ホムラ『ホムラだ。いまカナズミシティにいる』
マツブサ「こちらマツブサです。マグマ団本部、アジトともに異常ありません」
ホムラ『デボンコーポレーションの社員になった』
マツブサ「ご入社おめでとうございます」
ホムラ『その後、襲撃犯の様子はどうだ』
マツブサ「今のところ静かなので、今日は温泉や観光を勧めようかと」
ホムラ『そうか…。俺が帰るまで絶対逃がすなよ』
マツブサ「ホムラ君…もしやチャンピオンに会いたいの?」
ホムラ『そんなことはない、切る』
プツ (通信切断)
マツブサ「やれやれ…なんとか無事に朝を迎えたけど、どうなることやら」
ワタルの襲撃から、一夜明け。
無残に破壊されたマグマ団本部に、朝日が差し込んでいた。
昨日、突如現れた恐怖の襲撃犯がまさか天下のリーグのチャンピオン……とは、さすがに団員達へは伝えられず、ワタルの身分は伏せて、組織上層部だけのシークレットという事に決定した。
もちろん有名人なので、中には気づいてしまった団員もいるのだが、あの素晴らしい戦いをする頂点の、素顔と事実を受け止められず……とりあえずは“信じない”という現実逃避を、彼らは選んだ。
ホカゲ「好きなトレーナーランキング、4年連続1位だとォ!?」
ホカゲは私室で絶叫した。
自身のコレクションの、ありったけの週刊誌のバックナンバーを引っ張り出し、偉大すぎるトレーナー“ワタル”に関しての記事を探していた。
全国のトレーナー何千万分の……1位!?
ホカゲ「あと1年で、好きトレ殿堂入りするハズだったのか…そりゃショックだよな」
毎号、あまりにも登場しすぎていて、逆に見過ごしていた。
奴は、公私ともにトンデモナイ男だ…!
ホカゲ「オレ、言わなきゃ…ワタルさんはこんな所に居てはダメだァ…!!」
ホカゲは、あわてて部屋を飛び出した。
飛び出した所で、何故か同時に隣の部屋からワタルがあくびをしながら出て来た。
ホカゲ「およ!?」
そのワタルの、髪……朝もハヨから、お馴染のツンツン頭だ。
ワタル「おー…? ホカゲちゃんか、よっ!」
ホカゲと目が合うと、ワタルは手を上げて元気に挨拶してきた。ホカゲは、ワタルの出てきたその部屋を確認して固まった。
ホカゲ「不在のハズの、ホムラの部屋からワタルさんが出てきた…なぜだ!」
ワタル「ああ、これからちょっと朝のウォーミングUPに行こうと思って」
ホカゲ「そうじゃなくて、なぜその部屋から出てきたんですか」
ワタル「空いていたから、この部屋使わせてもらったんだ文句あるか」
ホカゲ「Σ朝からガンを飛ばすな!」
ワタル「あ、メンチしてたかスマン! なにか文句ありましたか」
ホカゲ「Σ変わらねぇ! ていうか、ホムラの部屋は鍵掛かってたろ?」
ワタル「いや〜? ちょっとドアノブ壊れてるみたいだったが」
ホカゲ「Σおめぇホムラのドアノブを壊したな!!!!」
ワタル「Σオ、オレ壊してねぇよ…オレじゃねぇオレじゃ…あれ、オレかな?」
ホカゲは、これはホムラ帰還までに最速修理をしなければならないと思った。
ワタル「そこはコケるところだろ、ホカちゃん!」
突っ立ったまま考え込むホカゲの姿を見て、ワタルはオイ!と怒った。
ワタル「もう、今日はこの部屋いやだぜ、犬くせぇ。オレ、犬嫌いなんだ」
ホカゲ「犬嫌いなら、マグマ団は向いてねぇよ。猫派か?」
ワタル「Σドラゴン派?」
歯を見せた笑顔をつくり、ワタルは親指を立てて、大プッシュした。
