新春フスベD



ある日、フスベの昼下がり。


住民たちは、のどかな青空見上げてまどろんでいた。

そこに突如! ドッドッドッド…と、プロペラの轟音が響いてきて、

空の彼方から巨大な飛行するお城が現れ近づいてきた。

フスベの田舎住民たちは、ポカンと口をあけたままそれを眺めてたのだが、

飛空城塞はフスベの山肌…その中でも、平らな所を選んで勝手に着陸を始めた。

お城の外観は、黄金使った からくり仕掛け…その搭乗口がグィィと開くと、

奥の方から分厚くロールされた深紅の絨毯がスパーンと飛び出てきて、

地面に一直線に伸びてゴージャスなウェイをつくった。


この輝くレッドカーペットの上を歩いて出てきたのが…お城の主、

かの有名な、ルネの文豪・ジラルダン氏であった。

ちなみに年齢不詳、永久独身。


「ルネ族どもの侵攻か!?」

フスベの住民は皆、びっくらして宗家のもとへ走った。

飛空城塞・襲来の知らせをうけた長老とイブキが駆け付けたところ、

ジラルダン氏は飛空城からちょっと離れた野原に降りたっていて、

周りにフスベの若者はべらせて、優雅にコニャックとか飲んで待っていた。

しかもその取り巻きの若者たち、

どう声かけたのかフスベきっての輝く美男揃いで、

彼らは酒がまわって打ち解けたのか、

ジラルダンの周りに寄り添って、ふにゃーっと笑って絡み合っている。

そんな様子を眺めて、ジラルダン氏は妖しく微笑んでた。

…なんとも風紀を乱す、現地の男子を巻き込んだルネ式ピクニックの様子に、

イブキが怒鳴ってづかづか寄ってくと、ジラルダン氏は堂々と これを迎えた。

「ハジメマシテ ルギアノルーツヲ 探リニヤッテ来タノダヨ」

そう言ってジラルダン氏は、若者たちと野原で編んだ花冠を差し出した。

しかし全然イブキが落ちなかったので、ちょっと渋ってからルネの宝石を差し出した。

イブキはそっちに夢中になった。「お前を歓迎する」

「アリガト御座イマース キミノ笑顔ヲ コレクションニ 加エタヨ」

ちなみにルネシティはホウエン地方、喋ってるのは ルネことば である。

それからジラルダン氏は、フスベに長期滞在して豪遊の限りを尽くし、

小出し小出しに、ルネの珍品を献上しつつ、

ワタルの実家一族の金銭感覚に多大な影響を及ぼしたのち、

惜しまれつつもルネへ帰っていった…。


それからしばらくして、発表した作品が…

かの有名な「ルギア-爆誕-」である。


その内容は…

富・名声・神の化身のごとき美貌を兼ね備えるジラルダン。

ルネ生まれを誇示するルネ・ポイントはやはり独特なモミアゲ。

彼はレア・コレクター…貪欲な収集家としてのちに名をはせる人である。

彼は常にして憂鬱だった。

彼の庭の泉からはいかなる時も絶えず金が溢れてできた。

それが邸宅の中まで浸食してくる程だったため、窮屈で嫌だなと考えていた。

ある日。

ルネ湖の美しいせせらぎの中に、悩ましくも雄の水鳥の声が聞こえる午後だった…

ようやく身支度を整えたジラルダンは、隣人のアダンと過ごしていた。

ジラルダンは、アダンの横顔と彼のタイ留めの宝石細工の素晴らしさについて、

褒め称えたい気持ちでいっぱいだった。

しかしその衝動を口にする事でこの見事な芸術空間が損なわれてしまうのでは、

と恐怖する気持ちとで、しばしの葛藤を内に秘めていた。

「わかっています」

アダンの声は、ルネ湖の深層のように神秘だった。

「無限の富とは、残酷に不幸なのです」

アダンは静かに巻煙草を吹かすと、その白い煙がのぼった天井の、

揺れてぼんやりと輝く装飾灯を眺めて彼へ言った。

「友(ユー)。そんなものは使ってしまいなさい」、「友(ユー)。それか下さい」

ジラルダンは はっとしてアダンを見つめ、アダンもまた彼を見つめ微笑んだ。

ジラルダンはアダンの手をとり、頷くと…前者の決断をした。

ルネの地下銀行に眠る、莫大な財産…

積み上げられた金塊も、他者の顔がうつりこむ退屈な紙幣も、

誰しもが持ち得るものである。全て同じで実に下らない。

これを私は、変化させてみせよう…

どれをとってもこの世にふたつと存在しない、

厳選尽くした、貴重なコレクションへ。

ジラルダンは、この麗しい隣人へ誓ったのだ。

そして彼の財力は、機動力となる。

そびえたつ岩壁に閉ざされた島・ルネに生まれたジラルダンは、

まだ外界を知らなかった。

彼はまず贅の限りを尽くした空飛ぶ城を造らせると、自らそれを操り、

幾人かのアマンを乗せて、岩壁の外の世界へ向けて出発した

彼は、彼の人生をかけたコレクションの収集を始めたのである。

各地を巡った彼の収集物は逸品であった、

美の一族、ルネの眼力は優れた美術品を呼び寄せた。

彼には限度というものが無く、一度の飛空遠征で用いる費用は、

小国家が買える程の額だったという。

恐ろしきは、このルネの財力である。

ある日。

午後。またしても輝くルネ湖では、雄の水鳥たちが悩ましげに鳴いていた。

隣人のアダンが、帰還した彼のコレクションを見にきて言った。

「友(ユー)。この部屋にはスピリットがないですよ」、「友(ユー)。これ下さい」

ジラルダンは はっとして再びアダンを見つめたが、

アダンの方は 奇跡の天然真珠を愛おしそうに撫でまわしていた。

ジラルダンは愛しい友を強く抱き寄せると同時に、

彼のその手から巨粒パールをさり気なく取り上げた。

「どうしたのです」

…君のいう通りである。命なきものはただ虚しい。

「ジラルダン…!」

…アダン!!

