新人



男「ここは、どこだーっ!!」


ホウエン全土に、地鳴りのような何かが響いた。



煙突山・ロープウェイ乗り場。

山肌の景色を見せながら、フエン温泉へ観光に行く人々、または付近住民などをゆっくりと運ぶ地元の大切な足である。


今日も山の麓から、一台のロープウェイが乗り上げてきた。
中の乗客は、若い男がひとり。まだ定位置に到着せず、窓付きのドアが開かないうちから、その男は、立ったまま腕を組みドア前へスタンバイしていた。


一方。フエン側でロープウェイの到着を待っていた降り方面の客達は、ロープウェイの中から外を睨みつけて昇ってくる異様な男の雰囲気に気付くと、誰もが圧倒されてるような感覚に陥って、一歩二歩と、後ろへ引いた。その中で、観光帰りの数名はチラチラと男の顔を盗み見ては小首を傾げた。


ようやくロープウェイのドアが開けられると、男は頭を低くして通り出た。身長が非常に高く、確実に引き締まった良い体格をしている。さらに、なかなか珍しい色の髪をツンツン立ち上げていたため、その場に居合わせた地元の住民たちは、この男の姿にますます釘付けになった。


先ほどの観光客が、ソワソワと男に近づいていき、発せられるプレッシャーの中、何とか声をかけて懇願をしてみたようだが、男にギロッと睨まれ、そっぽを向かれ無視されれた。観光客は、ショックを受けたようでその場に立ち尽くしてしまった。



男「なにジロジロ見てやがる、散れ!」



一部始終を見物していた住民に向かって、男は怒鳴った。


「あれじゃあマツブサくんの所で、働かせてもらえんわ」とか、
「第一印象最悪ってやつじゃのマツブサくん」とか、
「顔は良くても無理じゃ」とか呟きながら、
人だかりは何かを勘違いしつつ、のんびりノロノロ消えてった。


ロープウェイ乗り場には、不敵な態度のその男と、365日常駐の、フエン煎餅売り子のオババだけが居残った。


男「しまった…! オレはコレを指摘されていたんだった」


男は心に何か思い出したようで、服のポケットから折り畳まれた『白い紙切れ』を取り出した。しばらくそこに書かれたものを眺めていたが、やがて顔を上げると、男は何事も無かったようにポイッと、紙切れを捨て去った。


男「おい、そこのバアさん。道を知りたいんだ!」


男はズカズカ歩いて、煎餅売りのオババに声をかけに行った。

売り子のオババ「ホエ?」

男「ここは、ハジツゲタウンだろ?」

売り子のオババ「ホエー?」

男「お? 聞こえなかったか… ここは、ハジツゲタウンだなー


聞こえないはずはない、この男、声が物凄く デカイ。
だが、売り子のオババは良く解らんらしく、「ホエェ?」と繰り返す。男は困った……アチャーと頭を掻くと、今度は地図を取り出し、オババへ見せた。

男「オレ、このハジツゲの先に行きたいんだ」


それでもオババはすっ呆けたままなので、男はクッソと顔を上げた。
何かが目に入った。
おや……?


男「フエン煎餅って… げっ、フエン?


その瞬間、売り子のオババの瞳に光が宿った。


売り子のオババ「男のお客さん、フエン煎餅いらんかね」

男「Σうおっ! なんだこのババー、アンドロイドか」

売り子のオババ「1枚200円じゃが、何枚いるかね」

男「いらねぇいらねぇ」

売り子のオババ「なんじゃ、文無しか」

男「現金がねぇんだよ」

売り子のオババ「クレジットカード支払いなら、本店の方で大丈夫じゃ」

男「オレはハジツゲに用があるんだ」

売り子のオババ「おやおや。ロープウェイ、もう最終便じゃ」

男「Σなにぃ! それを早く言え」


男は、只今乗ってきたロープウェイに目をやった。
もはや出発をし、ゆっくりと山を下り降りている。


売り子のオババ「フエン煎餅を買って、フエンの温泉宿に泊まりなされ」

男「チクショー、これだからアウェーは困るぜ。ここまで来て、足止めだ」


男は舌打ちし、"口入街泉温"の看板を見上げた。


売り子のオババ「ぐっどらっく じゃ」

男「仕方ない、今日はここで宿だな。おう、ババァ あばよ!