ホカゲ「マグマ団と相性悪いから、お帰り下さい。それがおめーのためだ」
ワタル「自分で振っておいて、無視するな!!」
ホカゲ「朝から騒がしいなぁ、なんで朝からそんな元気なんだワタルさん」
ワタル「ホカゲちゃんスゲェよ。スゲェ、ジョウト人殺しだ…」
ホカゲ「ワタルさん。オレあんまよく解らねーんだが、ワタルさんて面倒くせぇな」
ワタル「その“ワタルさん”ていうのやめようや、オレらもう友達だろ」
ホカゲ「Σいつごろから!?」
ワタル「ところで、今日はその――」
ビィィィィッ ドォォォン
ワタルが喋ろうとしたところで、何か大きな破壊音が聞こえた。
ホカゲ「Σな、なんだ!?今の何の音だ!?」
ワタル「あ、これオレの妹用のポケギア着信音で破壊光線の音」
ホカゲ「い、いもうと? ぽ、ぽけぎあ? …ポケナビ?」
ワタル「ポケギア知らねぇの?ホウエン地方って時代遅れてるな」
ホカゲ「あ…ポケナビ、デボン製か。てゆーか、破壊光線すきだな…」
ワタル「ちょっと待ってろ。 あーもしもし俺だ」
電話の声『”#R#$”%(’’’)※”$%#!!!!!(`皿´)!!!』
ワタル「ホウエンだ、ホウエン! あ!? どこだっていいだろ!?」
電話の声『@〓&$§Ω¢○◎●〜!!!!!(`▽´)!!!』
ワタル「迷ってねぇ!! 生意気だ!帰ったらシメてやる!!!」
電話の声『潟VルフカンパニーΘΛΘ!!!!!(`з´)!!!』
ワタル「Σな…! す、すんません…。ああ、ああ、切るな…」
ワタル「負けた…」
ホカゲ「Σすごい負けてた…!」
ワタルはしょんぼりして、ツンツンだった髪まで垂れ下がっていた。
ワタル「ホカちゃん、うちの妹を嫁に貰ってやってくれないか…」
ホカゲ「え… か、可愛い?」
ワタル「可愛くない、そして強い」
ホカゲ「……」
ワタル「いや。別に、やらねぇし」
ホカゲ「Σいらねぇし。つーか、おめーら兄妹マジ声デカ過ぎ!!」
ワタル「ところでホカちゃん、今日はその…」
先程は電話に遮られたが、ワタルは何か言いたそうにウズウズした。
ワタル「今日は、キグルミ着ないのか!」
ワタルの目がキラキラ輝きだした。
ホカゲ「あ、団服か? 別に着てもいいんだけど、オレの動きづらいんだよな…」
ワタル「昨日、ザッと見た感じだと、オレはホカちゃんのキグルミが一番好みだ!」
ホカゲ「Σま、まじか! オレのキグルミ一番いいのか!」
ワタル「長いマントは、ジャスティス!ドラゴン使いの証だぜ」
ワタルの言葉に、ホカゲの目もキラキラキラと輝きだした。
ホカゲは急いで自分の部屋の扉を開けて、ワタルを振り返った。
ホカゲ「ワタルさん、オレちょっくら着替えてくるから待って…
グイグイ
ワタル「お〜!ここホカちゃんの部屋か〜、雑誌が散乱してるぞ」
ホカゲ「Σ招待はしてねぇぞ!!」
パタン (閉まる)
…… …… ……
パタン! (開いた)
ホカゲ「これがマグマ団幹部1かっこいい団服だ!」
ワタル「そしてこれが、マグマ団一般団員の団服だ!」
団服を着こんで、二人揃ってホカゲの部屋から再登場した。
ホカゲ「ワタルさん、オレの下っ端時代のお下がり団服だいじにしろよ」
ワタル「団服が赤いところは気に入ったが、問題はマントだ。大問題だ」
ホカゲ「ダメだぞ! 下っ端は、幹部の長いマントに憧れる伝統なんだからな!」
