マボロシ島漂流記



白昼堂々の犯行だった。


ホムラ「ではこの通り、船のパーツは頂いていく」

そう言って悪そうな笑みを浮かべると、ホムラは"海の科学博物館"を後にした。


カイナシティの裏通り。
撤収作業を急ぐ部下達から離れ、ホムラは長期任務・最後の通信報告をした。


ホムラ「ホムラだ。船のパーツを奪取した、任務完了これより帰還する」

バンナイ『――はいはい。こちらマグマ団本部です、ご苦労様でした』

ホムラ「だからなぜ、お前が通信に出る」

バンナイ『マツブサさん、いまショックで寝込んでまして』

ホムラ「本部、なにか異常か」

バンナイ『本部はとても平和ですけど、えーと…』

ホムラ「どうした、早く言… まさか、襲撃犯が帰ったか?」

バンナイ「あぁ、いえいえ違うんです、ワタルさんは相変わらずなんですけど…」

ホムラ「?」

バンナイ「ホカゲさんが脱走しました…」

ホムラ「――なに」




【マボロシ島】


ホカゲ「うーみーはーヒドイーなー おいてけーぼーりーだーなー」


 S O S


ホカゲは歌いながら、砂浜に大きく救助を求めるSOSサインを描いた。

絶海の孤島。

遭難した。

もう3日間程、この島で生活している。



トウキ「おーい、ホカゲ君。潜ってきたけど、大収穫だよ!」

なぜか、トウキと一緒に。


ホカゲ「おお! 寂しかったぞ、トウキさん! てゆーか素潜りも天才だな!」

トウキは髪や体の水気を払いながら、手に持った大きな袋を差し出した。

トウキ「あの日、海へ落ちてしまって諦めた、ホカゲ君の大荷物…」

ホカゲはそれを受け取ると、ゴソゴソと中身を確認した。

ホカゲ「オレのリュックサック〜! トウキさん、喜べ!食料入ってるぜ」

トウキ「や、やったぁ! 何だろう、お菓子かな?」

ホカゲはリュックの中へ手を突っ込むと、グイッと何かを取りあげた。


 チラッ


トウキ「…それ、キミの海パンだろ」

ホカゲ「Σおお! 失敬した、これオレの海パンな。昆布ついてら・・」

トウキ「たぶん、正確にはイソギンチャクかな…」


ホカゲは引き当てた水着を、ズボンのポケットにしまい込んだ。
そしてリュックを逆さに持つと、荷物の中身を全て砂浜に落としブチまけた。
ギュウギュウに詰まっていた菓子類が、ドサリと散らばる。
二人はその光景を、愛しげに見つめた。