止むを得えまい。男はまんまと温泉街へ入っていった。
男の姿が見えなくなった丁度その頃、売り子のオババの背後から、次の便のロープウェイが昇ってきた……。




【フエンタウン】


団員1「Σあ〜! 2人ともこんなところに居た!」


商店街の大通り、客入り一等地に面するフエン煎餅の本店。
そこへ慌ただしく、ひとりのマグマ団員(下っ端)が駆け込んできた。


団員2「お、太郎ちゃん。サボりに来たのか?」
団員3「マジメな太郎に限って、サボりはないだろう」


フエン煎餅屋の店内には、先に下っ端の団員が二人来ていて、 焼きたてアツアツの煎餅を頬張っては、お茶を飲み、ホンワカしていた。


マグマ団では先日、幹部のホムラが長期任務へ発ち、しばらく不在となっていた。


――出発の日、未明。


選りすぐりのエリート団員を引き連れて、屋上ヘリポートに現れたホムラは、息をのんで見送る団員達など見向きもせずに、大型ヘリへと向かった。

待機中のヘリの強い風に吹かれてなお、勇ましくも颯爽と行く幹部の姿。端から見送る下っ端たちの目には、強烈なインパクトを与えたようで、幹部たる者のオーラに、団員一同、やっぱり憧れてしまった。

団員達はその後の3日間くらい、己が幹部に昇進する図を描いて、些細な仕事にも、ひじょうに真面目にフルパワーで臨んだ。
だが、ネックな3日が過ぎた頃。それを継続できている団員は、もはや……片手で数えられる程度だった。



団員1「さっき本部で噂になってたんだ。どうやら新しい入団希望者がフエンに来てる、それも飛びきり“イキ”のいい奴」

団員2「ああ、知ってる〜! さっき漢方屋のじじばばが、話しながら歩いてた」

団員3「その人物の特徴としては。態度がっ、すごく悪くて…」


団員1「身長も、すごく高くて…」

団員2「髪の毛も、すごーくツンツンで…」

団員3「その髪の毛も、すごく珍妙な色で…」

団員一同『その上、声が すっごく デカイ!!!!』


男「――ここがフエン煎餅屋か! おう、邪魔するぜェ」


一同の声が重なった瞬間、店先に派手な男が現れた。
風貌から、雰囲気から、何から何まで、噂に聞いた……あれ。


団員一同『Σ奴だーーーーーっ!!』


一同、思わず 男を指さして叫んでしまった。

すると男はその場で動きを止め、何度か頷きながら、ゆっくりと団員達の方へ振り返った……互いの視線がバチンと、ぶつかる。

「上等、上等…」そんな言葉が聞こえてくる。

もしかしたら自分たちは、ちょっと触れてはイケナイモノの人種の、着火が速めなスイッチを、押してしまったのかもしれない。ポチッとな……。

団員達は、ホムラ不在となってしばらく、久しぶりの緊張感に冷や汗を流した。




【マグマ団本部】


マツブサ「マツブサ、ハンコ待機」


ポムッ (判子の音)


ホカゲ「毎日毎日忙しいなぁ…ホムラが恋しいなぁ」


机の上に山積みされた書類。
PCモニターにノンストップで送られてくるデータ報告。
ホウエン各地へ派遣・潜入されている団員からの定期連絡。
技術・科学者からの、要求(おもに経費)。
ヘマをやった団員の始末書。

幹部として、それらすべてに素早くかつ見落とし無いようチェックする。きちんと纏めて、その後ホムラに送信報告しなければならない。マグマ団の存続には、組織の全てを【ホムラが】把握する必要がある。


ホカゲ「ホムラはやはり、ヒトでは無かった!! この仕事量はナンだ!!」

バンナイ「そりゃ慣れですよ。あのひと決まった時間配分で、ペースは絶対乱さない」

ホカゲ「ああ見えて、ホムラは規律の鬼だからな」

バンナイ「いやどっから見ても鬼だよ。はい、マツブサさん、書類できた」

マツブサ「! お任せなさい!!」


ポムッ (判子の音)


ホカゲ「ところでなー オレ、朝から気になってたんだけど」

バンナイ「あんたは朝は寝てただろ」

ホカゲ「おお! 昼あたりから気になってたんだけど…」

バンナイ「なんだよ」

ホカゲ「バンナイ君って、いつから幹部になったんだ?」

バンナイ「はいはい、入団した時から」


マツブサ「エッ… !?」


ホカゲ「そだっけ? オレな、バンナイ君は幹部見習いだったような記憶があるん」

バンナイ「そうそう、幹部見習いですともよー」(E話参照)