ワタル「ホカちゃん以外に、幹部っているのか?」
ホカゲ「お前が勝手に使った部屋の主、ホムラがいるぜ…あとで謝れよな」
ワタル「そいつのマントも、長いのか?」
ホカゲ「ホムラがノーマルな幹部服だな。オレのは改造したんだぜ!超長くして真っ直ぐカットして…」
ワタル「マントに熱い奴って、オレすげぇ好きだぜ!」
ホカゲ「まじでか、マントいいよなマント!」
ワタル「なあ〜!! ロマンだよなぁ〜!!」
ホカゲ「Σロマンだと! オレもう、ワタルさんが他人に思えねぇ…マグマ団へようこそ!!」
ワタル「Σやっと歓迎された!!」
ホカゲ「そういえばホムラも、昔はバイクで轢いてマントの裾ボロボロ加工してたなぁ…あの頃は若かったなぁ」
ワタル「それは邪道だ」
ホカゲ「Σホムラは邪道か!!」
――当時。
口にこそ出さなかったが、ホムラが自慢げに歩いてたのを思い出した。
それは幹部のホムラ・スタイルとして、マグマ団の小さな世界で流行したが……下っ端の団服の、短い上着のマントで真似した彼らの哀れな姿を、団服原案者のマツブサは、泣きそうになりながら見つめてたりもした。
ホカゲ「じ、実はオレ…ワタルさんの髪の色も、すっげーイイナと思ってたんだぜ」
ワタル「Σそ、そうか!! オレもこの色、すっげー気に入ってるんだ!!」
ホカゲ「オレも死ぬまでには、ピンクにしたい」
ワタル「オレは死ぬまでには、金髪にしたい」
ホカゲ「あ、オレのは地毛ですから…」
ワタル「あ、オレだってピンク地毛だぜ…」
ホカゲ「ワタルさん、昔の写真は髪が赤かったぞ」
ワタル「そういうお前だって、髪の根元は…」
ホカゲ「Σな、なにィ!」
ワタル「ユー エス オー」
バンナイ「ああ! ようやく見つけましたよワタルさん」
施設の案内がてらに、ホカゲとワタルが(団服を見せびらかしながら)歩いると、バンナイが現れた。
ワタル「朝から出るな、お前のツラ見るとイラついてくんだよ」
バンナイを見るなり、ワタルは大きな悪態をついた。
フロアのど真ん中でピリつくソレを聞きつけ、昨日の襲撃の目に遭いワタルの登場に怯えて隠れていた団員達が、ヒョイっと顔を出した。
バンナイ「Σいつ会っても酷い! てか、そんな下っ端の服着ちゃって…」
得意気にマグマ団下っ端団服を着るワタルを見て、バンナイは思わず噴き出した。
ホカゲ「おお!バンナイ君、この団服な、オレの下っ端時代のなんだぜ!」
ホカゲが二人の間に割って入り、ワタルの団服を指さしキラキラした。見守る団員達のなかから「ああ〜…」とか「いいな〜…」とか、どうもジンクス欲しさの羨まし声が聞こえた。
バンナイ「Σえ ちょっと、ワタルさんに何着せてるんだよ!!」
ホカゲ「何とはなんだ、バンナイ君!」
バンナイ「ワタルさん…そんなオンボロやめて新しいのやるからついて来て」
ホカゲ「オ、オンボロ…」
ホカゲは開いた口がふさがらない。
バンナイ「そ…、そ れ か! 俺が下っ端だった頃の服着なよ★」
バンナイは、ワタルの腕をつかんで連れて行こうとした。
ホカゲ「バンナイ君の団服だとサイズ合わないんじゃねぇか…?」
ワタル「はなせ盗っ人! お前の団服なんか、テコでも着ない!!」
バンナイ「てこ!?」
ホカゲ「てこ!?」
団員達『てこ!?』
ワタル「――い、意地でも着ない!!」
バンナイ「それ冗談だったんですか、本気だったんですか」
ホカゲ「いまのカンジだと本気っぽいぜ」