そして世界が転換した。

ジラルダンは以後、コレクションに生命を求めるようになった。

より珍しく、より美しい存在である必要。

彼は希少種のポケモン収集へとのり出した。

希少な動物とは、制約により守られている。

彼は手法を変え、専門のハンターを雇い入れた。

つまりは密漁の者である。

やがてその背後の闇組織とも繋がりを持ち、

必要とあればそれらの上層とも密会を重ねた。

…欲しい、ならば手に入れよう。

ジラルダンの欲望は不可能を許さなかった。

彼にはそれを実現しえる力が全て、備わっていたのだから。

しかしある時、涙を流した隣人に"収集の真価"を問われ、気づく。

「友(ユー)。それは他者を使役した強奪です」

己の手で収集する喜びを忘れていたのである。

友の言葉はいつになくストレートだった。

「ジラルダン、本当に必要なのですか?」

…アダン、言う通りだ。

「どうか、昔のように、ジラルダン…」

再び彼は友に誓った…「価値ある収集活動を」…しかし。

やはり彼は戻らなかった。

あの、隣に座った友の美しい横顔に時と心を奪われ、

ひどく困惑していた頃の内気な彼とは、別人になり果てたのだ。

ジラルダンの貪欲は底知れず…友の忠告はついに届く事はなかった。

やがて彼は、

伝説のポケモンに辿りつく。

それは唯一無二であり永劫の生命。

神である。これぞ彼のコレクターとしての焦がれる極であった。

彼は世界各地につたわる伝説を念入りに調べ上げた。

…最も興味を示したのは、空を支える鳥の神であった。

火・氷・雷。まず三属性の鳥神がいて、これにより天空の均衡は保たれている。

そしてその三匹の上に位置するのが、太陽の化身ホウオウ。

そして太陽と同格であり、この時代においては謎につつまれた月の神…。

まずはこの謎の存在をつきとめる所から始まった。

…これは途方も無く田舎の野蛮な民族のもとを訪れた際に情報を得る。

…「かの鳥神の名は"ルギア"」


太陽と月は、光と闇の表裏一体。

三匹の鳥神が均衡を保った世界は天空にホウオウが降りたち、支配する。

また、その均衡は一年を回る季節の昼夜に影響を与える。

三匹の鳥神たちが活発に羽ばたく夏は均衡力が保たれ昼が長く、夜が短い。

三匹の鳥神たちが眠りにつく冬は均衡の力が弱まり昼が短く、夜が長い。

もし、なんらかの事情で三匹の鳥神による均衡が崩れてしまった場合、

ホウオウは天を退き、月の神ルギアが海から現れ世界を支配するという。

これは大昔の伝承であるが、ジラルダンは強く心惹かれた。

現在は、鳥神たちの均衡がとれた平和なホウオウの世界であるという。

ルギアを見つけ出すためには、世界を覆す必要があるそうだ。

過去、類をみない程に自分の生命をかけた収集活動になる。

成功の暁には、ジラルダンの収集家人生は後にも先にもない、

至高のものとなるだろう。


…彼がルギアを求めて動き出した時、密かに…世界が崩れ始める…


非常に、分厚い本である。

そして この表題作・ルギア収集編が、長い物語の最終章にあたる。

…作中のジラルダンは、主役であり悪役である。

章を重ねるごとにジラルダンという人間が、不敵で悪どく、

奔放で無節操、そして邪に非情になってゆき、

最後は自分の野望に大敗して身を滅ぼし、捕縛され、獄中で壮絶に死ぬ。

…なんてシニカル・ブラックな結末を迎えるのだが、

発売にあたり、友・アダンが帯にコメントを寄せた。

「自分をもって自分を殺すという行為は究極のエゴなのです」

著者の半生を綴ったものだが、もちろんフィクションである。

だが読み切った読者はトラウマを抱える。

倫理に引っかかる寸前だったこの作品、のちに児童書むけに改稿され、

ラストは美少年に諭されちゃっかり改心するというエンディングが現在主流である。

そしてこの作品はなんと映像化もされ、大衆向け娯楽作品となった。

実写化にあたりジラルダン、著者本人が氏本人役で出演を果たした。

またその後のジラルダン氏であるが、現在も意欲的に執筆活動を続けている。





ルギア-爆誕-

原版と、改稿版をパラパラめくって比較して、ワタルは呆れ果てて言葉に詰まった。

なんといっても、その原版が。

…卑猥だ。

ワタル「これ…なんだ」

さすがのワタルも脱力した。

長老「わしもぶったまげたんじゃが、"ルネ文学"だそう…」

ヤナギも原版渡されて青ざめた。

ヤナギ「わけわからん…なんで男なんや…」

フスベの家の玄関に置かれてた美少年像の謎が繋がったようだ。


ハヤト「ジラルダン氏は、うちにも取材に来ました」


ワタル「Σまじか、無事だったかハヤト」

不意打ちだったので、ワタルが本気で心配した表情をよこした。

ハヤトは思わず笑いそうになった。

ハヤト「俺はまだガキだったんですが…父さんが氏にえらい気に入られまして…」

マツバ「……なに!」

ガタっと、今度はマツバが立ちあがった。

ハヤト「まあうちの父の気性なんで…、長ホウキもって撃退しとりました」

ヤナギ「ああ。ハヤテは正しい、こんなんアカンわ…」

ジョウトの人の手を一周した原版は、そそくさとフスベのもとへ返却された。

イツキ「それでも…ルネ芸術を買い入れちゃう所が凄いですね、フスベって」

あまりにもルネモノが低評価だったので、

イブキと長老はがっかり気まずそうにうつむいた。

長老「言われてみればそうじゃな…なんでわし、ルネなんか買うたんじゃ?」

ヤナギ「…なんで儂に聞くねん、ボケかおめぇは」

イブキ「ねェ。 誰か、うちのルネ買わない?」


一同『…。』


全員がサッと視線をそらした。


ワタル「しっかし…実家の浪費癖の原因はそのジラルダンだったか…」

長老「ルギア爆誕や、次は映像化されたビデオみせたろうか!」

ワタル「Σもういらねェよ!!」

イブキ「大ヒットしたのよ?フスベは微塵も登場しないけど」

イツキ「 え、」

マツバ「……ハヤト。 本当だね、本当にお父さんは無事だったんだね?」

ハヤト「はあ。なにせ父は金品に無頓着でしたから…宝石チラつかされてもな」

マツバ「……ああ。 執着は薄汚いね、ハヤテさんはすてきだ」

 イブキ「…。 (宝石でつられたアタシって)」

ワタル「ハヤテは、チビだったお前を守ろうと必死だったんじゃないか?」

ハヤト「え…?」

ワタル「ジラルダンに攫われねぇように、とかつって…あの人も子煩悩だったろ」

ハヤト「そ、そんな…父さん。」

ハヤトが両頬おさえてポッと照れた。

ワタル「いや知らねぇけど…」

長老「Σこれお前ら、ジラルダンを悪者扱いするでない…!」

ヤナギ「何言うてんねん十中八九、悪者やボケ」


マツバ「……で、長老。 この作品のルギアは、ジョウトの伝承とは異なる」


マツバが不満そうに言うと、

長老とイブキが何か含んだようにニカーっと笑った。


長老「異なるいうか物足りんじゃろ、肝心なとこは部外者には内緒じゃ!」

イブキ「ルギアと龍の一族は、フスベの門外不出の秘密よ?教えないわ」

ワタル「なんだ、うちの伝承教えなかったんか」

 イツキ「あのー…僕ら部外者ですけど結構聞いちゃってますけどー…」

 シバ「イツキ、黙って聞いておけ」

マツバ「……でも。 それでジラルダンは納得したの?」

長老「ジラルダンは、フスベの龍神伝説を学びに来たという程ではなかったのぅ」

イブキ「ルギアの題材だけ貰いに取材きただけ…ってカンジね」


ワタル「は、あと全部妄想なのか。すげぇなルネ族」


長老「そのルネなんじゃが。少々、フスベと似通った伝説があってのぅ…」

ワタル「   。 俺ん家と、ルネが……気色悪いこと言うんじゃねェよ」


ワタルは思いっきり顔を歪めて、ホウエンルネのミクリを思い出した。

"おやワタルきみ、また暑苦しいマントは、ばかのひとつ覚えで進化したまえよ"