トウキ「わあ! まだ食えるかなぁ…袋が破けて、水が入っちまったのもあるけど」


トウキの腹がグーと鳴った。
二人とも、ここ数日ロクなものを食べてなかったので、とんでもなく腹が減っていた。


トウキ「袋詰めの菓子に、…桃缶? フルーツ缶。どうりで荷物が重いわけだ」

ホカゲ「これは万が一、遭難したときのための非常食を…」

トウキ「それで実際遭難してるし…ホカゲ君は、つくづく海と相性悪いよなあ」

ホカゲ「トウキさんが一緒だから、なんとか海に愛されると思ったがダメでした」

トウキ「で…、缶切りは?」

ホカゲ「はぇ!?」

トウキ「この缶詰は、あの道具が無いと開けられないタイプだよ」

ホカゲ「いや入れた! 入れたハズだが、どっか流れてっちまったぽい…」

トウキ「はぁ〜…腹減ったなあ」

ホカゲ「まあ、せめて菓子を食って落ち着こうぜ…」


二人は日陰へ移動して、恐る恐る菓子を開封してみた。


ホカゲ「意外と、いけそー…?」


国内大手ブランドの菓子類は、しっかり密閉されていて、数日間の水圧にも耐えた。


トウキ「すごい!食べれる…ああ、天の恵み、海の幸だぁ〜!!」

ホカゲ「トウキさんが、すげぇバカっぽいコト言ってる…」


対して、地元ブランド・デボンのリリースする100円菓子は全滅だった。


ホカゲ「オレもう、ほんと恥ずかしいぜホウエン人として…」

トウキ「Σば、ばか! 大きな声でそんな…」

なぜかトウキが青ざめた。

ホカゲ「どうしたトウキさん、辺りキョドキョド見渡して…」

トウキ「諸事情あって、口止めされてるからダメだ!ホカゲ君でもこれは内緒だ!」

トウキが深刻な顔で、ブンブン首を横に振った。

ホカゲ「デボンか?」

トウキ「デボンのお菓子は、僕の命を懸けてとっても美味しい!」

ホカゲ「そんなことに大切な命懸けんで下さい。まあ、マズかねーよな」

トウキ「Σだだだダメだそんな、キミは何も知らないからそんなことを…!!」

トウキは突然、ホカゲの口を押さえつけて、辺りを警戒した。

ホカゲ「ウゴーィ!?」

トウキ「Σハッ ごめんそうだ、居るワケないよな居るワケ!」

ホカゲ「な、なにが… ここはトウキさんとオレ、二人っきりだぜ」

トウキ「ふ、二人っきり…って」

トウキは、ハッとして目線を上げた。

トウキ「そうだ…、二人っきり…」

トウキは大きな積乱雲が漂う青空を見つめて、うわぁ…と声を漏らした。

ホカゲ「でもトウキさんが一緒でホント良かったです」

ホカゲも海の上の空を見上げて、頷いた。

トウキ「Σえ! ほんと…」

ホカゲ「だってよ、オレのロンリー遭難だったら、今頃すでに白骨化…」

トウキ「まだえーと…3日間くらいだよ!? あ…僕、ホカゲ君と3日間も一緒」

ホカゲ「トウキさんが毎日、魚取ってくれて火おこしてくれて木の実とってくれて…」

トウキ「ほんとオレ、良く働いてるよな…ホカゲ君なにやってんだ」

ホカゲ「Σ役立たずでスンマセン…」

トウキ「あ…、ごめん。別に責めてるわけじゃあなくて…その」

ホカゲ「本当なら、トウキさんずっと泳いで帰れるんだろ…」

トウキ「まあ、最初のうちなら帰れたかもしれないけど…」

ホカゲ「オレの事はいいから、自分の好きなようにしてくれて構わないんだぜ」

トウキ「違うんだ、僕はここに居たいから居るんだ!」

ホカゲ「え、なんで?」

トウキ「なんでって…そりゃあ…それは…」

ホカゲ「やっぱ、オレがここで足引っ張ってるんだろ」

トウキ「……」

ホカゲ「オレは、トウキさんの邪魔しまくりじゃねーか!」

トウキ「そんな事言うなよ。居たいから居る、残りたいから残ったのさ」

ホカゲ「トウキさん…」

トウキ「僕は、ホカゲ君を置いて行く事なんか、絶対しない。絶対に!」

ホカゲ「トウキさん…、オレがんばるよ… あ、明日から…」

トウキ「うん。明日も一緒にがんばろう!」

ホカゲ「Σおお! トウキさん、マジ優しいぜ!!トウキさん大好きだァ」

トウキ「Σえ!!!!!!!!! うん、うん、うん…ええーと、うん?」

ホカゲ「やっぱオレ、トウキさんとは前世からベストフレンドだったと思うんだ!」

トウキ「あ… うん。」




――夏季休暇なんて大それた事は、言わない。


ホカゲは、謙虚な姿勢でリフレッシュ休暇を要請した。

1日、たった1日でいい。

マツブサはちょっと考えたが、頷いてくれた。
しかし横からバンナイが嫌味を言ってきたので、マツブサは、翌日丸一日をマグマ団全体の休暇日にしてくれた。

ホカゲの目的地は、当初はキナギタウンだった。

ホウエンはロマンの宝庫。
情報収集のため、とにかくキナギを訪れる必要を前々から感じていた。

まずバンナイを誘ってみたが、軽くあしらわれた。

マツブサにも声をかけてみたが、小遣いだけ貰えた。

ワタルには声はかけなかった。
恐らく本人は快諾してくれるだろうが、小さな集落のキナギの皆々様に、確実に、多大なる被害とご迷惑をかけるであろうから。



ホカゲ「トウキさん忙しいよな…?」


あまりにも急な連絡だったが、トウキは「明日、カイナで!」と、爽やかに即答した。そして、その日のうちにジムを閉めて、珍しく荷造りまでして出て来た。

『ジムリーダーが、ジムを空けるのは、本当によくないことである』と、先日もリーグ協会から、タップリしぼられて凹んでいたトウキだったが、ホカゲと電話で会話すると、あっという間に元気を回復したようで、翌日、とても軽い足取りでカイナの船着き場へ到着した。

