り付けだよ!」

カゲツ「煙突山挟んで隣どうしの町だよな、ライバル関係って厄介だわ」

アスナ「ほら、カゲツさんも踊ろうよ!絶対フエンの方が好きになるよ!」

 飛び出たゴンザレス「Σお、教えましょうか…!?」

カゲツ「あ?なんだテメェいきなり、シメるぞ?」

アスナ「Σギャー!すいません!!ハジツゲの皆さんごめんなさい!!!」

カゲツ「Σお前じゃないっ!!」





【フエン音頭・東側】


ホカゲ「おーい、トウキさーん迷子かー」


焼きイカをはむりながらホカゲがひとり、消えたトウキを探していた。

ワタル「シバー、どこ消えたー」

そこへこどもにあちこちひっぱられてるワタルが出てきた。

こどもはみんな片手にリンゴ飴を持っている、

ワタルに買って貰ったようだ。

ワタル「なんだホカゲ、迷子か?…いでで」

こども「かいじゅうー、かいじゅうマントはー?」

ワタル「Σ怪獣じゃねぇ!!」

こども「マントわすれものー?はかいこうせんでないの?」

ワタル「Σ出ねぇよ!!」

ホカゲ「うおワタルさん、ガキどもにモテモテですな」

ワタル「どうだ!オレのファンどもだ!ハッハッハ!」

こども「ちがよーぼくドラゴンだったらゲンジさんのふぁんだよ」

ワタル「なぬ」

こども「ゲンジさんにやっつけられちゃえー」

こどもたちはワタルの足をゲシゲシ蹴って逃げてった。

ワタル「…。」

ホカゲ「ワタルさん…どんまい!」

 遠ざかるこども「リンゴ飴ありがとー!」

ワタル「今度ゲンジだっけか?ブッ潰す!!そしたらオレのファンだぞ!!」

 遠ざかるこども「勝ったらいいよー」

ワタル「いよーし!待ってろや、サイユウリーグ」

ホカゲ「やめてください。生態系壊すな、破壊光線怪獣よ…」


 〜 〜 〜 ドンッ

 ドン! ドン!