…ミクリは日本語が喋れねぇんだ、哀れな奴だぜ。


イブキ「ルネにも雨降らしの伝説があるんですって!」

ワタル「なんだルネ族総出の雨乞い音頭か」

イブキ「…するわけないでしょアンタ…ルネシティよ」

ワタル「Σ真顔やめろ! …年間雨量がものスゲエんだろ、ルネ島。知ってるぜ」

イブキ「そう。ちょっと似てない? うちの…"怒りの湖"と」

ワタル「雨多いルネ島と、雨降りまくってる怒りの湖が…?」


 ヤナギ「似てねェ。 うちのが大雨や」

 シバ「Σ頭首どの、ここは抑えて…」


チョウジの北の"怒りの湖"に雨が降り続くのは、

土地に龍神の水の力が宿っているからだという。


ワタル「じゃあ何だ、うちの龍神が大雨降らしにルネまで出しゃばってるってか?」

イブキ「そんな風には言ってない」

長老「Σなんつう言い草や、龍神様と ご先祖様に謝れワタル…!!」

イブキ「ホウエンには神話があるのよ。天地創造の時代の海の怪獣」

ワタル「なに怪獣」

イブキ「天地創造のとき、それが大雨降らせて、海をつくったんですって」

ワタル「イブキの口から"天地創造"とな」

イブキ「アンタの口から"天地創造"よりはマシよ」

 イツキ「つ…次はホウエンのご当地神話ですか??」

ワタル「 で? 雨降らし怪獣のそいつが、うちの龍神のパクリか?」

長老「いや別もんじゃ」

イブキ「別ものよ。そもそも"大雨"はあっちの専売特許なの」


 ヤナギ「…何やてフスベ」

 シバ「Σどうか頭首どの、ここは我慢を…」


実はジラルダンが、

創作の題材にジョウトの鳥神・ルギアを選んだ理由がそこにあったという。

彼の故郷のホウエン地方・ルネシティは、

日本列島の中でも屈指の年間降水量を誇るという島で、

島の周囲を高い岩壁に囲まれ、大昔はその白い岩壁を少しずつくり抜いていき、

住居を造ったという…。 ドーム型の岩壁住居は段々になっており、

ドームの一番底は湖で、海底と繋がっていて澄んだ深層水が溜まっている。

白く壮麗な街並みと神秘的な湖水、絶大な観光人気を誇る島なのだが、

ルネシティは街の景観と自然を守るため、観光客に対し入場制限をとっている。

ようはルネ。お金をたくさん出せば、スルリと入れるということである。

そんな現金主義なルネシティには、別の顔があり…

ホウエン創世の天地創造の神話を受け継ぐ一族の街であり、

外界から遮断された絶海の孤島である。


ホウエンの"超"古代の時代。

陸と海の獣が、互いの棲みかをかけて対峙した。

二匹の衝突は、何もなかった平らな地上に様々な生命を登場させたが、

それは誕生と死滅の繰り返しであった。

やがて死闘に疲れ果てた二匹の獣は、長い眠りにつく。

この時、一番最後に誕生した生命こそが人類の祖先であると伝えられ、

この伝承を守るルネ族とは、創世の時代に最初に誕生した人の、

純血の末裔であるという。(※ただしホウエン規模)


大雨に関係するのは この二匹のうちの海の獣の方で、

空を雨雲で覆い、乾いた陸地しかなかった地上に雨を降らせて潤し、

やがて海を造ったといわれる。

ルネ族出身のジラルダンが、フスベの龍の一族に興味を抱いたのも、

そういった故郷の伝説にふれて過ごしてきたからだと思われる。





ワタル「それがどうしたバカヤロウ!」


長老「Σせやから、大雨繋がりでフスベを調べあげて来たんじゃ、文豪偉いのぅ」

ワタル「そんなん有るなら、自分ンとこの伝承で本書けってんだ!」

全くである。

イブキ「ジョウトの鳥神伝説の方が題材として華やかだったって事でしょ」

長老「そーじゃそーじゃ、ジョウトは華やかなんじゃ!」

 ハヤト「いえ。華やかなんは、うちのホウオウ様です」

 ヤナギ「せやな、龍神は異質でド地味や」

長老「Σな、なんじゃて!?」

ワタル「ハタ迷惑なんだよ、ルネなんかに関わると碌な事ねぇぞ!」

本当に、全くである。


マツバ「……そうだったのか。 この作品に僕はずっと納得できなかったんだ」


ハヤト「ちなみにホウホウにほぼ触れんかったのは、うちが追い返したからです」

ヤナギ「ええ仕事した、さすがハヤテや」

ハヤト「Σも、もっと褒めて下さい!!もっと!!」

 ワタル「おいヒナ鳥、ピヨピヨうるせぇピヨピヨ」

ハヤト「Σもう成鳥や」

イツキ「ハヤト君の家が取材協力してたら、ホウオウ-爆誕-だったって事ですか?」

ハヤト「そんな俗っぽいもん、うちはお断りや」

ヤナギ「あのハヤテも、堅実に当主しとったわけか…」


イツキ「ずっと気になってたんですけど、そのハヤテさんは今日来ないんですか」


ハヤト「…!」

ジョウト一同『…!』

ジョウトの人々はピシャっと雷打たれたような顔して、ハヤトの方を向いた。


ハヤト「あ、あんまりや…!」

ハヤトは小刻みに震えてる。

ワタル「うお、泣きそうな顔すんなハヤト」

マツバ「……ハヤト泣いた?」

ワタル「まだだ」

マツバ「……ちぇ。」

ブチッ…と、なにか切れた音がした。

イツキ「Σあのー…また僕はなにか余計な事を言いました?」

ヤナギ「イツキ、おめぇ知らねぇのか…ハヤテ失踪事件」

ハヤト「Σなんや事件にされとる!!」

ワタル「お、落ち着けハヤト。ピヨピヨ暴れんなっ!!」

ハヤト「Σ暴れてねぇよ!!」

マツバ「……すいません。 父親のことになると情緒不安定な子なんです」

ハヤト「聞け!!」

イツキ「Σハイ」

ハヤト「ハヤテは俺の父親。キキョウの前ジムリーダーや!これが写真」

ハヤトが懐から、ハンドサイズのアルバムをズボっと抜き取って手渡した。

イツキ「ハヤト君の、ぬくもりが…」

ハヤト「大事やから、あっためといたんや…!」

瞳が、キラっキラ輝いてる。

イツキ「う わ あ…」

イツキの顔が引きつった。

 ワタル「まだ持ち歩いてるんかソレ」

 マツバ「……ハヤト君の宝物。」

ハヤト「うるせぇ!捲れ …1ページ目、生まれたばっかの赤子の頃」

イツキ「あ、ああ、…かわいいですねー」

ハヤト「だろォ。2ページ目、和服の少年期…聡明そうやろ、まじかっこええ…」

イツキ「そーでーすねー」

ハヤト「3ページ目、青年期。苦しい、動悸が…」

イツキ「Σグレた!?学ラン短くてサラシ巻いて…金髪だよ!?」

ハヤト「不良だったんや…で、許嫁との間に俺が生まれる」

イツキ「Σハヤ !!」

ハヤト「まあ生まれた俺の姿なんかどうでもええから飛ばす」

イツキ「み、見せてよ…!」

ハヤト「4ページ目、フフ。いったん黒髪にもどす。俺、心臓が死にそうや…」

イツキ「あ! …似てる、やっぱり親子だ」

ハヤト「父さん似やろ、そんなんしっとる。5ページ目、嫁に逃げられる」

イツキ「Σなんで嬉しそうなの!?」

ハヤト「だって俺だけの父さんになった目出度い日やから… フフフフ

ハヤトが腹の底からドス黒い声を捻りだした。

ワタル「イツキ、やめどきや」

マツバ「……きけん。 これ以上は」

ハヤト「最後まで語らせてや、つぎや、つぎからや…二人で過ごした日々

イツキ「あ、あのもう…」

ハヤト「ふたりきりがよくて、使用人ぜんぶ暇だしたんや、フタリキリノ…


ぱたっ と。ヤナギがアルバムを閉じてやった。

ヤナギ「…。」

憐れむ目で、ハヤトを見おろしてる。


ハヤト「Σはっ 俺…どうしてました?」

ヤナギ「わかっとる、お前は可哀想な子や…」

ヤナギは静かにハヤトの肩に手をおいた。

ヤナギ「ハヤトの父親は、うち放ったらかして失踪、いまも行方知れずのままや」

ヤナギの言葉に、昂ぶってたハヤトが崩れた。

ハヤト「こ…こんなんやから俺は父さんにすてられたんや…」

イツキ「…そろそろ親離れしてください」

ハヤト「い やや」

イツキ「…。」

ワタル「確かにハヤテはカッコよかったよな、ライダース着てよ」

マツバ「……うん。 それにすてきだった」

ワタル「ハヤテの飛行見たら、"空を飛ぶ"なんかダサくてやってらんねェよな」

マツバ「……うん。 あの真似は絶対できない、だから僕は地上でいい」

ワタル「お前、飛べるポケモンいねぇだろ…」

マツバ「……あ。 そうだった」

ハヤト「父さんおった頃は、みんなよくうちに遊び来ましたね」

ワタル「ガキの頃やったから…イブキは女?だから留守番でよ!」

イブキ「アタシだって行きたかったわよ!!でも休日はお稽古が…」

長老「これ、イブキ!たしなみやがな」

 ワタル「プッ。 イブキが芸事か…かけた分だけ無駄金やったな」

イブキ「おい、もういっぺん言ってみろ」

ハヤト「Σに、日舞は俺と一緒のエンジュのお家元の所でしたよね…」

ワタル「は。 イブキお前、ハヤトと一緒に踊り習ってたんか…?」

イブキ「そ…そうよ!」

ワタル「ハヤトとイブキが同じ教室…、月とすっぽんだったろな!!