しばらく待つと、なぜか大荷物を背負ったホカゲが現れた。

ホカゲは、自分は海方面が鬼門なので、遭難グッズを持ってきた!――そう言ってクルクルと回転して見せつけ、トウキを大いに笑わせた。


ちょうどその後ろを……海の科学博物館へ、下見調査へゆくホムラ一行が通っていたなんて、互いに、知りも気づきもしなかった。




トウキ「しっかしホカゲ君……もう、4日目だよ?」


遭難記録4日目。

腰からダボッとゆるく水着を履いたホカゲを見て、トウキが言った。

ホカゲ「なにが?」

ホカゲが振り向いた。

トウキ「色、白いよなー」

こんなに毎日、日差しが強いのに日焼けの気配がない。

ホカゲ「Σそ、そんな目でオレを見ないで下さい…!」

ホカゲは思わず、両手で上半身をガードした。

トウキ「どんな目だ… ていうかそこ、隠すモノが無いだろ!」

ホカゲ「二人しかいねーんだから、そういうヘンな気起こさんようにしような」

トウキ「Σへ、ヘンな気…って」

ホカゲ「オレは、フエンっ子だから女子不足を我慢できるけど…トウキさんは」

トウキ「あ〜…僕、ムロ島っ子だから、女の子いないと寂しいな…なんちゃって!」

ホカゲ「もし。ここに、可愛い女子が一緒に遭難してたら、どする!?」

トウキ「僕、紳士だから」

ホカゲ「Σ絶対うそだろ!!」

トウキ「Σバレたか!!」

トウキは笑ったものの、なんだか心のどこかがチクリと痛んだ。

トウキ「(つらい…)」

ホカゲ「Σお! 砂浜のSOS、消えかかってるからまた書いてくる!」

トウキ「え?」

ホカゲはタッタと走って行ってしまった。

トウキ「360度、どっから見てもやっぱり男だよなぁ…」

トウキは、遠目でホカゲを見つめてタメ息をついた。


 H E L P


ホカゲ「今度はヘルプミーにしてみました」

トウキ「アスにして、僕も助けてくれよ」

ホカゲ「まあとりあえず、せっかくの海パン!てことで、水遊びするぜ」

トウキ「あ、いいね!」


ホカゲは、荷物に入れていたビニールボールを取り出すと、空気を送り込もうと、膨らまし口のデッパリを ハムっと咥え込んだ。

頑張るホカゲのその口元を、トウキは何となく見つめていたのだが、

トウキ「…!」

そんなにまじまじと見つめるのも……と気づいて、海へとそっと目線を移した。

そんな事をホカゲは、まったくお構いなしに息を送り込んでみたが、ビニール同士が頑固に張り付いてなかなか膨らまない。


ホカゲ「トウキさん、すまねぇ。ボールやめて普通に波でパシャろう!」

トウキ「え、膨らまなかった?」


呼ばれたトウキは、ホカゲの手の中の平らなビニールボールの現状を見やると、


トウキ「ボール貸してみろ、僕が膨らませてやるから、一瞬で!」

ホカゲ「なに一瞬!? お、おう…すまねぇ!」

ホカゲは、ヘナヘナ・ビニールボールをトウキに手渡した。

ホカゲ「やっべぇ。トウキさんと間接兄弟だな…」

トウキの眉が、ピクリと動いた。

トウキ「何言ってんだよ、ヘンな誤解すんなよな!」

トウキは笑ってみせたが、ビニールボールを受け取る手が小刻みに揺れていた。

……更に!

トウキ「……」


いざ、ビニールの膨らまし口を見つめると、激しく心が乱れ、動揺してきた。

いろいろな考えが頭を駆け巡る。


トウキ「こで、ここどで、空気だっけ?」

ホカゲ「Σなんと!?」

トウキ「これ、どこで、空気って…デッパリここに決まってるよな、吸うんだよな!」

ホカゲ「Σなぜ吸うんだ、吹き入れるんだろ息を」

トウキ「せ、説明書とか、不親切だよな! つけろってんだよな!」

ホカゲ「説明書なくても分かるだろジョーシキ…トウキさんどうしたんだ?」

ホカゲがトウキの顔を覗き込んだ。

トウキ「は、離れて…!」

トウキは思わず後ずさりして、距離を取った。

ホカゲ「トウキさんって、たまーに錯乱パニックしてる時あるよな」

トウキ「錯乱…」


トウキは手の中のビニールボールをジッと見ると、深呼吸した。
「ヨシ!」と、思いきって口を咥え、空気を送り始めた。


ホカゲ「おお! すげぇ肺活リョーッ」

トウキは、あっという間にビニールボールを膨らましてみせた。

トウキ「ほらっ ホカゲ君、トスッ!」

ホカゲ「Σおお! トス… 」

 ドスッ

トウキ「が、顔面トス…」

ラリーはまったく続かなかったが、二人はビーチバレーと玉拾いを楽しんだ。




その夜。
星空を見上げて、ホカゲはつぶやいた。

ホカゲ「今日はぜってームロ島ギャルの夢を見る…!」

バレーに燃えて疲れていたのか、すぐにホカゲは黙った。

トウキ「え もう眠った…?」

返事がない。

少し離れた場所で寝転がるホカゲを確認してみた。

トウキ「寝顔、可愛いなぁ…って思ってしまう僕って何だろう…」

そろそろ引き返せないところまで来てしまった。




――カイナから船に乗り、そして、キナギタウンへ着くと騒ぎだった。

天候気候、海模様……複雑な条件が奇跡に一致した日のみに現われる幻の島、その名の通り“マボロシ島”の島影が、遥か彼方へ、ぼんやりと見えたらしい。

このマボロシの情報を得て、ホカゲの目が輝いた。
頼んでもないのに、熱心に、キナギとマボロシ島の歴史を語り出した。

マボロシ情報を叩き込まれたトウキは、地元の人間に頼み込み、船を出してもらうことに。

マボロシ島には海の岩場が多いため、船では近づけない。途中から手漕ぎの小舟に代えて、慎重に接近しなければならなかった。

近海の図と、目印とを、頭とポケナビにインプットして、二人は船へ乗り込んだ。

目指せ130番水道、マボロシ島!

