フエン温泉七夕祭りB



日も暮れて。

祭り提灯がぽぽぽっと灯り、フエン温泉七夕祭りの夜が始まった。


ホカゲ「いかり饅頭うめー」

トウキ「フエン煎餅もうまいよ」

ホカゲ「オレは甘党」

トウキ「まあ聞いてくれよホカゲくん」

ホカゲ「なんだろう」

トウキ「フエン煎餅さ、マヨ味とかケチャップ味を出さないかな」

ホカゲ「Σうお!トウキさん、天才か!!」

トウキ「紅白でセットにして、めでたい感じだせるんじゃねーかなって」

ホカゲ「Σオレ、マヨがいい!トウキさんとシェアできるな!」

トウキ「今度、若旦那さんに言っといてくれよな!」

ホカゲ「じゃあ今度はオレのひらめきを聞いてくれよトウキさん」

トウキ「よし、なんだろう!」

ホカゲ「カゲツせんせー味のコラボはヤメて、いかり饅頭味コラボすべき」

トウキ「あまいの?」

ホカゲ「イエスあまい」

トウキ「うーん…イマイチ」

ホカゲ「Σノー天才」


マグマ団・出店巡回隊のホカゲ隊長が、食べ歩きパトロールを進めていた。

ホカゲは芋色の浴衣を派手にクラッシュさせ、羽織っている。

浴衣に散らした装飾品も歩くたびジャラジャラと音を立てる…、

いま、道行くフエンのジジが「愚連隊じゃ」と眉をひそめたがホカゲは気にしない。

トウキも指定の芋色浴衣を借り受け、嫌な顔ひとつせずに着てくれたのだが、

袖が邪魔だと肩までグイッと巻くし上げ、見事に鍛えられた腕を出してくれてる。

いま、道行くフエンのババがこの生腕を拝んだが、気にもとめないトウキである。


ホカゲ「マヨップといえば、からあげ食いたいですな…どっか出店ねーかな」

トウキ「いま通りすぎたよ、唐揚げ串だったかな」

ホカゲ「ナイス、トウキさん!」


 ちょっと戻って からあげ GET!


唐揚げ串屋「レモンかけちゃう?黒ゴマにしとく?…え、マヨは無い」


ホカゲ「まじか。からあげマヨ文化を知らんとは!!」

トウキ「どうどうホカゲくん」

ホカゲ「ちくしょーからあげぐしうめー」

トウキ「唐揚げ食べて、あいた串のスペースに、いかり饅頭を刺すなよ」

ホカゲ「手で持つのが つかれたので…」

トウキ「ていうか何でフエンで いかり饅頭を配ってんだよ…」

ホカゲ「例によってシバが送ってきたらしいです。マグマ団で無料配布中!」

トウキ「フーン(無関心)」


沈黙…。シバの話題はやはりNGのようだ。(5話参照)


ホカゲ「Σ初めて見るトウキさんの冷たい表情…!」

トウキ「ホカゲくん、さっきは射撃を外しちゃってごめんな」

ホカゲ「だいじょうぶです、オレこそ店主に直撃させてすませんした」


先程の射的屋の1等賞は凄かった!

なんとシルフ製!いいですか、

なんとシルフ製の ワタルカラーのマスターボール だったのである!


射的屋「簡単にゃ渡せませんよ、え?ニセモノ?そんなら当てて確認してみな!」


見事に散財したホカゲであった。

ホカゲ「射的屋め、あとでホムラにやっつけてもらおう」

トウキ「あれは落ちないよ」

ホカゲ「大丈夫だ、あいつ平気で至近距離発砲のズルするからな」

トウキ「Σな、んだと…!」

ホカゲ「オレらマグマ団はズルしていーんだぜ…フフフ」

トウキ「じゃあホカゲくんがやってくれりゃあ、手間かからなかったのに」


沈黙…。


トウキ「あ!ほら!!…お、お面でも買うか!!」

ホカゲ「フーン(真顔)…顔隠すためすか。シバから隠れるためすか」

トウキ「Σそ、そんな事ねぇよ!?」

ホカゲ「構わんぜ、オレもワタルさんつー迷惑怪獣から身を守りたいです」

トウキ「うん、そうだ!そうしよう!!」


 お面屋さんで プラスル・マイナンのお面 GET!