花火だ。

フエン音頭の最中、夜空に大きな花火が打ちあがらった。

ワタル「ド田舎フエンめ、花火でオレの天下統一を祝福とは粋じゃねぇか」

ワタルは祭りやぐらめがけて走っていった。

ワタル「オレについて来い、ホカゲェ!!」

ホカゲ「うーん…めんどいし、逃げよう」

…サササ。

マグマ団のホカゲは逃げ出した ▼





【フエン音頭・北側】


浴衣姿に戻ったバンナイは、フエン音頭に参加せず拝殿の方へ抜けていった。

ここは静かだ。

観光で来た若いカップルたちが、イイ感じにウットリしようとしてたが、

結構フエンのじじばばの目があり、居心地悪くなり祭りへ戻っていった。

バンナイは拝殿の裏へまわって、そこで待ってた若旦那さんへ声をかけた。


バンナイ「やあ、遅くなりました。ミスターフエンおめでとうございます」

若旦那「あ…ありがとう」

バンナイ「結論からいいます、」

若旦那「Σま、まだ心の準備が…!!」

バンナイ「俺はあんたとは一緒にいれません!」

若旦那「Σ待った無し!!そ、そ…、そうですか…」

バンナイ「俺さ、これでも真面目に考えたんだよ…全部バラすよ!」

バンナイは若旦那さんに にじり寄った。

バンナイ「前にね、あんたのとこの客で綺麗な女が来ただろう、あれ俺ね」

若旦那「…何となく、そうなのではと思ってたのです」

バンナイ「あのイイ女、ピタリと来なくなった」

若旦那「…なったです」

バンナイ「そのあと入れ違いで、俺が客で通いだした」

若旦那「…です」

バンナイ「ね!」

若旦那「…はい」

若旦那は深いため息をついた。

若旦那「きみにその女性の事を相談してるうちに気づいたんだ、同じ人かなと」

バンナイ「ご明答!そう、そうなんだよあの女は俺で、俺があの女」

若旦那「…どうしてそんな事をしたんですか」

バンナイ「それは、イタズラ…!」

若旦那は切なそうに「やっぱり…」と嘆いた。

バンナイ「でもなんかさ…、あんた凄くいい人だから、だめだなと思った」

バンナイは哀れな若旦那さんの肩を抱いた。

バンナイ「俺はね、泥棒なの。遠い地方でずっと盗みをしてたんだ」

若旦那「…変装名人なのは普通じゃない。そうか、そういう人でしたか」

バンナイ「俺は別にね、悪くはないの。ただ、自分のやりたいようにやるだけ」

若旦那「…自分のやりたいように?」

バンナイ「俺は自分の好きなものが好き、欲しいものは手に入れる」

バンナイはグッと若旦那に迫った。

バンナイ「若旦那さんも、欲しい物は手に入れたいだろ…?」

若旦那「は、はい…」

バンナイ「それでねぇ、俺…も若旦那さんが欲しくなっちゃったんだけど…」

若旦那「え?」

バンナイ「俺が良いなら、相当覚悟してもらわないといけねぇぞ…」


漢方屋の孫「ちょっと待った!!…煎餅屋には無理だろ」


若旦那「Σな、何故ここに…!?」

バンナイ「…。おっと、遅れてきた男前だ、何か用ですか?」

漢方屋の孫「何でもいい!とにかく、煎餅屋の大事な跡取りをたぶらかすな!」

彼の逞しい腕が、若旦那さんからバンナイを引き剥がした。

若旦那「ちょ、いま、後にしてもらえます?はじめて良い雰囲気になれたのに…」

漢方屋の孫「だめだ。お前、真面目なんだから家業の事だけ考えてりゃいいんだ」

若旦那「久しぶりに顔を出して、何ですか!!」

漢方屋の孫「煎餅屋!何か俺、間違ったこと言ってるか?」

バンナイ「ああその通り。そうさ若旦那、あんたは真面目に昼働きな」

若旦那「はあ…」

バンナイ「四六時中一緒に、ってのは無理。でも、たまになら遊んでやるよ」

若旦那「はい?」

バンナイ「だから、遊ぼうぜ、たまに。もちろん深い意味でな」


漢方屋の孫「はい…?」


バンナイは再び若旦那に寄っていき、耳元で何か囁いた。

若旦那とバンナイで相談がまとまったようだ。

ふたりは握手をして若旦那はそそくさと帰っていった。

ポツンと残った漢方屋の孫を、バンナイは横目で見た。

バンナイ「残念だったな。あんた、何でここにいるの…?」

漢方屋の孫「いや、俺は…あいつを探して…」

バンナイ「ふーん。まあ、いいや。今日はあんたで楽しませてもらったよ」

漢方屋の孫「Σ美形番付の俺の偽者、あれはお前だな!?」

バンナイ「大変だったんだ、あんたが大遅刻するから。舞台も変わるしさ」

漢方屋の孫「あんな恥ずかしい企画、出たくないだろ…大衆の笑い物だ」

バンナイ「…で、遅刻?シャイだねー」

漢方屋の孫「…う゛」

バンナイ「それで俺が変わってやったんだ、見ず知らずのてめぇの顔でな」

漢方屋の孫「頼んでない、迷惑だ!!」

バンナイ「流石にこんな癇癪持ちだと知らなかったけど、まあ顔は好みだ」

漢方屋の孫「Σな、今度は俺をからかうつもりか!!」

バンナイ「へー、今度は若旦那とてめぇと俺とで三角関係の図か面白れぇや」

漢方屋の孫「違う、だめだ、絶対だめだ!!」

バンナイ「やろうぜ!俺、若旦那は真面目すぎてキライでさー」

漢方屋の孫「Σ嘘つきか、お前、サイッテーの野郎だな!!」

バンナイ「そんな褒めないで〜、俺ってそういう人間なので〜★」

漢方屋の孫「Σおまわりさーん!ここでーす!!」


戻ってきた若旦那「Σちょ、何してんですか…!!」


ケリつける訳でもなく、清算する訳でもなく、続行です。

全く反省ないバンナイの暇つぶしであった。





【フエン音頭・西側】


ここではトウキとシバが対峙していた。

ふたりの間を、クレープの紙くずがカササ…と転がっていた。

トウキ「シバ、お前と決着をつけねぇとな…」

シバ「ああ。白黒はっきりつけよう…」


久方ぶりの再会だが、ふたりとも緊張の面持ちだ。


トウキ「多くは語らない…」

シバ「ああ、次で決めよう…」


せーの!


トウキ「これを受け取れぇぇぇぇぇ!!!」

シバ「会いたかったぞトウキィィィ!!! …なにっ?」


 果たし状


トウキ「日時は追って連絡する、逃げるなよ!!」

シバ「な、な、な…恋文か??」

トウキ「Σちがうーーー!!!どうしてお前はそうなんだ、文字読めよ」

シバ「なんだ、違うのか。ではいらん」

トウキ「捨てんなー!?」

シバ「なんだ果たし状とは、兄弟子にむかい、無礼だぞ」

トウキ「お前と縁はこれっきりだ、いや、それっきり?うーん」

シバ「自分でもわからないならそれは…兄弟子への愛だな」

トウキ「Σ違うーーーーそういう所がほんとめんどくせえ!」

シバ「とりあえず、このあとフエン温泉で修業しないか?」

トウキ「いいな! って、違ぇぇぇぇぇ!!お前のペースに乗りたくない!」


エンドレス!