そして、ホカゲの試練がはじまった。酷い……船酔い。
トウキは、懸命に背中をさすってやっては「引き返す?」と繰り返した。




トウキ「今日は、もう雑魚寝はやめて簡易ハウスを作ろう!」


遭難5日目。

打ち上げられた流木や、自生する植物の枝、蔓、大きな葉を集めて、トウキはせっせと家を組み立てた。

トウキ「せめて刃物があれば楽だったんだけど…」

原始の時代……以下の、お粗末な家が出来そうな、そんな気がする。
トウキはその昔カントーの離島で経験した、サバイバル修行を思い出した。


トウキ「もっと真面目にアイツから学んどきゃよかった…」

ふいに、頭の中に…ふっくらとした"怒り饅頭"が思い浮かんだ。

トウキ「ああ〜…“怒り饅頭”かぁ。…食いたいなあ」

トウキが、ふと呟いた。

ホカゲ「Σオ、オレも食いてぇ! 甘いあんこが食いてぇ!!」

トウキ「こんなにも"怒り饅頭"が食いたいって思うの…何年ぶりだろう」

トウキがボヤくその横で、ホカゲは砂浜に饅頭の絵を描いて、それを眺めた。

ホカゲ「饅頭の味の記憶を思い出して、乗り切るぞ…うおおお甘い」

トウキ「無事に帰ったら、"怒り饅頭"取り寄せよう…」

ホカゲが振り向いてきた。

ホカゲ「Σセ、セキエイから…?」

トウキ「Σチョ、チョウジから…!」

トウキは頭を横にブンブン振った。

ホカゲ「トウキさん。オレら、ここで永住かなぁ。まあ悪くねぇよな」

トウキ「ホカゲ君、諦めちゃダメだ。ところで…火はおきた?」

ホカゲ「すまねぇオレ、菓子食ってた」

トウキ「お前なぁー…」

滴り落ちる汗をぬぐって、トウキは呆れた声を出した。

ホカゲ「なーんてな。火種って、一度点けたら絶やさぬようしておくべきだろ?」

ホカゲは片手の親指を立てると、クィッと後方を指した。

トウキ「?」

ホカゲの背後で、やっと煙が出る程の小さな薪が燃えていた。

トウキ「うわ!やるなぁ、ホカゲ君!!」

ホカゲ「もっと褒めてやって下さい、普段あんまり褒められねーんだ!」

トウキ「ホカゲ君の、おうちの人に?」

ホカゲ「そうだぜ、あいつら人のことをボケボケボケボケ、ボケってばっかり」

トウキ「そんなことは無… うーん、ちょっとだけ?」

ちょっとだけ……ボケ。

ホカゲ「オレ、オブラートに優しく包んでくれるトウキさんが好きだ」

トウキ「Σすゥ…!!!? いやでも、うん、まだほら、まだなんだよ!」

ホカゲ「なにが?」

勢いで立ち上がって否定したトウキは、静かに座った。

トウキ「僕って…(からかわれてるんじゃ…)」

一日一回、ノホホンと告白されている気がした。




トウキ「太陽が高い位置にきたな。そろそろ腹も減ってきたし…。お〜い!」


昼頃。トウキは作業の手をとめ、ホカゲを呼んだ。

先日のデボン製の水浸し菓子を、なんとか食べられないものかと“天日干し”を試みていたホカゲだったが、トウキの呼びかけに反応した。


ホカゲ「トウキさーん、オレもう魚飽きたぞー!」

トウキ「贅沢を言うなよ! それじゃ僕だって、菓子類は飽きたぞー!!」

ホカゲ「Σオレの持ち込み菓子食っておいて、飽きたとはなんですか!」

トウキ「Σキミが食べてる魚だって、僕が捕ったやつだろ!」

ホカゲ「そったら事いうんなら、オレが見事に大物魚を仕留めてきてやろう!」

トウキ「じゃあ僕は、超レア木の実、見つけてきてやるよ! チイラだ、チイラ!」

ホカゲ「Σ激レア!?」


トウキは島の山へ、ホカゲは海へ 食材を探しに出ることに。
ホカゲは準備体操を念入りに行うと、海に向かって砂浜を駆けて行った。


トウキ「おいおい!そんな勢いよく入ったら獲物が驚いて逃げちまうぞ…」


トウキは爆笑しながら、丘を登り始めた。
ちょっと歩いて、海をふり返ってみると、ホカゲの姿がコツゼンと消えていた。


トウキ「あれ?」

バシャバシャと、もがく音が響いてる。

トウキ「おーい?」

海面に、水しぶきが上がっている。

トウキ「えぇぇぇ 浅瀬でおぼれた!?」

トウキは、荷物を放り投げてホカゲの救助に向かった。




――風の流れが変わったなと思ったら、すぐに島を離れること。

130番水道。

船から小船を降ろし、二人はそちらへ乗り換えた。
船長は心配そうだ。「水ポケモンを持ってないなら、やめるべきだ」そう何度も忠告してきたのだが、二人は「大丈夫」と笑顔で言い張った。