お面屋「ごめんなさいネ〜!ピカチュウ面は人気で売り切れしてるヨ」


ホカゲ「ピカチュウ?おとこは黙って虫ヅラだ!」

トウキ「そうかな?」

ホカゲ「カイロスとヘラクロ面が良かった!バンナイ君に突撃してやりたかった」

トウキ「もう大人だろ、さすがに虫系は恥ずかしいな」

ホカゲ「Σまじか裏切りもの、オトナだろがこどもの心は忘れません」

トウキ「…虫系は女の子にモテないぞ」

ホカゲ「なんと軟派な…!で、いったいどれをつければ宜しくして貰えるのだろう」


お面屋「ピカチュウの系列でしょうネ、信じなさい…」


ホカゲ「そ、そんな軟派な…。Σでわ、オレはマイ…

トウキ「よし、マイナンつける!ホカゲくん、プラスルな!!」

ホカゲ「ナ… (Σおれマイナンのはずが…)」

トウキ「ん?何か言ったか?」


ホカゲがしゅんとした顔でプラスル面をつけたその後ろ…、

つまりお面屋さんの向かい側では、

ミニポケモン・ヨーヨーつりの出店に人だかりが出来ていた。


こどもたち「取ってよー シバたーん!」


七夕祭りにあわせてフエンの祖父母のおうちに遊びにやってきた、

都会っ子の孫軍団である。その中心にシバがいて、

五平餅を片手にヨーヨーつりのレクチャーをしていた。

五平餅の串の食べたスペースには、やはり いかり饅頭が刺さってる。


シバ「よく目をこらし、針の先をヨーヨーの輪っかの中へ通すんだ…」

おこちゃま1「見えないよー 夜目がきかないよーシバたん」

おこちゃま2「ピントが合わないよー 小さいのはダメなんだよー」

シバ「Σこども、それは老眼になったやつの言うことだぞ」

おこちゃま3「じーじが言ってたよー」

おこちゃま4「シバたん、取って取ってー!お饅頭ちょうだい」

シバ「Σわ、わ、わかった!から…髪を引っ張るな…」

おこちゃま5「おもちちょうだい」

シバ「Σなに!…お、おれの五平餅」


ヨーヨーつり屋のお姐さん「かわい(はぁと)」


そんなお子様にモテモテのシバを、背後から睨みつけてる男がいる。

本州王者のワタルである。


ワタル「あ゛ー焼き鳥うめ゛ーッ!!」


悔しそうに瞳を燃やしながら、焼き鳥ではなく手羽先を食いちぎっている。


おこちゃま6「こ、こわい…うわーん」

おこちゃま7「こわいよー…かいじゅうこわいよー」

運悪くワタルのそばでヨーヨー見物してたおこちゃまたちは泣きべそをかいている。

ワタル「まじでツマンネーフエン温泉七夕まつりー!!」

ワタルが大きく吠えたところで…


 アスナ「Σハ…ッ」


運悪く、フエンジムリーダーのアスナが通りかかってしまい…

運悪く、王者ワタルと目線がバチッとあってしまった…!


ワタル「…おう、お前。新米アス…! カ?

アスナ「はい、そうです! (オワッタ)」

ワタル「わかってんだろな、目が合ったら ポケモン勝負だーッ!!

アスナ「Σハイ先輩ーーーーー!」


ワタル先輩のハイパーボイスのあまりの大音波によって、

ヨーヨー釣りの水風船はバチンバチンと割れてゆき

頭上の商店街の提灯が大揺れし、こどもは大泣きした。

騒ぎを察したホカゲとトウキは、お面をつけたまま そそくさと離脱した。


ホカゲ「やっぱり怪獣だった」

トウキ「あれは出禁だな」


パトロールとか名ばかりで、ただのエンジョイ勢だったホカゲである。

ちなみにちょっと奥まった場所に、マニアックな出店がある。

大きな木の下でふたりの小太りのおじさんが客引く、きんのたまの屋台。

そして、なんか黒っぽい服をきた男が売る、コイキング500円の屋台。

殆どの客は素通りだが、両店ともにベテラン風ふかせてるアヤシイ店だった。


ホカゲ「ん… なんかどっかで見たような」

トウキ「うわ。(こんな海無い山奥でコイキング売ってるマヌケがいる)」

ホカゲ「な、なんと…黄金の水ポケの王様とな!500円だと!!」

トウキ「Σ絶対買うなよホカゲくん…! って、なんだろう…」

ホカゲ「なんでしょうな、このデジャビュな感じ…」

(5話参照)