ハヤト「す…すっぽん」

イブキ「キキョウさんは別格よ。アタシが教わってたわ」

マツバ「……それを僕は、よく見に行ってた」

イブキ「アタシは向いてなかったわよ日舞…。ハヤトさんは、やっぱり血よね」

ハヤト「はぁ。家の芸なので…帰った後も父にみっちりしごかれてました」

イツキ「Σえっ なに皆さん…幼馴染なの!?」

イブキ「Σえっ やだ知らなかったの!?」

 シバ「お、俺は違うぞ…」

ヤナギ「言ったやろ、ジョウトは世襲やからガキの頃から一緒や」

イツキ「どうりで仲良しなわけだー」

ワタル「ハヤト、お前はいつでも嫁に出れるな」

ハヤト「ありがとうございます」

ワタル「フスベにこいよ」

ハヤト「お断りします」

イブキ「Σア、アタシだってイヤよ…!!」

ワタル「バーカお前のじゃねぇよ」

イブキ「え 」

ハヤト「…」

ハヤトが赤くなって顔を背けた。

 シバ「…。 (脈は、ある)」

シバが静かに頷いた。

マツバ「……僕は。 ずっと寺に出されてたから、皆と会える時だけ楽しかった」

ワタル「よくエンジュの古寺ぬけ出して来たよな、お前の執念はあっぱれだ」

ハヤト「Σひとりだけボケっとしてたけど、あれ楽しかったんですかマツバ…」

マツバ「……え。」

ワタル「哀れな境遇だったな、ハヤテに沢山遊んでもらえて良かったな」

マツバ「……うん。 良かった」

ハヤト「父さんは、面倒見良かったので… ぐへへ」

ワタル「Σ今どっから声出した」

ヤナギ「ちゃう。 ハヤテは、ガキのおめぇらと同程度の心年齢やったん」

長老「エンジュの、お前さんが金髪したんはハヤテの真似っこか?」

マツバ「もちろん」

ワタル「Σマツバが即答した!!(やっぱそうやったんか)」

ハヤト「Σなんとまあ即答ですよ!!(やっぱそうなんや)」

イツキ「ああ、写真…ハヤ父、金髪でしたもんね」


マツバ「……僕は、ハヤテさんはホウオウに会ったんだと思う」


ジョウト一同『…。』

話がぶっ飛んだが、マツバは真剣な顔だった。


マツバ「ハヤテさんが居なくなったのは、エンジュの奉納祭の直後だった」


ハヤト「…。」

イブキ「…。」

ヤナギ「…。」

長老「…。 (?そうじゃったっけ…)」


イツキ「なんか重たい空気になりましたね、僕は外した方がいいですか?」

ワタル「ハヤテの失踪のとき、俺はもうジョウトを出てたんだ…、だから…」

イツキ「え、いつ居なくなったんです?」

シバ「俺も部外者になるが、ハヤテには会った事がある」

イツキ「ジムリーダーだったんでしょ」

シバ「立派なジムリーダーだった、行方をくらます理由は俺には解からん」

イツキ「…。」

場の空気がしぃんと静まり返ったところでハヤトがぽつりとつぶやいた。

ハヤト「俺のせいなんや…」

ヤナギ「何言うとんねんハヤト、お前は…

マツバ「僕は、ハヤトに理由があると思ってる」

長老「Σこれ、エンジュの…!」

ハヤト「分かってます。俺が不甲斐ないから、父さんはそうしたんや」

ヤナギ「ハヤトはそう言うがな、お前は十分立派や…そないな訳ない」

マツバ「君を見限ったんじゃない」

ハヤト「え…」

マツバの淡い色素の目が、ハヤトを見つめた。


マツバ「ハヤテさんは君に譲ったんだ……ホウオウを。」





ジョウト地方、記憶を遡ると 十年以上も前になる。

その日、エンジュでは一週間に渡る盛大な奉納祭の最終日だった。

つまり鎮魂の儀の夜の事である。

髪は短く、ひとまわりほど少年だったマツバは、

何も知らされないままスズの塔を昇らされ、

最上階へあがって そこで待つようにと言われていた。


奉納祭とはエンジュ古来より、

スズの塔のホウオウと カネの塔のルギアのために、

年一度、三日三晩かけて行われていたもので、古い伝統と歴史を持つ。

エンジュの都が最も栄えていた頃は、

ホウオウとルギアが昼夜入れ替わりに都を訪れたという。

スズとカネの二つの塔は、それぞれの鳥神が司る時間に降りたつ場所とされ、

夜を司るルギアが海へ帰る際に羽ばたくその風でカネを鳴らし、朝を知らせる。

逆に、日中はホウオウが都にいて日没とともに飛び去るその羽ばたきで、

スズが鳴って夜が訪れたという。

お互いが入れ替わり去っていくときに、

次の神の訪れをカネまたはスズを鳴らして教え合って、

古の時代の民はそれを聞いて日々を暮らしたという。

しかしある年、

この奉納祭の終日に、ルギアを祀った"カネの塔"が落雷うけ、

三日三晩燃え続けたのち全焼する。

以後、エンジュシティではもとの祭の三日三晩に、

更に炎の三日三晩を足した七日間の期間を奉納祭と改めた。

その最終日の七日目の日には、

スズの塔の火災で犠牲となった命への鎮魂の儀を行い、

これをもってその年の奉納祭は終了となる。


スズの塔を昇る途中、マツバは木造の軋む渡り廊下で足を止めた。

日没が近い時間で地上は暗がりだったが、

少し離れた場所に、カネの塔の残骸を見つけた。

…焼けた塔。

マツバはエンジュの古い一族の生まれなので街の歴史をよく知っている。

スズの塔もカネの塔もエンジュのものだが、

そこに祀った神はホウオウもルギアも、

本来どちらもエンジュのための神ではない事も知っていた。

古の二つの塔の名称が、スズとカネである事が何よりの証拠である。

ホウオウはキキョウ。ルギアはフスベ。

キキョウの、ホウオウを祭祀した施設には鈴があり、

またフスベのルギアのための寺院には鐘が置かれてる。

この二つの信仰の流れを汲み、

習合させたものがエンジュの鳥神信仰である。


自分の先祖たちは、

鳥神たちを利用した…


マツバは目を閉じて思い出す。

大昔の遷都のとき、エンジュの繁栄のために鳥神を招き入れ、

"…捕え"、そしてこの塔に縛ったと。

記録は無く、明確な根拠も無いのだが、

実は幼い頃…白昼に、知らない世の夢をみた。

この夢は鳥神とエンジュの歴史を暗示するものであった。

だからマツバは、そう解釈している。

カネの塔が焼けたのは、しかた無い、

むしろ当然たる罰である思っていた。

塔を破壊しエンジュを飛びだしたであろうルギアには憧れすら覚える。

逆になぜホウオウは、ルギアのようにエンジュを見限らなかったのだろう。

そう考えるマツバの顔は、子供ながらに冷ややかだった。


階段を昇りきり塔の最上階へあがると、暗い空のもとで鈴音が鳴った。

今の時代は人が塔の鈴を引いて鳴らすが、これが夜の訪れである。

灯りがないのでよくは見えないが、

屋上の祭壇の前にはすでに何人か居るようだった。

マツバも端のほうへ座ると、これから起きる何かを待った。

しばらくして、下の階の方から どやどやと人の気配と音がしてきて、

まず先導の灯り持ちが出てきて控えた。そのすぐ後、

階段の所から金髪の頭が すっと出てきた。

これがマツバの記憶の中の、キキョウの人・ハヤテである。