こんなに天候に恵まれて、こんなにも穏やかな海。

トウキは小舟のオールを握ると、海の岩に当らないよう慎重に漕ぎ始めた。

船から、少しずつ、離れていく。
そして再びホカゲの試練がはじまった……酷い船酔い。
トウキは一生懸命オールを漕いで、一刻も早く陸につけるよう専念した。ホカゲは目を真っ赤に充血させながらも、耐えた。

そして、マボロシ島と思われる島にようやく近づいてきた時だった。

ヒュゥ……と、一筋の風が吹きぬけた。

「おや?」と、それを感じたトウキが、オールを漕ぐ手を止めた。

急に停止した揺れがキたホカゲは、喉元を押さえて屈みこんだ。
屈みこんだ拍子に、背負っていた大荷物の肩掛けが、両肩に容赦なく食い込んだ。ホカゲはその衝撃と締めつけに目を白黒させて、必死で堪えねばとプルプル震えた。

見かねたトウキが寄ってきて、ホカゲの背負った荷物のロックを外してやった。

トウキに背中をさすられ、ピンチを乗り越えたホカゲは、あることに気づき、「オヨ?」と小首を傾げた。

「トウキさん…、舟のオールどこいった?」

トウキの、背中をさする手が止まった。
トウキの右手はホカゲの背中、左手は舟の側面を押さえている。

ホカゲの顔に冷汗が一筋、垂れた……
トウキは、表情が固まって 目だけパチパチまばたきしていた。

二人は見つめ合ってから、ゆっくり・おそるおそる海面を見やった。
綺麗に澄んだ海の、小さな波にさらわれて……舟のオールは二本ともバラバラに流されていってしまった。


暗い声で謝るトウキ。
大声で助けを呼ぶホカゲ。

自分が海に入ってボートを押すと言うトウキ。
リュックサックにしがみついて人生の懺悔をはじめるホカゲ。

慌ててホカゲをなだめようとするトウキ。
こうなったら二人泳いでキナギへ帰ろうと言うホカゲ。
カナヅチのキミにそれは不可能だ! と響く声でキメてしまったトウキ。

怒り狂うホカゲ!
謝りまくるトウキ。

ホカゲは「フン」と顔を背けたところで、今度は「ン!?」と身を乗り出した。
遠くの海面から、小さな…黒い三角のなにかが、浮いている。
ホカゲは目を閉じ、瞼をゴシゴシこすってから、また見つめた。
海面から突き出た謎の黒い三角は、先程より近づいてきている。

そう、近づいてきている!

ホカゲが指さして、トウキに知らせた。
「――あれは、サメだ!!」

二人は真っ青になり、慌てて辺りを見渡したが周りはすべて、海。
海面の黒い三角は、野生の大きなサメハダーの、ヒレ。
近づいてきたサメハダーは、小舟のまわりをグルグル回って泳いだ。

絶対、狙われている。

舟のオールもない、ポケモンわすれた、武器として使えるモノもない。

「トウキさん、今までありがとうな」ホカゲは人生の走馬灯が見えた。

「諦めるな、サメハダーを説得してみよう。おーい、サメハダー!」トウキはうっかり野生のサメハダーを呼んでしまった!

ホカゲは目の前が真っ暗になって、アーメンとつぶやいて目を閉じた。
サメハダーは、海面に潜りこんで少し離れると……二人の乗る小舟めがけて、大きく口を開けて猛スピードで突進してきた。

「ホカゲ君、舟の端へ避けろ!」
トウキがイチかバチか、怒鳴ってホカゲを蹴っ飛ばした。

「トウキさん、オレ泳げねぇぇぇえが、頑張る!!」

サメハダーは、舟を真っ二つに食い千切って、そのまま猛スピードで泳いでいってしまった。
無残にも二つに折れた舟は、海へ沈んだ。

ホカゲは間一髪、海へ飛び込んで無事だったが、自分の持ってきた重たい荷物は、海の底へ落ちていった。

海面へ顔を出すと、逆方向へ飛んだトウキも無事で静かに泳いで寄ってきた。

「良かった、ホカゲ君。話は後だ、あまり音を立てないようにして島まで泳ぐよ」
トウキに寄り添われながら、ホカゲは海1キロ程を泳ぎ抜いた。

「トウキさんて、頼りになるよな…マジでド天然だけどな」
「ごめんな。でも…ホカゲ君も、やるときはやる男だな!」

お互い、怪我もなくマボロシ島へ上陸できた。
しかし……一目散に逃げてきて、すっかり気がつかなかったのだ。砂浜で安堵して、ヘトヘトの心と体を休ませている内に、風が強まり、気候が変わったマボロシ島周辺は、すっかり外から、島影が見えない状態になってしまったようだ。