ワタル「カントーのハナダってところで流行ってるんだよ…」
ホカゲ「アナクボ風にごまかしたな…いまの子供にはわからないだろ!」
バンナイ「そうそう、マツブサさんからワタルさんへ言付かってるんです」
バンナイは、どこからともなくサッと用紙が挟まったファイルを取り出した。
ワタル「なんだこれ」
ワタルは、バンナイの手からファイルをブン取って、怪訝そうに眺めた。
ホカゲ「おお!これは入団シートだ。入団したい奴に渡す、リレキショっぽいやつ」
【入団シート】
・なまえ
・血液型
・ポケモンジムに挑戦した経験があれば、所持バッジの数
ワタル「こんな簡素なモンでいいのか?」
ホカゲ「だって、うち悪の組織ですから…あんま掘り下げちゃいけねーんだよ」
バンナイ「血液型、重要らしいよ。部屋わけや部隊の編入でドンパチしないように」
ワタル「アーホ。この3つのうちで、一番重要なのは3番目だろ、公の実力」
ホカゲ「Σいや、ジム戦してバッジまで持ってるやつなんてホトンドいねぇから…」
ワタル「つまり、弱いんだな」
ホカゲ「オレはそこそこ強いぜ」
バンナイ「俺も強いぜ」
ワタル「俺よりゃ弱ェだろ」
二人『Σあったり前ェだろ!!』
ワタル「バッジ何個持っていたかな…カントーと、ジョウトも持ってたなァ…」
ホカゲとバンナイ、更には団員まで期待の眼差しで見つめてきた。
ワタル「てか、どこ行ったかなァ… シバだったけかなァ…」
ホカゲ「Σワタルさん、今の流れでどうしてシバの名前が出てくんだよ」
ワタル「ああ。オレのもの、だいたいはシバが管理してんだよ」
ホカゲ「Σえ、シバが!?」
ワタル「そうだ、勝手にな。ちょっと電話して聞いてみるか…」
ホカゲ「Σえ、あのシバに!?」
その場の一同は、まさかで突然の展開にドキドキした。
ワタルは、先ほどのポケギアを取り出した。
バンナイ「あのポケギア、ワタルカラーでシルフの限定生産モノだよ」
ホカゲ「おお!キレイな赤色だなぁカッコいいなぁ〜 Σてか詳しいな」
だがワタルは、電話をかけることはしなかった。
最初の画面に表示された“何か”を見て、ひとまずそれを確認した。
ボタンを押し、耳へ押し当てる……録音メッセージのようだったが……一瞬、爆音がした。それ聞くや否や、ワタルは思いっきりポケギアを床へ叩き捨てた。
その場の一同は、何が起こったのか理解できない。新品同様にピカピカだったワタルのポケギアは、部品がぶっ飛び、無残にオジャンした。
一同『えぇええええええええええええええええええええええええ!?』
ワタル「イーーーーーブキィィィィ!!あんにゃろめーー!!!!」
ワタルは悔しそうにギリギリ拳を固めた。が、床の粉々ポケギアに気づくと、
ワタル「すまん、連絡の手段は失せた」
と、ケロリと言い放った。
ワタル「電話だメールだうるせぇから、消音してたんだよ。そしたら逆襲された」
ワタルは、入団シートのバッジの数に"わすれた"と一言書いた。
バンナイはファイルを受け取ると、ワタルに斜めの呆れた目線を送った。
ホカゲ「妹さんに、良い婿さん見つかるといいな…」
ホカゲは、その場の下っ端団員と一緒になってブルブル震えながら言った。
バンナイ「で。 お次ですがね。外いけ、外」
バンナイは預かったファイルを、どこかともかへ シュッとしまうと、先を歩いて行き、二人を手招きして呼んだ。
ワタル「オレに指図するな!」