もちろん知ってる人だったので、マツバは暗がりの中で密かに驚いた。

珍しく何枚にも重ねた着物…能楽のような衣装を身にまとっている。

…だが、確かにハヤテだった。

いつものように羽をくわえた喋り方でぶつくさ文句を言ってる。

どうやらこの夜会の主役のようである。

マツバは一瞬で理解した、スズの塔はホウオウを祀った場所。

その最上階にキキョウの当主が来たという事は、

これからホウオウへの奉納舞をするんだ。

そんなハヤテは遅刻魔で、肝心な時に遅れてやってくるという癖がある。

先程、下の階から言い争うような声が聞こえたのはその事に違いない。

大事な祭事だろうが、キキョウの当主はマイペースを崩さないのであった。

ハヤテの到着で、ようやく松明に灯りが灯されると、

奥の舞台にはすでに雅楽師たちが控えているのが分かった。

目でおよその影を数えてみると、この場に立ち会うのは、

ごく最小限の人間だけ。

恐らく子供はマツバのみであった。

日頃からエンジュの街の歴史に対し否定的、

反発したような態度をとる自分を、誰が呼んだのだろう。

…エンジュの一族の上のほうの人だろうか、それとも…

この計らいは…

火の灯りに照らされたハヤテは衿元を正すと、舞台へ進んだ。

…いよいよ始まるようだ、詮索をやめ マツバは息をのんだ。

誰もが慎み、おごそかな雰囲気の中、ハヤテが一礼して舞台に上がる。

そでに控えていた付き人が、キキョウの紋入りの大箱を開き、

内から 輝く大きな一枚、"虹色の羽" を取りだした。

付き人は隙のない・・美しい作法で、ハヤテに向かって差し出すと、

ハヤテはそれを両手で受け取り、まず天に掲げてから深く礼した。

そして自らの袖に仕込んだ鈴と、楽師たちの奏でる音にあわせ、

キキョウの一族に伝わる鳥神のための舞を奉納した。

ハヤテが手にする巨鳥の羽は、キキョウの神体、

つまりホウオウの残した実際の羽である。

長い年月を経ても、不思議とそれ自体が光り輝いてるので、

盛装した踊り手の姿は非常にまばゆく神々しかった。


ハヤテは、キキョウの古の都で崇められていたホウオウと、

それを支える三属の鳥神に仕えた一族の末裔だ。

キキョウの神に非礼をはたらき天空へ追いやったエンジュの一族との間には、

この日までの長きにわたり深い確執があった。

もちろんルギアに仕えたフスベの一族とも同様である。

まさかそのキキョウの当主自ら、因縁の場所で奉納舞を披露するとは…、

罪なき次の世代へ繋げるため過去は水に流そうという、

全てはハヤテの人柄だった。

…しかし神聖な奉納舞を、染髪のまま。

儀式の直前まで現れず…更に支度が手間取り遅刻。

階段だからけでかったるい、と文句を垂れてやってくる。

なんとも…さすがハヤテである。

だが大一番の、奉納の舞は、美しかった。

一族と、家を背負いながらもハヤテはこんなに自由だ。

絶対に、誰であってもハヤテを縛り付ける事なんかできない。

マツバは一族に対し冷たく閉ざしていた己の心を改めた。

感涙したのである。

ハヤテのように、自分の運命と向き合う意を決めたのだ。


その時だった、

視界が消え、焼けるように熱くなる、

マツバは眼の奥で、暁の夢をみた。

遠くの地で、七色に虹が輝く。

…はっと覚めると、一瞬の事であった。

マツバは床に伏せ、両目を押さえてうずくまっていた。

全て知ったのである。


一方、奉納を舞い終えたハヤテは空に祈願すると、

俯いたマツバに気づく事なく、塔を去った。


そして。

奉納から一夜明けた早朝、ハヤテは謎の失踪を遂げる。

まわりの誰もが混乱して騒いだが、マツバだけは分かっていた。

きっと、

…ハヤテさんは、ホウオウに会ったんだ。

でも、

一族異端の者である自分よりも、

いずれ成長する息子のハヤトに譲ろうと、

ホウオウの前から姿を消したんだ。

だから、


マツバ「……僕は。 運命に抗おうとするハヤテさんがすきだった」





ハヤト「…マツバ」

マツバ「ハヤト、君は見捨てられたんじゃない、それは違う」

初めてマツバはその過去をうち明けた。

ワタル「俺はてっきり、ハヤトが父に迫りすぎて逃げれたんだと…」

イブキ「黙れ。 アンタには一生分からないわよ」

ヤナギ「あのな、ハヤテが消えた早朝、晴天にすげぇ虹が出たんや不思議やろ」

ワタル「まじかよジョウト。人知を超えてんな…」

マツバ「……だが言っておく」

ハヤト「は、はい…」

マツバ「ハヤテさんには悪いけど、ホウオウに会うのは……僕だ」

ハヤト「ふふ。そうですか」

マツバ「……そうです、絶対負けないよ」

ハヤト「マツバがホウオウに会えれば…父も帰ってくるかもしれませんね…」

マツバ「そしたら怒られるかもね、ハヤテさんに"お前じゃねぇよ!"って」

ハヤト「うん。ふたりで叱られましょう…」

マツバ「なら、心づよい」

マツバとハヤトは肩くっつけて笑いだした。


 ヤナギ「っ…」

 長老「なんじゃ、ウルッときたんか?ヤナギも歳よの〜」

 ヤナギ「Σおめぇ…!き、きてねぇよ…!!」


キラキラと輝くマツバとハヤトの笑顔を横目で見て、

ワタルだけが思いっきり・・不服そうに椅子にもたれかかってる。

ワタル「…。」

イツキ「やっぱり伝説のポケモンって、いるんですね…」

 マツバがハヤトの背に手をまわして、ぎゅーっと抱きしめた。

シバ「ああ、俺も精進をしようと思う」

イブキ「Σそうね!シバタ、アタシも精進するわフスベのため!!」

 ハヤトがマツバの後頭部に一撃いれた「調子にのんなや」

長老「なんと頼もしい子じゃイブキ…!」

ヤナギ「これや。フスベも安泰やなジジイ」

 マツバが諦めて戻ってきた「いけると思ったのに…」

イツキ「ちょ、ちょ、ちょ…ジョウト組のスルースキル!!」

シバ「…慣れだ、イツキ」

そこでワタルが、ゴッホン! と大きく咳払いした。


ワタル「なあ。オレもルー…」


ジョウト一同『は?』


ワタル「いやだから、オレもルギー…」


ジョウト一同『はあ?』


ワタル「フッフッフ。フッフ。このオレも、ルギア探そうかな、と」


突然の事でジョウト一同は、しぃん・・と静まり返った。

イツキ「ハイ?何か言った??」

シバ「いま、ルギアといったかワタル」

イブキ「ルギアって、うちの龍神ルギア?」

長老「なんじゃワタル、今さら龍神に興味戻ったんかい」

ヤナギ「おめぇ、ルギアなんか会ってどないすんねん」

マツバ「……喋るの?」

ハヤト「まさか捕まえんですか?それ以上強くなってどうするつもりや」

この最後のハヤトの言葉にジョウト一同は大きく反応をみせた。

「えー」だの「ないわ〜」だの、ワタルめがけて非難が集中した。

あの悪魔のような破壊戦力にルギアの未知数が加わったらという、

"ワタルの もしも"を想像したのだ。

本当に誰も勝てなくなる、そんなのズルイ!