そして数日が経ち、誰にも発見されぬまま……現在に至る。




遭難6日目。


ホカゲ「オレは、あと何回トウキさんに命を救われるんでしょうか」

ホカゲは、砂浜に寝そべって海を眺めながらつぶやいた。

トウキ「僕、ホカゲ君専門のライフセーバだから」

トウキもその隣に寝そべって、あくびをしながら答えた。

ホカゲ「オレはきっと、海に呪われてるに違いねぇ…もう海はこりごりだ!」

トウキ「でもなあ、ホウエン地方って海だらけだよ」

ホカゲ「トウキさん、留守のムロジムは大丈夫なのか…」

トウキ「やばいよな。ムロジムから捜索願出てたりして…あああ」

ホカゲ「でも、捜索願出たら足取りたどって助けがくるかも…!」

トウキ「やっぱり、そんな大事になる前に脱出しなきゃ!イカダを作ろう!」

ホカゲ「簡易ハウスより先にイカダ作りだったな」

トウキ「うん、ちょっと無人島ライフ楽しみすぎてたな!」

ホカゲ「そもそも、オレがトウキさん誘ったりしなきゃ…」

トウキ「まあ、マボロシ島なんか一生来れなかっただろうなあ」

ホカゲ「こんな目に、トウキさん遭わなくてスンだはずだ!」

トウキ「いいよ別に、僕けっこう楽しんでるよ?」

ホカゲ「サメに襲われたり、暑かったり、腹減ったり…風呂入れなかったり」

トウキ「風呂か…フエンの温泉なつかしいなあ」

ホカゲ「フエンか…遠いな。みんな元気かな、ホムラは帰ってきたかな」

トウキ「ホカゲ君、ごめんな!」

ホカゲ「何でトウキさんが謝るんだよ、オレがトウキさんを巻き込んじまったんだ」

トウキ「ホカゲくん…」

ホカゲ「オレなんか、この島置いてけよ。トウキさん、泳いで帰れよ」

トウキ「僕、サバイバルとか野宿は修行でよくやったから全然苦じゃないよ!」

ホカゲ「もっと、怒っていいんだぜ…」

トウキ「そんな顔すんなよ、まだ6日目だろ?さすがに10年とかだと困るけど…」

ホカゲ「10年もマボロシ島住んだら、オレらマボロシ原人じゃねーか?」

トウキ「Σ僕らがついに都市伝説に!?」




今日はなんだか、海が荒れている気がする。

遭難してから毎日、トウキは海に潜っていたのだが、昨日までとは違い、海水が少し濁っている。湿度が高く、風が強くて雲の流れがはやい……これは嫌な予感がする。

一方、ホカゲは砂浜でゴロゴロ転がって過ごしていたのだが、空を見上げる顔に、急にポツ ポツ・・と、水滴が落ちてきた。


ホカゲ「雨ー…!」

トウキ「うわ、参ったなぁ。ちょっと荒れてきそうだ」

ホカゲ「これから大雨か?」

トウキ「いや、もしかしたら結構強いのが来るかも…」

ホカゲ「Σた、台風!?」

トウキ「ハリケーンかも! ここじゃ危険だから、準備をしておこう」

ホカゲ「なんかトウキさんと一緒なら乗り切れそうな気がするぜ!」

トウキ「僕も、ホカゲ君がいるから頑張れる気がする…!」

二人は拳をくっ付け合って、それぞれ行動を開始した。


トウキはハリケーン回避ポイントを探し歩いた。
落雷や、地すべりの危険を踏まえて、もっともリスクの低い場所を選んだ。

それは……!