ホカゲ「オレ、そろそろ朝飯食いてぇんだけどなぁー…」
バンナイ「あ。別に用があるのはワタルさんだから、ホカゲさん帰っていいよ?」
ホカゲ「そ、そうか! 目玉焼きにはマヨ! じゃあな!!」
ホカゲが方向転換して戻ろうとすると、たくましい腕が首元をロックした。
ワタル「冷たいこと言うな!」
ワタルはそのまま、ホカゲを引きずって歩いていった。
ホカゲ「だれかたすけろ〜」
バンナイに先導され、二人は一番下のフロアまで降りた。
昨日の襲撃事件で、ワタルの通った場所は、破壊光線で壁が抜け階段まで見事な一本道が出来ていた。
ホカゲ「無残だ。ワタルさん、これを見てどう思うよ」
ワタル「ゴチャゴチャしてたから、通りやすくて良くなった」
バンナイ「とってもご都合主義ですね」
『安全大地』と書かれたヘルメットを被り、団員達が片付けている。
本日はこれから、マツブサが手配した“その道”の修理屋が特急で入る予定。
スカスカの正面玄関を通り抜け、三人は裏庭へ出た。
朝日の清々しい空気の中、マグマ団最大の癒しスポットへ到着した。
ホカゲ「おお〜!ポチエナども、ホムラに会えなくてさみしいか〜!!」
【マグマ団ポチエナ小屋】
小屋と言っても、ポチエナからグラエナまで何十匹も飼われている建物だ。
ちなみに“あのホムラ”が、誰もいない早朝を見計らってやってくる、大のお気に入りの場所である(M団暗黙の了解)。
ホカゲが腕を広げて待機してるのに、ポチエナは一匹すら寄ってこない。
しょうがないので、ホカゲは自分から近づいていった。
バンナイ「ホカゲさん、まったく懐かれなくてマグマ団何年目だァ?」
バンナイは鼻で笑った。
ワタル「オレ、犬が嫌いって言ったよな」
ワタルは、ポチエナとたわむれはじめたホカゲの見てつぶやいた。
ホカゲ「Σえ、めんこいポチエナ見てキーュンとしねーか!?」
バンナイ「ワタルさん、慣れだよ慣れ。この俺だって、マグマ団入るまでは…」
バンナイも小屋へ近づいていって、ホカゲの隣に屈みこんだ。
バンナイ「ポチエナってやつが、こんなにも可愛いなんて知らなかったよ!」
だが、バンナイは警戒したポチエナたちに唸られた。
それを隣で見たホカゲは、フンッと鼻で笑い返した。
ワタル「バンナイ…お前、変わったなー」
ホカゲ「そういえば。ワタルさんとバンナイ君は、知り合いだっけか」
バンナイ「ホカゲさん。誰が呼んだか、怪盗バンナイとは俺のことさ」
ホカゲ「誰が呼んだんだよ」
バンナイ「ワタルさん、わかっただろ? 俺はホウエンでマヌケに暮らしてるんだよ」
ワタル「…お前、人生やり直してるんだな。良いことじゃねぇか」
バンナイ「ホカゲさん、忠告しとくけど。この人は警察と繋がってるイヤ〜な人種なんだ、慣れ合いも程々にな」
ホカゲ「そういえば、Gメンだって言ってたな。あれまじなのか」
ワタル「いろいろあって、リーグの頭おかしい奴が勝手に推薦しちまってよ」
ホカゲ「だよな、ぜってーおかしいよな! ワタルさん見るからにワルだよな!」
ワタル「Σそ、そうか!? じゃあ、このキグルミ違和感ないか!?」
ホカゲ「似合ってるぜ〜!」
ワタル「似合ってるか〜!!」
バンナイ「それ嬉しいの? てか、なんでワタルさんとこんな普通に喋ってんだ」
ワタル「仲間だから」
ホカゲ「そうだ! 仲間なら、マグマ団なら入団記念にポチエナ貰えるんだぜ」