【フエン神社 手前】


マツブサ「先にひとっ風呂浴びてきちゃいました」

ホムラ「…そうかよ(モグモグ)」

マツブサ「なんとも涼しげな浴衣姿ですね〜マツブサさん!」

ホムラ「…そうかよ(モグモグ)」

マツブサ「…。」

ホムラ「…。(モグモグ)」

マツブサ「Σホムラ君!さっきから何個食べてるのたこ焼き!」

ホムラ「黙れ、七夕祭りは始まったばかりだ…大将、つぎポン酢でくれよ」

たこ焼き屋「あいよっ!」

ホムラ「うまい」

マツブサ「でしょうね!」

ホムラ「そろそろ行くか、…おい、マツブサ」

マツブサ「あ!はいはい、そろそろ行きましょう…!」

ホムラ「?…何故、俺の手を握る。テメェ違うだろ、よくも毎年学習しねェな」

マツブサ「と、言いますと」

ホムラ「出せ、カネを。開け、財布を。こっちの大将に"1"払っとけ」

マツブサ「あ…ハーイ。諭吉さんですかね、毎年すこぶるお高いタコですよ」

大将「毎年スイヤセンね、頂戴しやす」

ホムラ「釣りはいらねェ」

大将「あい、毎年かしこまりィ」

マツブサ「別にいいもん」


 饅頭配りのゴンザレス「いかり饅頭〜いかり饅頭いらんかね〜」





【フエン神社 境内】


境内には、"夜のステージ"にあわせてお客がゾロゾロと集まってきている。

のんびり過疎村のフエンとは思えない程の客入り(人口密度)である。

入口の大鳥居の右手側に巨大なパネルが立っていて、

ここにフエン男子たちの写真がズラリと飾られている。

ほとんどに「落選」「落選」とシールが貼られていて、残っているのは三人のみ。

各写真の下に投票箱が設けられ、お客は鳥居を潜る前にこれに投票している。

本年度の"フエン美形番付"選考である。(※フエン漢方屋プレゼンツ)


漢方屋「今年は誰が獲るかいな」

シルバーナース「わしゃやっぱりフエンしぇんべえのあととりでしゅわ…」

漢方屋「若は殿堂入りが掛っとるからのぉ…わし、ホカちゃんに入れちゃった」

シルバーナース「ほえええ!…。…。…ダレ?」

漢方屋「ちょっとマイナー」


美形番付へ投票すると、境内奥へと導く提灯の灯りに沿って歩くよう言われ、

折り紙や短冊で飾られた笹の並ぶ道を進んでいく。

するとやがて小規模だが立派な野外ステージへ辿りつく。

まだ幕の降りてるステージにだけ屋根があり、

音響や照明器具の機材が配置されている。ホンモノです!

客席は野外で、舞台を見上げるように長椅子が並べられている。

ここが七夕祭り特設会場である。

バトラー博士の設計で、短期間で完成する即席ステージだ。

過去のマジックショーで、小規模な興業の際に使用してた物らしい。

即席と言えど歴代フエン祭りの特設ステージなんて目じゃない、

上手い具合にイルミネーションなんかも取り入れちゃって、

今年は一気に華やいだ。


移動してきたシルバーナース「め、めいどのみやげにいたしましゅ…」


実はこのシルバーナースことポケセンのジョーイさん。

フエンタウン連続勤務65年!(終身雇用)

ポケモンセンターの前身である施設からこの街のナースとして働く、

湯煙番付が女性のものだった(らしい)当初のミス・フエン(殿堂入り)であった!

…と、いう古い噂があるのだが、

昔すぎて覚えているフエン村民は誰ひとりとして存在しないという。

フエン七不思議のひとつである。


七夕祭りの目玉、ステージまもなく開演!