トウキ「昨日作った、このマイホームかな…!」

トウキは、突貫工事の簡易ハウスを見つめて言った。

ホカゲ「Σでもトウキさん、我々のマイホームは屋根が葉っぱ…」

トウキ「だってこの島、どこ探しても安全な場所なんて無いよ…ここで踏ん張ろう」

どこでも野ざらし、雨風をしのげそうな都合のよいポイントは見つからなかった。

ホカゲ「オレらの運と体力次第か…」

トウキ「運はきっと絶望的だから、体力でカバーしよう!」

ホカゲ「おう!」

簡易ハウスに、出来る限りの補強をしてみた。



風は強まり、遠く沖の方では高い波がたっていた。
二人はハウスの中から、海を見つめドギマギしながら過ごした。


トウキ「だんだん日が落ちてきたね…大丈夫?」

ホカゲ「あそこで水遊びしてた頃が懐かしいぜ」

トウキ「でも、今ちょっとビッグウェーブ!サーフ・エンジンかかりそう!」

ホカゲ「いま、なんと!?」

トウキ「ギリギリまで波に乗りたい…ボード、ボード…あ、あの木片で…」

ホカゲ「Σトウキさんどうした!」

トウキ「ちょっとホカゲ君、僕テイクオフ!!」

ホカゲ「Σや、やめろ海、危険だって自分で言ったろ!」

トウキ「ギリギリなったら戻ってくるから、頼む!今すっごいビッグウェーブ!」

ホカゲ「Σギリギリって何だ!落ち着けトウキさん、あれはただの木片です!」

トウキ「あの波を見ろよ! すっげぇ!!」

ホカゲ「まてまて、絶対行かせねーぞ!」

トウキ「例えばホカゲ君の目の前に、伝説の温泉がある。すぐ、入るだろ?」

ホカゲ「Σ入る、が・・天候回復するの待ってから安全に入る!」

トウキ「Σ天候回復したら、波がなくなっちまうだろ!!」

ホカゲ「トウキさん、それマジなのかマジで言ってるのか!」

トウキ「マジだよ! 僕はジムリーダーである前に、ひとりのサーファー!」

ホカゲ「Σだめだぁ! 木片なんかで波乗りできるわけねぇだろ!!」

トウキ「自分が何言ってるのか解ってるのか!」

ホカゲ「Σそりゃオレの台詞だあほー!!」

トウキ「せめて近く行って見るだけだから!」

ホカゲ「トウキさん、目がイっちまってねぇか?」

トウキ「海には入らないから!」

ホカゲ「ドザエモンになっちまうぞ!」

トウキ「すぐ帰ってくるから、ちょっとそこをどいてくれ!」

ホカゲ「お、落ち着くんだトウキさん…トウキさん… チクショー!」

 ドカッ

トウキ「Σわ!」

ホカゲの右ストレートがトウキの頬の横をカスって、背後の木に当たった。

ホカゲ「オレがトウキさん殴れるワケねーだろ…勘弁してくれよ」

トウキ「ごめん、正気もどった」

ホカゲ「すまねぇ、もちろん殴るつもりはなかったが…」

トウキ「あ、大丈夫だよ。そんなパンチ避けられるから」

ホカゲ「Σなにィ!!(からかわれたのか…!?)」




いよいよマボロシ島にハリケーンが上陸した。

二人の居る簡易ハウスを、猛烈な雨風が襲ってきた。
二人は家の柱を押さえて持っていかれないよう力を振り絞った。
四方八方から予測不能の突風が吹きつけてくる。


ホカゲ「何の試練だよ!」

トウキ「雨漏りレベルじゃねぇよな、マイホームが水浸し!」

屋根に使用していた大きな葉が剥がされ、風に持っていかれてしまった。

ホカゲ「Σナッパ〜!!」

そこから大粒の雨が、矢のように容赦なく降ってきた。

トウキ「Σ痛いぞコノヤロー!」

ホカゲがせっせと天日干ししたデボン製の菓子は雨水攻撃で、終わった。

ホカゲ「さよならデボン、水没そしてグチャグチャ」

トウキ「デボンをバカにしちゃあだめだ!!」

二人はハリケーンのパワーに絶叫しながら、戦い続けた。



数時間後。



ハリケーンの去ったマボロシ島は、穏やかだった。
いろんなものが吹っ飛ばされた簡易ハウスから、二人は這い出てきた。


ホカゲ「生きてるか」

トウキ「ホカゲ君、生きてるか」

二人がフラフラとやっとこさ抜け出すと、簡易ハウスは音もたてずに崩れ去った。

ホカゲ「オ、オレらの家が…」

トウキ「オレ、生きてた?」

ホカゲ「オレも、生きてる…」

トウキ「生きてた…」

ホカゲ「トウキさんが生きてた…!」

二人は互いの手を取り合うと、砂浜に倒れ込んだ。

ホカゲ「トウキさん、もうオレらケッコンすべきだ…」

トウキ「そうだね、じゃあ僕フエンに婿入りな…」

二人は弱々しく笑って噴き出すと、そのまま目を閉じた。




遭難、7日目。


ホムラ「……」

砂浜で眠る二人のボロボロの姿を、ホムラは静かに見下ろしていた。

ホムラ「……」

砂まみれで、擦り傷だらけで、衣類はところどころ裂けている。

ホムラ「おい、これはなんだ…」

ホムラの額に、青筋が浮き出ていた。
ホカゲとトウキが、とても安らかな顔でスヤスヤと眠っている。
何故か…しっかりと手を繋いで。

苛立つホムラの後ろで、マグマ団員達はブルブル震えていた。


そこでトウキの目が、うっすらと開いた。

トウキ「ふあ〜…よく寝た!」

トウキはゆっくり起き上がろうとしたのだが、

トウキ「あれ?」

手が何かに絡まって持ち上がらない。

トウキ「Σうわ!!」

トウキは慌てた、自分の手がホカゲと重なっていて、指の1本1本がしっかり絡み合って握られてるのを見て、仰け反った。

無表情で見つめる、ホムラの目の前で…。


ホムラ「よォ、元気か 」


ホムラは声をかけると、口を吊り上げて笑ってみせた。

トウキ「Σえ! ホカゲ君のおにいさ… まさか」


ホムラの目は、笑っていない。
ギョッとしたトウキの心臓が、凍った。


ホムラ「船が必要かと思って来てみたんだが…、ヤボだったな」

ホムラはまたしても笑った。

トウキ「えーと、これはそのハリケーンから生還したそのノリで…」

トウキは、ホカゲの手をマッハで振りほどいた。

ホムラ「お前らが無事なのは分かった、では帰る」

ホムラは背中を向けると、砂浜を歩きだした。

トウキは、その方向を見てびっくりした。
よく晴れた空の下、視界良好な穏やかな海。少し離れた場所に、一隻の船が停泊している。海岸にボートが乗りつけてあって、ホムラはそれに向かって歩いている。