これがツッコミ不在のシバトウである。





【祭りやぐら:裏】


エリート団員1「一気にいけ、一気に」

エリート団員2「音楽の尺に間にあうだろうか…」


ホムラ「問題ない、このまま花火を全て打ち上げれば仕事は終わりだ」


今夜の祭り、裏方で指示を出していたホムラである。

フエン音頭と花火の打ち上げで本日の仕事は終わりである。

あと一息…!

沢山の機材に囲まれたこの場所は物凄い暑さで、皆、浴衣の上は剥いでいる。

流れ落ちる額の汗を拭うホムラに、紙コップの水が手渡された。

ホムラ「すまない」

差し入れたのはバトラーだ、再び浴衣姿に戻っている。

バトラー「お疲れ様です」

ホムラ「駄目だろ、暑いから入ってくるな」

バトラー「体調を気遣ってくれるんですね」

ホムラ「はあ。概ね終わりだ…、少し出てくる」

 エリート団員1「お疲れ様です!!」

 エリート団員2「お任せ下さい!!」

ホムラは汗を拭き、浴衣を直すと灼熱地獄の舞台裏から出てきた。

ホムラ「涼しい場所へ…、いいからついて来い」


ホムラとバトラーは連れだって歩き始めた。


ホムラ「世話になったな」

バトラー「え?」

ホムラ「…手品ショー」

バトラー「いいえ、私の方こそ生き返った気持ちですよ」

ホムラ「…ふっ、あんた本当に死にそうだったもんな」

バトラー「ホムラくん…」

ホムラ「?」

バトラーの顔が近づいた。

バトラー「凄く、汗臭い…フフッ」

ホムラ「…。」

ホムラはムスッとして先にどんどん歩いていった。

バトラー「冗談だよ、冗談じゃないけど…ハハッ」

バトラーが珍しく大笑いした。

ホムラが屋台でなにか買い、バトラーを手招きした。

ホムラ「…見ろよこれ」

バトラー「ワォ」

ホムラが飴細工を買ってくれた。

バトラーはジラーチに因縁があるので、ちょっとしたイヤミ返しのつもりだろう。

バトラー「きみは本当に愉快な子ですね」

ホムラ「…子、じゃないです」

ふたりはベンチへ腰を下ろした。

バトラー「ホムラくん、今夜だけは…他の事は考えなくていいですか」

ホムラ「他の事?…ああ、いいんじゃないか」

バトラー「では、頂きますね」


 ぱくっ


飴細工のジラーチは食された。

ホムラ「…食うのかよ、それ」

バトラー「誰かに奪われるのは、いやですからね」

ホムラ「…確かに」

バトラー「そうそう、この白い浴衣…ありがとう」

ホムラ「ああ」

バトラー「しかし、そもそもね…きみ、私の性別と年齢を覚えてます?」

ホムラ「…。」

ホムラは沈黙した。

バトラーの浴衣はホムラ自ら呉服屋へ出向き、選んだものだ。

返答を困ってるホムラの肩に、バトラーが寄り添った。

バトラー「フフ、まあいいよ。このまま無事に12時が過ぎればいい…」

ホムラ「不安か?」

バトラー「不安です」

ホムラ「では、このまま居てやる12時までな」

バトラー「…きみ、珍しいですね。暑さでおかしくなったの?」

ホムラ「そうかもな、たまにはいいだろ」

バトラー「いいものか…私の心臓が持ちません」

ホムラ「…メシでも食いに行かないか?」

バトラー「Σなぜ、いま?」

ホムラ「俺はずっと考えているぜ、どうやってガリガリのあんたを太らせようか」

バトラー「困ったな、ではゆっくりと健康になるとしよう」

ホムラ「俺はせっかちなんじゃ、なかったか」

バトラー「そう、むかし待てを…」

ホムラ「教えわすれただろ…」





最後に特大の花火が上がった…。


「これで全ての催しが終了、フエン温泉七夕祭り無事閉幕です。

フエンに住む人、久々にフエンへ戻った人、全ての人に良い夏が訪れますように。

ついでに僕に、良いことが起きますように…」

以上、祭りやぐらの上からマツブサより。

「そうそう、明日は月曜日!また一週間みなさん頑張りましょう!!」


アスナ「なんか今日はマツブサさん祭りだったな…」

ホカゲ「さいごのひとこと、まじ、余計な」

ワタル「ザマみろマグマ団、俺は夏休みー」

ホカゲ「まじ爆発しろ、本州帰って下さい」

ワタル「今年も世話になるぜ文句ありますか」

ホカゲ「ないです、宜しくお願いします」





おわり