ワタル「…ア?」


ちょっと自分の方も構ってほしくて冗談飛ばしたけだったのに、

身内から出たこの心無いバッシングに、ワタルの顔から表情が消えた。


長老「Σいかん!ワタルがご機嫌斜めじゃ…皆ちょいとワッショイしとくれ」

フスベの長老が手を叩いて、一同に切り替えるよう促した。

ワタル「そーだそーだ王者を敬えー愚民ども」

イブキ「本っ当、面倒くさい兄貴でごめんなさいね」

シバ「ワタル、怒り饅頭を喰え」

いち早くシバが、グィっと饅頭を献上した。

ワタル「もう十分喰ったが!?」

それでもワタルは、6こくらい鷲づかみにした。

…荒れてきてる。

イツキ「シバさん違う、この人は自分を褒めてほしいんだよ…」

シバ「そうか。イツキはよく気づくな」

四天王ふたりを睨みながら、ワタルは もぎゅっと饅頭を噛みちぎった。

ハヤト「! そや…」

閃いたハヤトがすっと手をあげた。

ワタル「ハヤト君」

ハヤト「ワタルさん、今季のリーグ記念で発売されたポスター男前でした」

ワタル「お前に言われんでも知ってる」

イツキ「ポスターか!良い所ついたねハヤト君」

 ハヤト「お前に言われんでも知っとるわ」

マツバ「……まさか。 あの2メートルある等身大の?」

ワタル「Σうお! 浮世離れしてるマツバまでも知ってたか…よしよし」

マツバ「……どっかで見た。」

ワタル「なんだそれ」

ワタルが椅子からずっこけた。


ここからセキエイ事情である。


今季のリーグが始まる直前の昨秋の事だ。

ポケモンリーグから驚くニュースが発表された。

リーグ公式で、所属トレーナーたちのファングッズを、

今までにない規模で大題的にリリースするとの事だった。

それまでのグッズといえば、どちらかというとポケモンが主体で、

人気あるトレーナーに関しては、各々のスポンサーが配布したり、

またはそのトレーナーの後援会やファンクラブなどが、

オリジナルで応援グッズなどを制作するという、統一性の無いものだった。

そこに、ついにポケモンリーグが着手したのである。

「遅いくらい」などと一部お叱りの声も上がったが、

トップトレーナーに憧れる全世界のファン達はこれを大いに歓迎した。


その第一弾が、なんと!

最難関のセキエイリーグ所属のトレーナー5人のグッズであった。


これまで滅多に世間にでてこないレアトレーナーの、

輝く等身大・3Dホログラム加工の大本命ポスターである。

ポケモンはどうした!などと けちつける間もなく、

なんと!!予約開始、ものの数秒で sold-out した。

先行販売分は終了したため、この予約にもれた人々は、

通常販売分を春先まで待つ事となる。

(他地方リーグのトレーナーは、来春より順次発売。)

しかしトレーナーズ・ファン界にとっては大きな前進なのであった。

中でもワタル拘りの男前ポスターは、超がつくほどレアである。

抽選予約を引き当てた所有者が割れずにもはや"幻"と噂されている。

所有者がわからないので、手に入れたくても取り引きできないのだ。


ちなみにワタル自身が、先行分のうち数枚をキープしており、

個人的に…ちょっとした方面へコッソリと送付してやったのだが…

ワタル本人は、"そこ"で大変喜ばれているだろうと信じ込んでいる。

なにせ"幻"の等身大ポスターなのだ。 …だから。

……現実は、知らないほうが良い。(34話参照)



ヤナギ「今年はだいぶ派手に広報活動しとるなセキエイ・リーグ」

長老「公式のグッズがどっさり出たのぅ、おじいちゃんビックリしたわ」

ヤナギ「ジジイ、時代や時代。いまは公式が熱心なんや」

長老「凄い時代になったのぅ…」

ヤナギ「ほんまやな」

将来的にはポケモンセンターなんかでも買えるようになるらしい。


セキエイ四天王のイツキとシバは、互いの顔を見合わせた。

イツキ「実はその件で、裏事情が…」

シバ「実は今シーズン…、ワタルがセキエイ・リーグ出場を渋ったんだ」

ジョウト一同『!!』

ジョウトの人々は、一斉にワタルを見た。

イツキ「大変だったよ…。セキエイ本部総動員で ご機嫌とりしてさ…ハハ」

イツキは乾いた声で笑って、…ハァとため息ついた。

イツキ「それで、ワタルさんを持ち上げるファングッズ製作に繋がったわけ」

シバ「今年のセキエイは、例年以上に王者ワタルに至れり尽くせりだ」

イツキ「開催前にドッと疲弊しました、この人、我が儘し放題すぎませんか!?」

ワタル「いいじゃねぇか。な!結果、良かっただろ」

ポスターの仕上がり具合、ワタルは満足してるのだ。

ジョウトの人々はあきれ果てた。

長老「な、何やっとんじゃお前は…」

イブキ「そんな事があったのねセキエイ…恥ずかしいわ」

ハヤト「そうでしたか。内情知らんと、俺は はしゃいでました…」

マツバ「……はしゃぐ。 ハヤトが」

 ワタル「Σハヤト、それはまさかこのオレのポス…

ハヤト「過去遡って、歴代ジムリ・コレクションなど出されるかも、と…!」

マツバ「……ああ。 お父さんポスター」

ハヤト「勿 論 ハヤテも 等 身 大 やばいわ!!はああ…アァ!!」

 ワタル「…。」

ヤナギ「あかんわそんなん。キキョウが本気で買い閉めにくるで」

イツキ「いや、まだ僕らセキエイのしか出てないんで数年は待ってもらわないと」

ハヤト「ま…待つのは得意や、も、文句あるかァ…!」

イツキ「Σハヤト君、息遣いが荒いんですけど…」

 シバ「(トウキのも出るのだろうか…したらば俺が独占だな)」

 ヤナギ「どこ見とんねん、シバ」

 シバ「Σは。 ホ、ホウエンを…」


ワタル「おい。前年度のセキエイリーグ中継、見てた奴は」


またしても注目奪われたワタルが、大声出した。

ヤナギ「儂らトレーナーや。全員、見とるわボケ」

ワタル「去年のセキエイリーグ挑戦者、"雑魚トレ"ばかりだったろ…」

ジムリーダーの一同は小首を傾げた。

セキエイ出場者なら、ジム戦をしたはずである。

自分達が選出した挑戦者たちは皆…勝ち抜けなかったが、

それなりに奮闘していたと記憶してる。

しかしワタルは、お構いなく続けた、

ワタル「あんなカス弱いトレーナーどもがセキエイ? ハ、信じられねェ!!」

ワタルの話は基本、ワタル基準である。

前年度のリーグといえば、一昨年前の秋から春にかけて行われた公式戦である。

その年は不作で、出場者たちは四天王相手に全く歯が立たなかった。

最後に待つ王者ワタルの出番はなく、チャンピオンの防衛戦は行われずに、

ついにリーグは閉幕したのである。

"不戦勝でまたチャンピオン"

ワタルは閉幕式の直後インタビューにこう言った。

「抑えきれない」

歯をみせて笑っていたがプッツンした顔だ、セキエイ本部は震撼した。


ワタル「だから。…イラついてやっちまったハハハハ!!」


ワタルは前年を思い出して不敵に大笑いした。

シバとイツキのセキエイ組は、ウンザリした様子で肩を落とした。

シバ「ワタル…、去年の閉幕の直後だな…」

イツキ「ハイ…あれは酷過ぎた」

四天王ふたりは、どちらともなく・・同時にため息をついた。

 長老「ま、孫がなにかやらかしましたか…」

シバ「ワタルの気持ちは解かる。しかしな…」

イツキ「いや、あれはただのウサ晴らしだよ…」

 イブキ「ちょっとアンタ、何したのよ」

ワタル「決まってんだろ、破壊光線だ」

ワタルがニッと笑って答えた。

 ハヤト「え、打ったんですか?」

 マツバ「……打った。 どこに」

シバ「"弱者溢れるセキエイリーグよ、危機感もて!"と、怒鳴った後…」

イツキ「セキエイ本部に向けて、いつもの破壊光線ぶっ放しました…」

 ヤナギ「…もう一回、たのむ」

シバ「セキエイ本部に向けて、だ」

イツキ「人いるセキエイ本部に、向けて、破壊光線ですよ?」


ジョウト一同『…。』

やれやれ…。

ジョウトは静まりかえった… が!