トウキ「Σ待って、ホカゲ君を運ばないと…」

トウキは、立ち上がったがすぐに膝をついてしまった。

トウキ「くっ… 結構キツイかな」


トウキは砂浜に手をつくと、ホカゲの顔を見つめた。
そこへホムラがワザとらしく戻ってきた。


ホムラ「島に悔いはないのか?」

トウキ「あ、はい。ホカゲ君を休ませてあげないと…手を貸して」

ホムラ「ったく、世話の焼ける馬鹿野郎…」

ホムラは屈みこんで、ホカゲを背中に背負い込んだ。

トウキ「まさか、フエンから助けに来てくれるなんて思わなかったよ」

ホムラ「いや、カイナからだ。船にアテがあったのでな」

トウキ「助かりました、ありがとう」

ホムラ「ホカゲが世話になったな… 色々と 」

トウキ「Σなんか、言葉の最後の方にトゲが…!」

ホムラ「先にボートに乗れ。この馬鹿結構、重いんだ」

ホカゲ「――ん」

ホムラ「気づいたか…?」

トウキ「ホカゲ君…!」

ホムラの背中で、ホカゲの小さな声がした。


ホカゲ「――ん… トウキさん…」


ホムラ「……」

トウキ「あ…」


ホムラの額にまたしても青筋がバキッと立ったかと思うと、

 ドサッ

ホムラは、背中のホカゲから手を放してそのまま砂浜へ落とした。
そしてふり返りもせず、そのままボートに向かって歩いて行った。


トウキ「Σホカゲ君ー!?」

ホカゲ「Σなんだ、何があったなんでだ!!」

その衝撃でホカゲが目を覚まして、辺りをキョロキョロ見渡した。

ホカゲ「おお! ハリケーンすっかり去ったなトウキさん!」

トウキ「無事か、どこか痛まないか?」

ホカゲ「ケツが痛ぇ…」

トウキ「ホカゲ君、あれ見ろ…船だ! ホカゲ君のお兄さんが助けに来てくれた!」

ホカゲ「ええ? SOSが叶ったかー……って、なんだホムラかよ」

ホカゲは、さっさとボートに乗り込んだホムラの姿を見つけて手を振った。

ホムラはそれを無視した。

ホカゲ「? なんか、あいつ不機嫌だな…」

トウキ「ごめん」

ホカゲ「Σなぜトウキさんが謝る?!」


ホムラ「――舟を出せ 」

団員「――了解であります!」


ホカゲ「Σあ、あんにゃろー! オレら置いてくつもりか」

トウキ「ホカゲ君、すぐ走ると危ないぞ!」

ホカゲ「おーいホームラー!久しぶりだなァ、てか乗せてくれー!!」

ホカゲはボートを追いかけて、そのまま走って海へ入っていった。

ホムラ「…止めろ」

ホムラはため息をつくと、ボートを止めさせ、二人を乗せ入れた。

ホカゲ「ホムラ、すまねぇな長期任務の帰りか?」

ホムラ「帰還するついでに、テメェを拾いに来てやったんだよ」

ホカゲ「素直じゃねぇな…オレが心配だったんだろ?」

ホムラ「脱走した団員は処罰してやる」

ホカゲ「優しくしてくれ、オレは遭難してたんだぞ!」

ホムラ「ズル休み、サボり、無断欠勤。テメェは平団員に格下げだ」

ホカゲ「え…!」

トウキ「お、お兄さん。とりあえず怒り饅頭あとで送りますね!」

ホムラ「何故いま、怒り饅頭だ」

トウキ「あ、甘いもんでも食って仲直りして下さい!」

ホカゲ「いいよな、怒り饅頭〜!」

ホムラ「これはうちの問題で… ッ!?」

ホムラはトウキを睨んで言ったが、途中で言葉を切った。

ホカゲ「あのな〜おめぇ、トウキさんに失礼だろ、超命の恩人だぞ!」

ホカゲがホムラを睨み返してきた。
トウキは、ホムラが自分より後方の何かを見つめていることに気づき、自身も つられて背後を振り返ってみた。


トウキ「え…」

トウキも同じように固まった。

ホカゲ「どしたー 二人とも、なんだなんだ?」

ホカゲも二人を真似て、同じ方へ視線を向けてみた。

ホカゲ「まじでか…」


たった今、出てきたはずの島……

砂浜、丘……そこにあったはずの家。

なにもかも、いつのまにか さっぱりと無くなって、そこは一面、穏やかな海が広がっていた。


ホカゲ「ま、まぼろし…」





おわり