お茶菓子つきのお座布団チケットは完売となりまして、あとは立ち見となります。

地元のじじばばの他そのご家族。そして観光客…なかでも珍しいのは、

ふだんフエンではほとんど見れないような若いアベックたちの姿である。


ラブラブカップル♀(観光客)「やだ〜虫が飛んでる〜」

ラブラブカップル♂(観光客)「なんて田舎なんだ、でも虫よけ焚いてるよ」

ラブラブカップル♀(観光客)「虫にたかられたらお嫁にいけない〜」

ラブラブカップル♂(観光客)「ぼくがいるよ!結婚しようよ!」

ラブラブカップル♀(観光客)「えー…」

ラブラブ?カップル♂(観光客)「えー!?」


マグマ団員1「いかり饅頭〜いかり饅頭〜いかり饅頭〜」

マグマ団員2「いかり饅頭〜いかり饅頭〜いかり饅頭〜」

マグマ団員3「いかり饅頭〜いかり饅頭〜いかり饅頭〜」


マグマ団員(新人1)「先輩、そんなの僕らがやります!」

マグマ団員(新人2)「ゴンザレスひとりに任せてから全然捌けてないからな」


マグマ団員1「いかり饅頭〜(あのアベックども!)」

マグマ団員2「いかり饅頭〜(田舎がイヤなら!)」

マグマ団員3「いかり饅頭〜(帰ればいい!)」


バンナイ「あ。マグマ団3バカコンビだ。なにしてんの?」


マグマ団員123「Σげ!!バンナイコノヤロー!!」


バンナイ「え、もしや観光で来たカップルに嫉妬してんの?ウケるー」


マグマ団員1「…バンナイ、いかり饅頭食えよ、たんとあるぜ」

マグマ団員2「もっと太った方がいいぜ、ほれほれ」

マグマ団員3「新人ども、押さえつけろ!どんだけ食えるか試してやる〜」


バトラー「OH!! 腹芸ハジマルデスカ?」


マグマ団員一同『Σハハハハカセー!?』

バンナイ「腹芸って、日本語わかってて間違えないでよバトラーさん」

マグマ団員1「Σ博士このあとのステージ凄い楽しみです!」

マグマ団員2「Σ博士のステージは我々が命にかえてもお守りします!」

マグマ団員3「Σ博士の優勝カップも我々は命にかえてもお守りします!」

マグマ団一同『Σていうか博士の全てをお守りします!!』


バトラー「ウレシーカ?では、準備アルデスのでサヨナラね」


バンナイ「Σちょっと、あんたどんどん日本語ヘタになってますよ!!」

マグマ団一同『ハカセェ頑張って下さーい!お慕いしてます!!』


バトラー「いまチョットニホンゴワカンナイです♪」


マグマ団一同『Σお慕いのみの一方通行!!』


バトラー「バンナイ、そろそろ行こう。手伝って」

バンナイ「はいはい。そろそろ行きましょう、じゃあな下っ端ども」


マグマ団員一同『博士、ご健闘を〜!!バンナイは、足引っ張んなよ』


マグマ団員達はそれぞれの持ち場へ散っていった。

ステージの観客整理を担当する団員もいれば、

"展示物"を警備する団員もいる。

受付に、七夕ステージにゆかりのある展示物を集めたブースがあるのだが…、

フエン温泉公式商品、美形番付年表、フエンジムバッジ…いや、

それどころでない、中に…、

とんでもない"お宝"がまぎれているのだ…、

【ポケモンコンテスト・グランドフェスティバル優勝】

とてつもなく巨大な、黄金の優勝トロフィーが展示されている。

これは世のポケモンコーディネーターの誰しもが憧れる象徴である。

コンテストバトル各地の予選を勝ち抜き、勝ち抜き、勝ち抜き、リボンを集め、

ミナモシティで行われるグランド・フェスを制した者だけに授与される勝利の杯だ。

これは非常に貴重なお宝である。

マスターランク優勝者には各部門ごとに一本柱トロフィーが贈られるが、

問題のこれは金の五本柱トロフィーであり、五種類のリボンが掛けられている。

そして杯には贅沢にリボン型にカットされた宝石が五つ、埋め込まれている。

つまりコンテストバトル世界大会、

全五部門制覇した類稀なトップ・コディネーターへ贈られた物なのだ。

杯の価値だけで相当な値がつくもので、ガラスのショーケース入りだとしても、

こんな羽虫飛ぶ野外にボカンと放り出してよい品では無いはずなのだが…


バトラー「しまっておいてもしょうがないでしょう」


当の持ち主があっけらかんと言い放ったので、宣伝も兼ねて展示する事になった。

観光客はこの展示ブースの前で足を止め、ポカンと見上げる。

ただの観光客「すっげー…」

ただの観光客「なぜ、フエンに…」

杯の撮影は不可なのだが、キラキラの輝きの割にあまりに手薄な警備だ。

これはレプリカかな?と人々は思っているかもしれない。

ちなみに…。

つい先ほどまでバンナイは、このガラスケースにぺったり張りついてた。

黄金財宝の眩きに魅せられた泥棒の意見としては、


バンナイ「綺麗だなァァァ」


もう うっとりだ。

バンナイ「コンテストバトル優勝トロフィー、"通称リボンカップ"…」

バトラー「大昔のものです、参加したらとれてしまいまして」

バンナイ「こんな豪勢な優勝カップが貰えるなんてポケコンって凄い」

バトラー「当時はコンテスト団体に莫大なお金があったようでしたから…」

バンナイ「これは規格外ですよ」

はぁ。(ため息)