長老「なんじゃ。いつものワタルか」

イブキ「それがどうした、日常茶飯よ」

フスベだけはそんなものかと、

あっけらかんとした顔でワタルを見てた。


シバ「Σなんだと」

イツキ「なんなのフスベ人、頭おかしくない?」

ヤナギ「こんなもんやでフスベはな…。すまねぇな」

ヤナギが突き放したフォローを入れた。

ワタル「だって前年度はつまらなかった!!」

ワタルはますます踏ん反り返った。

ワタル「あんなリーグ見てる方も つまらねぇだろ、喝だ!!」

シバ「あれはただの暴力だ」

イツキ「Σてか破壊光線打ってそのまま高飛びですよ!ワル過ぎませんか!?」

ワタル「オレは閉幕と同時に姿消す王者なんだよ!」

 ハヤト「それ。まかり通るんですか」

 マツバ「……酷いね。 セキエイ・リーグ」

イツキ「今シーズンも、開幕ギリギリでセキエイ戻ってくるしー…」

シバ「それも秋になって、俺が…とある山奥で発見したから良かったが…」

 ワタル「おいシバ、それは秘密事項だろ!」

 シバ「Σう…」

そりゃシバだって、殴りたくなる。(33話参照)

イツキ「シバさんが連れ戻さなかったら…この人、試合放棄で失格でしたよ」

ワタル「間に合ったんだから良いだろ!!」

イツキ「い、良いですけど…だって準備とか大変だったでしょ…」

 ワタル「何だイツキ、オレにもっと早く戻って欲しかったわけか」

 イツキ「Σなんでそうなるんですか!」

ワタル「まあ、それでセキエイ戻ってやったら、例のファングッズ企画だと!」

ワタルはフン!と鼻を鳴らした。

ワタル「必死こいてゴマすりやがって、スタッフどもめ!!」

イツキ「ワタルさんの本部襲撃事件は、例のごとく黄金色の力で伏せられました」

ワタル「強けりゃそれが正しい!それがセキエイだからだ!!」

イツキ「メチャクチャですよこの人」

シバ「お前、いつか絶対に捕まるからな…」

ワタル「ア?」

イツキ「いつか、捕まるって言ったんですー!」

ワタル「ほう、そうか。そん時ァ、オレも引退だ」

イツキ「い、いらつく…!」

シバ「カリンにも聞かせてやりたい台詞だ」

ワタル「Σカ !?」


ヤナギ「おめぇら何言ってんねん、分かってねェな…」


ヤナギがフッと嘲笑った。

ワタル「うお、何だ何だ…」

ヤナギ「ワタルは誰よりも素直や。要は、内容あるバトルしたい訳やろ?」

ワタル「Σそうだが!」

ヤナギ「おめぇにピッタリなんがある…!」

ワタル「な、何だよ…」

ヤナギ「 フロンティアや! 」

ワタル「ハ?」

ヤナギ「バトフロの レンタルポケモンで遊んで来いっ !」

ヤナギが、物凄く男前な顔で、ビシッとワタルを指した。

ワタルはポカンとしてる。

…レンタル。

…だとォ!?

ワタル「Σ意味ねぇーーーー!!オレは手持ち6vs6のフルバトルがしたいんや!」

ワタルが立ち上がって、頭抱えて怒鳴ると、

ジョウト一同は堪え切れずに腹抱えて爆笑した。

イブキ「ちょっと〜、手加減してよ〜!!」

ハヤト「飛べへんわ瀕死です〜」

マツバ「息が…苦しい…!!」

長老「ヤナちゃん。良ぇのか悪ぃのか、絶妙なアドバイスやな!」

ヤナギ「Σな…!なんでや、めっちゃええアドバイスや ろ…!!」

ヤナギはとっさに同調者を探したが、ジョウトは全員 噴いている。

珍しく"冬のヤナギ"が赤くなった。

長老「本日一番のキレッキレやがな!そないなピンポイントどっから出たん?」

王者に向かって、バトフロのレンタルポケモンと。

ヤナギ「うるせぇ なんや …ボケども

長老「かわええやろヤナギ、昔から肝心なとこでボケんねやコイツ」

ヤナギ「か、帰る…!!

ハヤト「まあまあ、冗談はさておきや…」

 ヤナギ「Σ (冗 だん)」

ハヤト「俺らはジムがありますから、中々自由が利かないんですよね…」

マツバ「……ワタルさん。 遊んであげられなくてごめん」

ワタル「フン… 別にィ」

長老「ワタルは昔からぶっちぎりに強かったからのぅ…」

ワタル「雑魚ばかりだ。もっと同じくらいのレベルの奴らとバトルしてぇ!」

イブキ「まあ難しいわよね」

ワタル「イブキ、お前もっと鍛えろよ!」

 ハヤト「Σそ、それ以上ですか…!?」

 マツバ「……滅亡だ。 末恐ろしい」

イブキ「どういう事」


イツキ「PWTあるじゃん」

一同『は?』


情報通は、思わず言葉が飛びでてしまった、

イツキ「おっと。 別に、まだ先なのでお忘れ下さい〜」

イツキはワザとらしく口を押さえた。

ワタル「なんだ?なにを隠してる…」

ワタルが にじり寄っていってイツキをロックした。

イツキ「な、なにも…?」

イツキはテヘ☆っと可愛く笑って誤魔化した。


マツバ「……雪だ。」


マツバが突然顔を上げて、窓の外をさした。

ハヤト「神託ですかマツバ」

ワタル「へー。どうせまた10分後とかだろ… って、Σ大雪降っとる!!