ワタル「Σえ゛ 」
バンナイ「あげますよ。そのつもりでマツブサさんから言われてるんで」
ホカゲ「別にバンナイ君のじゃねーだろ。ほら、めんこいぞ〜!」
ホカゲとバンナイは、小ぶりて丸っこいポチエナを抱き上げ、ワタルへ近づけた。
ワタル「正直に言う、犬ダメだ。オレ、カリンのヘルガーが大ッ嫌いなんだ」
バンナイ「え 」
ホカゲ「ワタルさん、さらりとトップトレーナーの名前を出すなよ」
ワタル「カリンにちょっかい出したら… わかるな?」
ホカゲ「カリンて、あのカリンだよな。美人だよな、番犬なんだな!」
ワタル「すごい残念だろ?オレとシバ、危うく丸焼きになるとこだった」
バンナイ「セキエイリーグ、大丈夫なのかよ」
ホカゲ「あ〜…カリンか、カリンいいよな美人だよなぁ…」
ホカゲはポチエナを抱いたまま、遠いところを見つめた。
バンナイ「おーい、ホカゲさん戻っておいでー」
ワタル「トップトレーナーってのは、実際会ってみると試合とのギャップがあるから会わない方がいいかもな」
バンナイ「ワタルさんだけには言われたくないでしょ」
ワタル「リーグ上がってきて、そこで生き残るトレーナーなんか変人しかいねぇよ」
バンナイ「ワタルさんに、ムロ島のトウキさんを見せてあげたいねホカゲさん」
カゲ「Σおお! トウキさんな、まっすぐな爽やかジムリーダー」
ワタル「またトウキかよ! だとしたら、そいつ苦労してるぜ」
バンナイ「苦労してましたね。チャンピオンってのに泣かされてたよ」
ワタル「ホウエン…ああ、ツワブキ。あいつか、トウキも運が悪いな」
ホカゲ「シバが心配してるんだろ?」
ワタル「シバな!! あ〜いつトウキトウキトウキってうるせぇの何のって…」
ホカゲ「……」
バンナイ「……」
ワタル「Σ…って、なんで知ってんだよ!?」
ホカゲ「いや、一部有名なので…」
ワタル「まあ、あいつらは昔馴染で親友だからな。同じタイプのトレーナー同士で修行仲間で。そういう関係って、羨ましいよな。オレの場合はドラゴンタイプ自体珍しいからな…」
ホカゲ「ワタルさんには、妹さんがいるだろ」
ワタル「無理だ、あいつとだけは喧嘩になって修行はできん!」
ホカゲ「いいな。なんか、心がホロ苦くなってくるな、バンナイ君」
バンナイ「そういうの聞いてると、ちょっとトレーナーの原点が懐かしくなりますね」
ワタル「おっ! 改心したか、バンナイ」
バンナイ「はいはい、してませんよ」
ホカゲ「ポチエナパ〜ンチ」
プニ
突然、ホカゲの抱くポチエナの前足が伸びてきて、話しをするワタルの頬に、プニっと押し当たった。
ワタル「Σげ!!」
バンナイ「あ、俺も俺も。ポチエナドロ〜ップ」
ドサ
それを見たバンナイは、ドロップと言いながらワタルの頭上にポチエナを乗っけた。
ワタル「な、何してくれたんだお前ら…」
ワタルは顔を引きつらせながら、頭の上のポチエナをどかした。
ホカゲ「ワタルさん、ポケモン好き嫌いはダメだぜ。だいすきクラブに怒られるぞ!」
バンナイ「あ! ホカゲさん、ポケモンだいすきクラブ?」
ワタル「なにも問題ねぇな。オレ、だいすきクラブが だいっきらいクラブなんだ」
ホカゲ「Σなんだと!?」
ワタル「あいつらは! ポケモンバトル推奨のポケモンリーグを目の敵にしていて、リーグ主催のイベントとかで、よく『バトル反対ボード』を掲げて立ってやがる。試合する会場の前を、ポケモン抱いたパレード行進で妨害したりよ。