バンナイ「まばゆい輝きが…、なんて素晴らしい金細工なんだ…、美しいな。」

バトラー「フフ、この杯の虜になった?」

バンナイ「この品の価値と、これの主の価値が均衡だ…最高」

バトラー「価値って?…わたしの、価値?」

バンナイ「そうだよ。こんな美しい品が美しい主のもとで大事に保管されてる」

バトラー「そういう考えか、君は面白い子ですね」

バンナイ「あるべき人のもとにある品はやっぱり輝いてるよ、…逆はダメだが」

バトラー「私もこの杯も、時間に埋もれた過去の物に感じます」

バンナイ「そう思うの?じゃあ俺みたいな価値の解る男が言わなきゃだね」

バトラー「なにを…」

バンナイ「バトラーさんやっぱ凄い人だった、何でマグマ団にいるんですか?」

バトラー「えっ…」

バンナイ「これはあなたが所有してるから最高に綺麗なんだ。価値の相乗効果」

バトラー「やれやれ、"価値"か…」

バンナイ「価値にそぐわないようなら、そういった品、俺が盗むよ」

バトラー「私に少しでも価値が残っているのなら…大いに見せびらかさないとね」

バンナイ「…はい、期待してますよバトラーさん」





【ステージ・客席】


さて開演直前、満員御礼の会場は賑やかで慌ただしかった。


カゲツ「あれ、あんた出演者だろ!早く裏回れ裏!!」

アスナ「Σお疲れ様です!先輩に指導頂いてますた…あ…頂いてました!」

お客様で来たはずのカゲツは、いつの間にかスタッフと化して活躍していた。

さすがはサイユウの苦労人、どんな状況にも順応する能力がピカってる。

一方、ギリギリ滑り込みしたアスナはすでに満身創痍のボロボロで、

これから実行委員の仕事があるのだが、あからさまに身内を不安にさせた。


 ステージ上のマツブサ「あーマイクてすとーマイクてすとーあー」


客席のホカゲ「クレープうめー」

客席のトウキ「え、サイン?えーと…ペンある?」

こども「トウキさんのサインとムロのバッジちょうだい」

トウキ「Σだめだよ、ジムにおいでよ!!」

こども「けちー」

プラスルマイナンお面の効果か、ホカゲとトウキはこどもに群がられていた。

トウキは四方八方にくっつかれサインをせびられ、

なんと!ホカゲの膝の上にすら赤子がヨチヨチ登ろうとしてる。

ホカゲ「赤子ぬくいな…てか暑い」

トウキ「ホカゲくん、サインするからちょっと僕の金魚持っててもらえる…?」

ホカゲ「むり」

トウキ「えっ」

ホカゲ「おーホムラ見っけ。相変わらず顔こえーな」


クレープをはむるホカゲが見つめる先に、仁王立ちしたホムラがいた。

ホムラ「テメェ、ジムリーダーが居ねェだと…?」

団員「いいいいいいえ、すぐ見つけ出します、天の川へ漕ぎだします」

ホムラ「! おい、居るじゃねぇかジムリ」

遠くでペコペコ謝るアスナの姿を捉えたホムラが、団員の胸倉を掴み上げた。

団員「はれ!?そんなばなな」

ホムラ「ア。」

天の川どころか三途の川のが近い、哀れな団員が失神した。その瞬間、

ホムラは腰らへんをちょいちょいと突かれた。