皆で騒いでいて気づかなかったが、

洋間の窓の外…いつの間にやら雪が降りはじめ、

それが大雪になり、すでに地上は真っ白だった。

ヤナギ「せやから。言うたやろ、儂が雪雲つれてきた…」

ようやく赤っ恥をクールダウンしたヤナギが、フッと笑った。

長老「吹っ切れたか…ヤナギ」

ワタル「お前ら、帰れるかァこれ…?」

マツバ「……もう。 だめだ、手遅れだよ」

ハヤト「俺の鳥も飛べんわ…凍えてしまう」

イツキ「Σなにこのトップトレーナーの気弱な発言…」


ヤナギ「やい、泊めろやフスベ。帰れねェだろ…」


ワタル「Σヤナギのジジイは絶対帰れるだろ」

ヤナギ「無理や、凍え死ぬ」

ワタル「いや、ジジイに限って ないないない…!」

ハヤト「俺も、凍え死ぬ」

マツバ「……僕も。 冷え死ぬ」

ワタル「な、なに…!」

長老「なんじゃ、泊まるんか。皆ジムは大丈夫なんかぃ?」

イツキ「Σえ みんな泊めて貰うんですか…強引だなぁ」

シバ「泊まりたければ、イツキもそうするといい…」

イブキ「あら、そう。お夕食まではと思ってたけど、準備させなきゃ…」


ハヤト「はぁ、すみません。一晩お世話になります」

マツバ「……布団はハヤトとイツキ君の中間でお願いします」

イツキ「絶対イヤなんで、ワタルさんの隣にして下さい」

ワタル「は? オレの隣ならシバと…」

ハヤト「何言ってんです?ワタルさんは俺の横ですよ…ね」

ワタル「え…」

ハヤト「冗談です、何やその面 (か、可愛ええ奴…!)」

ワタル「Σオレは!!自分の部屋あるから…お前らは大部屋で雑魚寝だバーカ」

イブキ「広間に全員入るかしら… マツバさんだけ 兄貴の所どうぞ」

ワタル「待て、オイ」

マツバ「……ワタルさんの部屋かぁ。」

ワタル「断じて、断わる。」

マツバ「……夜がワクワクするね。」

ワタル「断じて、断わる!」

マツバ「……みんなで怪談話しよう!」

ワタル「Σじゃあ大部屋行きだよバカヤロウ!」

マツバ「……ハヤトを、泣かせよう!」

ハヤト「Σなんでや!!」

長老「家 背負って立っとる割に、みんなまだまだ子供じゃのぅ…」

ヤナギ「それでええんか…甘ェなジジイ」

イブキ「ねえ。まくら投げしましょう。全員本気で


一同『…。(勝てる気がしない…)』



 えーらい寒いわー

 あかーん凍えるわー


枕殴りを想像して、若者一同がサァァ・・と青ざめてると、

窓の外…下の方から何とも凍えかけた声が聞こえた。

ワタル「ん。 何だ何だ…」

一番近かったワタルが立ち上がり、窓を開けて身を乗り出すと、

すぐさま下の方から歓声があがった。

窓の下のマサキ「あっ!助かったわ、ワタルさんや〜!!」

ワタル「Σげ …なんか来た」


窓の下のマサキ「こんちわー!! ボク ポケモーン!!」


ワタル「Σ来たか!お前はマサキ、人間や… Σつーか!不法侵入!!

 窓の下のマサキ「ワタルさーん、つれへんわー喋ったってやー!!」

ワタル「オイオイ」

朝方、電話で話したはずである。

どうやらマサキは、それだけでは物足りなかったらしく…

実際にナマで話し込むため、フスベまで乗り込んで来たようだ。

体力的には一般にも劣るマサキだが、

雪降る中このフスベの山奥までやって来る程の行動力には脅威を感じる。

ワタルが嫌そうな顔して窓の下を睨んでると、

後ろからハヤトが近づいてきて、ワタルの肩越しに窓の下を覗き見た。

ハヤト「うそ。あの人、来てしまったんですか…」

 窓の下のマサキ「Σお!ハヤピー!!夕方会うてもべっぴんさんやなー!」

ハヤト「凄いなぁマサキさんも泊まりですね…賑やかな事で」

ワタル「あ…、ああ」

 窓の下のマサキ「あ!ハヤピー近いわ、鼻の下伸びてんでワタルさん!!」

ワタル「Σ伸びてねェよ!! えーと…、今日何人だ?泊まる野郎は手を上げろ」

 窓の下のマサキ「ええ香りしますかハヤピー!」

ワタル「Σするよウルセェな!! …で、何人だ!?」

マツバ「……さっき話した。 全員」

ワタル「そうか全員か。Σなに全員!? お前ら暇だな…

イブキ「アンタもね。ていうかさっき話した」

長老「ワタルや、騒々しいがお友達でも来たんか?」

ワタル「おう、…ジジイか。特性:喋り倒し のポケモンが来たぞ!」

長老「Σなんやて!喋るポケモンさんが…!!」

 ヤナギ「? なんやそれ、アホか」


ハヤト「あの大変です、ワタルさん、マサキさんが壁をよじ登ってきます…!」


ワタル「ハァ!?」

よそ見してたワタルだが、ハヤトの声に窓の下へ向き直った。

地上ではマサキが登れそうな壁をみつけて、

そこから2階へ上がろうとしていた。

ワタル「Σうお ヤメロヤメロてめぇ、運動能力ウパーなんだからよ!」

 ハヤト「ウ…パー?」

マサキ「Σ笑かさんで下さいチャンピオン!あかん。 こっから動けんです…」

笑いながら登ってたマサキは突然、もの凄く微妙な所で、ピタッと固まった。

固まったマサキ「…怖くて喋れへん。」

そこからもう動けないらしい。

ワタル「なぜそんな半端な所で動けなくなるんだお前は」

マサキ「わい、やっぱだめや…運動無理や…」

マツバ「……落ちる。 すぐ」

ハヤト「Σこれが落ちると!?ワタルさん、はやく救助を」

ワタル「しょうがねェな。…手、出せ。手」

すっと、ワタルはたくましく腕を伸ばした。

マサキ「Σはわわ、チャンピオンと握手や、ちょっと待ったて…手の平拭うから」

テンパったマサキは、せめて服で手汗を拭おうとして とっさに両手を放した。


…あ。


ワタル「…落ちた」

ハヤト「自分から手ェ放して落ちたわ」

ズボッ と。マサキの体は地上の積雪に沈んだ。

マツバ「……ワタルさん、GO」


ワタル「め、めんどくせぇ…」





このマサキを加え、今年のフスベの正月は更に賑やかになる。

ますます会話が弾み、夜通し喋り倒したジョウト一同であった。





【新春、フスベ】


(前略)

…と。

以上のジョウトの男子が集い、一夜を語り明かした。

だが翌朝を迎えると、マツバの姿が忽然と消えていた。

思い起こすと。

確か一度、ふらりと寝床を出ていき、

フスベの家の台所で酒瓶見つけてこれを開け、飲み干す。

何食わぬ顔で戻るが、豹変して大暴れ。

やっとのことでシバあたりが廊下に放り出したのだが、

部屋の外から、障子に指入れ ぼすぼす穴開ける。

その開いた隙間から恨めしそうに中の様子を眺めてくるので、

根負けした一同は、中へ呼び入れてやる。

マツバが新たに抱えてきた寝酒をまわし飲みしてたら、

今度はハヤトが暗くなってきて、

父親と自分の身の上話を淡々と始める。

いち早く飽きたシバが寝床へ戻ると、

何故だかマツバまで一緒に潜ってきたらしく、

再びこれを部屋の外へ放り出す。

イツキとマサキは大笑いして、ワタルの布団にのしかかる。

最初は我慢したが、ずっとケラケラ笑っているので、

ワタルは怒って立ち上がり、二人を一緒に布団で丸める。

それでも奴ら、笑い続けてるので、そういう上戸と察して放置する。

そんな事をしながら時計の針を気にせず騒いでいると、

別で寝ていたヤナギがドヤしにやって来た。

「この部屋、零度にしたろうか」

なにせ ヤナギが恐かったので、全員ピタッと静まり、眠った。

…ふりをして、また騒ぐを繰り返す。

そうこうしてたら、日が昇り。

気づいてみたら、マツバだけ布団の中に居やしない。

皆で探しに行くと、なんともアホウ…!

フスベの実家の玄関出て、

広い庭園を越えて、

城門乗り越え、外側に置かれていたあの巨大な"門松"…

マツバはそれを抱え込むようにして、

すやすやと寝息を立てていたのを発見した所で、


ジョウト一同、ソレを囲むようにして記念写真を撮ったので、

これをホカちゃんをはじめ、赤のキグルミどもの元への年賀とする。

-ワタル-


追伸 バンナイ捕まったか?





正月休みの終わり。

翌日からセキエイリーグの後半戦が始まる。

ワタルは、軽く筆をしたためた。

そしてトキワあたりのポストからホウエン地方へ向けて、


投函した。

















【その頃、タンバショー】


シジマ「アイヤー、 誰かひとり、 わすれてネイ?」

スタッフ「シジマさーん、スタンバイお願いしまーす」

シジマ「まかせてちょ!」





おわり