オレも大事な防衛戦でやられてイラついて…後日、カントー集会場へ乗り込んで、やっちまった」
ホカゲ「Σワタルさんが乗り込むつったら…」
ワタル「クチバで破壊光線ブッぱなしちまった! ハハハハ!!」
ホカゲ「Σそれすげぇ過激派だろ…!!」
ワタル「それで、オレはだいすきクラブだいっきらいクラブの会員なんだ」
ホカゲ「ちなみに会長は…」
ワタル「ポケモンリーグの会長」
ホカゲ「Σダメだ、やっぱりポケモンリーグは変人ばっかだ!!」
バンナイ「その事件、もみ消されたらしいよ。それで当の本人はGメンだからな」
ホカゲ「オレらより、格段に巨悪だよワタルさん」
バンナイ「しかもバックに、多方面の権力あるしね」
ホカゲ「すげぇ…悪役として、あやかりてぇな!」
ワタル「Σホカちゃん、オレのこと誤解しはじめてねぇか…?」
ホカゲ「しかしバンナイ君、ワタルさんのこと随分と詳しいのな…」
バンナイ「俺、ワタルさんに追いかけられていた頃、よく調べてたんだ」
ワタル「お前なんか追いかけたことねぇよ」
バンナイ「ワタルさんは、叩けば叩くほどホコリが出てくるから!」
ワタル「だとよ、ホカちゃんの団服ホコリまみれだとよ」
ホカゲ「Σえ オレの団服、洗濯してあるぞ!!」
バンナイ「でもまさか、ワタルさんがマグマ団に転がりこんでくるとは…」
ワタル「しかし、バンナイが組織に入って周りと馴染めてるとはなぁ…」
ホカゲ「ワタルさん、その眼差しは保護者だぜ…」
バンナイ「保護どころか、拘束されてそのままブタ箱ツッ込まれちまいましたよ」
ワタル「オレの行く先々に何故か現れて、ポケモン使ってコソ泥してやがった」
バンナイ「いや、俺コソ泥じゃなくて怪盗だからせめてドロボウな」
ワタル「オレはポケモン使って働く悪事が嫌いだ。だから捕まえた、送った!」
バンナイ「そして脱出した! その繰り返しでね、腐れ縁なんですよ」
ワタル「まあコイツなんか小物件だったけどな!」
バンナイ「Σいやスマートで綺麗な手口で単独だったろ!!」
ワタル「…そうだオレ、こんな奴と同じ組織に入ったことを今気付いた…」
ホカゲ「でもよ。バンナイ君とワタルさん、結構仲良しだよな」
バンナイ「はいはい、仲良しですよ。俺、幹部だから宜しくして下さいね!」
ワタル「Σえ コイツ幹部なのかホカちゃん…! 神経疑うぜ…」
ホカゲ「いや? えーと自称、幹部な」
バンナイ「Σ幹部見習いだ!!!!」
ワタル「なんだ、下っ端とあんま変わらねぇな!」
バンナイ「違う違う。下っ端の上で、幹部のちょっと微塵にこれっきし下」
ホカゲ「まあ、そんなだからあんまイジメてやらないでくれ、ワタルさん」
ワタル「マグマ団も、やっぱりお前の扱いって困ってるんだな、よく解った」
ホカゲ「ぶっちゃけ、そう」
バンナイ「…俺、有能だから」
ホカゲ「ところでバンナイ君、もうワタルさんへのコトヅケはいいのか?」
バンナイ「もう無いよ、入団シートにポチエナのプレゼントだけだよ」
ホカゲ「そっか! ではいよいよ朝飯にして…」
ワタル「それで、そのあとフエンの街へ行こうぜ!!」
ホカゲ「Σいやいや待たれよ、ワタルさん」
ワタル「あ…そういえば今日はダメなんだっけか…?」
ホカゲ「そうじゃなくてよ。ワタルさん、流星の滝って行かなくていいのか?」
ワタル「Σうお! すっかり忘れてた!!」
おわり