 フエンのばば「ほ。じーさん、七夕祭りはどこでやるんじゃっけ」

ホムラ「た …七夕祭りはここだ。」

ホカゲがポカンと見つめる先で、ホムラはちょっと脱力した。


ワタル「あー 枝豆とビールうめー」


トウキ「なんかホカゲくんみたいな台詞を言うデカイ声の輩が…」

ホカゲ「いやいや、オレ飲んでませんが」

不穏な気配を察し、ふたりはプラマイのお面をしっかり被り直そうしたのだが…

ワタル「フフン…君たち。オレだよオレ、オレ!!

時すでに遅し。

こども「かいじゅうだ!かいじゅうだ!」

こども「しゅうらいだー、くちからはかいこうせん!」

ワタル「Σ出さねェよ!!」

こども「にげろー!」

こどもたちは逃げ出した。

ホカゲ「うわ最前列、踏ん反り返ってステージに足乗っけてたのワタルさんか」

トウキ「子供がたくさん見てるんで、そういうの止めた方がいいんじゃ…」

ワタル「始まったら止める!以上!!」

トウキ「本州うわ…」

ホカゲ「お。ワタルさん、うちの芋浴衣着てくれてんすかありがとうございます」

トウキ「Σ(芋なの…?)」

ワタル「えんじ色だろ、ド田舎モンは色のネームセンスもド田舎だな!!」

トウキ「Σ(どっちもどっちでは…?)」

ホカゲ「似合いますな、その芋色」

ワタル「オレは何でも似合うんだ!」

芋とか細かい事はあんまり気にしないワタルは高らかに笑った。

ホカゲ「つーかワタルさん、お久しぶりだな。どうかおとなしくしてて下さい」

ワタル「まだマグマ団解散してねーのか、マジでぬるま湯組織だな」

ホカゲ「もちろんです、ワレワレハしぶとい」

ワタル「温泉組織なんかやめて真面目に働け、温泉旅館でもやれや」

ホカゲ「ワタルさん、今年も懲りずによくフエンに来たな。おとなしくしてて下さい」

ワタル「温泉めし屋でもいいな!!」

ホカゲ「ワタルさんの願望をひよわい庶民に押しつけないで下さい」

ワタル「さっきホムラに会ったぜ、再会を喜んだ!」

ホカゲ「ワタルさんだけ喜んだのな、想像ついてるぜ」

ワタル「Σ何でだ!!嬉しいだろ、このオレに会えたんだぞ!!」

ホカゲ「うーん」

ワタル「もっともっと、オレを歓迎しろ!!」

ホカゲ「ぼちぼちがんばります」

トウキ「(すごい。本州王者を流すこのスキル…!)」

ホカゲ「いや。なんつーかワタルさん、久しぶりって感じしねーんだわ」

ワタル「それはTVつけりゃ出てるし、雑誌開けば載ってるからなオレは」

ホカゲ「台風みてーなモンだ。やっと去ったと思ったらまた来たてきな…」

ワタル「Σなんだと!それ、カッコいいじゃないか!!」

ホカゲ「被害なく、立ち去るのを待つのみ」

トウキ「(まさに剛と柔の勝負だが、)柔の勝ちだな…あ、やべ声に出てた!」

ワタル「ん?」

ホカゲ「ん?」

トウキ「へ…?」

ワタルがジーっとトウキの顔を見てる。

ワタル「お前…、確かトーキ?」

トウキ「あ、はい…トウキですけど」

ワタル「ちょっと待ってろ、おい!シバー!!


先程からしつこいくらいマツブサが「マイクテスト」とやっていたが、

この「シバー」の爆声が、かき消した。

ワタルの爆声は会場の端の方へ向かっていき、

そこには…最新型のポケギアでお洒落に電話している最中のシバの姿が。

ただし、シバのポケギアは耳から可能な限り遠ざけられている…。

これを察するに、通話相手も恐らく爆声フスベ人だろう。


シバ「そうだな、こちらは綺麗な星空だぞ。フスベも天の川が見えるだろうか」

電話の声『н@@@♪ΦーΦーシバ〒ΔΩ!(*´▽`*)』


 ワタル「シー バー !!」


シバ「いや、さすがに今からフスベには行かない…こちらの場所?秘密だ」

電話の声『×…?Б@Πё℃…(・__・、)』

シバ「また近いうちに顔を出す、…そうだな、盆あたりワタルを連れ帰ろう」


 ワタル「ウー ハー !!」


シバ「む。呼ばれた」

電話の声『βΔκΩ§±ЖΓ…?(V皿V)』

シバ「そうだ、バカワタルと一緒だ。ではなイブキ、切るぞ」

電話の声『ΣЁ〜!ω@〒Ё―!ヾ(*`Д´*)ノ"』


呼びかけに応じ、シバは何の躊躇もなく電話を切って戻ってきた。

ワタルのデカイ声を無視し続けると、周りに騒音の迷惑をかけてしまうから。

そんなワタルがニヤニヤ笑って後方を親指で指している。

シバ「ワタル、でかい声を出すなとあれほど…」

と言いかけてシバは停止した、その瞳はまっすぐトウキを見つめてる。


シバ「…俺の、ために?」


手からポケギアが滑り落ちた。

シバはトウキに向かってまっすぐ歩いて、

ワタルを踏みつぶして「ぐぇ!」、座席を跨いで越えると、

シバ「!」

そこから倒れ込むようにトウキを抱きしめた。

これは一瞬のアクションだ。

ホカゲからすると、食べ終わったクレープの包み紙を捨てたいなと思って、

ごみ箱ないかなと会場をキョロっと見渡した、そのくらいの時間だ。

横からドスンと強い振動を感じて振り返ると、シバがいて。

その逞しい両腕をまわし込んで、トウキの胸部をしめ上げていた。

ホカゲ「なんですこれは」

ホカゲに ぱっと浮かんだ、おすもうとってるのかな。

トウキ「お、お、お前ふざけんなよ…!!」

ミシ…ミシ…と聞こえる、座席が軋む音だろうか…。

シバ「!!」

トウキ「し、し、しぬ…!!」

ホカゲ「ギブすか、ギブすかトウキさん」

ワタル「ホカゲ、こっちこいよ」

前方に座るワタルがホカゲに手招きした。

ホカゲは頷き、そろそろと席を跨いでシバの席であった場所へ座った。

ホカゲ「どうしたんすかシバは、事件かな」

ワタル「違う違う、シバとトウキ。あいつら十数年ぶりの再会だからだ」

ホカゲ「それであんなシメられちまうんすか…」

ワタル「は?再会ハグとかじゃないのか、ちょいキツめのハグ」

ホカゲ「Σなるほど痛い」


マツブサ「マイクてすとー マイクてす…あ、おしまい?本番かな」


係りの人が呼びにきて、自由にやってたマツブサは連れていかれた。

開演を知らせるブザー音が響いて、観客達はのんびり席についた。

ワタル「で、これなんの演芸だっけか??」

ホカゲ「…チャンプ!もう黙らっしゃい、バナナスイカ味の投入!」

声のトーンを落とさないワタルの口に、ホカゲは例のふしぎガムを投入した。

ワタル「Σふえ゛!!(なんだこいつ異国の味!!)」

うすきみわるい謎味に、さすがのワタルも顔を歪めてひるんだ。

ホカゲ「ワタル氏、おしずかに」

その後ろの列では、ホカゲのもと居た席に落ち着いたシバが、

ポワンとした表情を浮かべて、トウキの頭をワシャワシャ撫でまくっている。

…せっかくカッコいい髪型してたのに、大荒れだ。

トウキ「…川が流れてほしい、シバとの境に、ぶっ太い天の川が」

トウキは呆然と宙を見上げながら呟いた。





つづく