ホカゲ「いつの間に、団服ズボンの白いボーダーラインが2本になったの?」

バンナイ「え、えへへ〜★」

ホカゲ「Σものっそカワイイ顔してゴマカソウとしとる…!!」

バンナイ「バレたか。そうだよ、ホムラさんが発った夜、コッソリやっちまいました」

ホカゲ「夜、コッソリやっちまうと幹部の印って仕上がるモンなのか…?」

バンナイ「は? 簡単さ、こんなの白い模様なんて、ちょこっと…

ホカゲ「ちょこ…

バンナイ「Σちょちょい、ちょいっとね!!!」

ホカゲ「マツブサ、リーダーとして怒れよ。バンナイ君のやった事は…」

マツブサ「えっ、そうですね。組織として、いけないことだね メッ」

バンナイ「はいはい。怒られちまいました〜」

ホカゲ「Σど、どうやらオレがホムラに怒られそうだぜ…」


ファン ファン ファン ファン ファン


ホカゲ「おぉ?」

バンナイ「なんだこの音、天井のスピーカーぶっ壊れたんですか?」

マツブサ「おや、これ緊急サイレン」

2人『Σえ…』


突如、緊急を知らせるサイレン音が響き渡った。
マグマ団の施設すべてに、備え付けてあるスピーカーから、聞いたこともないような、不安を掻き立てる音が。


ホカゲ「おいおい、マツブサよ。ジョークの程が過ぎるぜ」

ホカゲはスピーカーへ文句を言った。

バンナイ「スピーカーさぁ。マツブサさんの玩具じゃないんですから」


バンナイは、ハンコを持ったまま固まるマツブサに向かって文句を言った。だが、マツブサはゆっくりと首を、右から左へ、振った。


2人『あれ、違うの〜?』


マツブサ「た、大変だァ…! マグマ団本部、緊急事態発生!!」

マツブサは、ハンコを片手に持ったそのまま、立ち上がった。


ホカゲ「Σおお!? 正面玄関の見張り組の回線から SOS 通信が来てた」

バンナイ「エスオーエス? あ、ほんとだ…敵の猛攻撃を受けてます、応援を要請」

ホカゲ「5分後、応援到着。依然、敵の勢力は衰えず重要施設のシャットダウン」

バンナイ「その5分後、最新。応援部隊全滅…ぜ、全滅? 1Fを放棄します」

ホカゲ「てことは、2Fの部隊と交戦中? すっげー、侵入者はミナモ組織か?」

バンナイ「ホムラさん不在の途端にこんな事態になるとは、情報流出ですかね?」



団員「――ご報告です! 約十分前、我がマグマ団本部は何者かの襲撃を受けました」

十分遅れたが、駆け足で伝令がやってきた。

団員「申し訳ございません、ご報告が遅れましたが、ホ――


途中まで声を出して、突然団員は止まった。


団員「ホムラ幹部 には、連絡済で指示を頂きましたッ!」

そこまで伝えると、下っ端は力尽きてその場に倒れた。

ホカゲ「御苦労だったなお前。全団員を代表して、ホムラに報告したんだな」


団員「敵は単独。フエンにて我が組織への加入希望を装い、団員3名と接触。団員達を"頭突き"で次々となぎ倒し、マグマ団の存在を吐き出させた模様……その後ひとりで、マグマ団本部を襲撃…。フロアワンを制圧されました。現在、2Fでマグマ団精鋭部隊が応戦しておりますが、もはや時間の問題かと…」


ホカゲ「Σ単独犯だったとは」

マツブサ「うーん困ったね、ミナモ組織かまたは新手の勢力かな?」

ホカゲ「マツブサよ、他の組織のやつら、今更ここを襲ってなんか得するのか?」

マツブサ「だよねぇ、うちの組織なんか襲っても何もメリットないよねぇ」

ホカゲ「マツブサ、ちょっと現場へ行って犯人にワケを聞いてこいよ」

バンナイ「一応、この人リーダーだよ? ホカゲさん、あんたが妥当」

ホカゲ「Σなに、オレが!?」

マツブサ「わぁあ! やさしいね宜しくね、ホカゲ君!」

ホカゲ「Σなにーーーーーー オレか!?」


上層部から追い出されたホカゲは、マグマ団"非常事態宣言"にともない停止したエレベータを使えず、階段をエッサホイサと降りていった。


ホカゲ「ちくしょー、あいつら姑息だ。現場が2Fてことは、だいぶ降りねぇとな…」


敵の進撃が速いので、もっと早くに接触する可能性もある。
最初のうちは何フロアかを早々と駆け降りたホカゲだっが、薄暗い階段で思わず一段踏み外し、ヨロけながらも手すりを掴んで、踏ん張った。


ホカゲ「Σあ、あぶねぇ! 到着前のこんなとこで負傷したら、オレは笑いモンだ!」


小さな危機を回避したホカゲは、ホッと胸をなでおろした。

先程から下のフロアが静かだ。
気になるホカゲは思い立ち、階段の踊り場まで歩くと、そこでちょこっと足を止め屈みこんだ。目を閉じ、息を潜め、振動や物音を拾おうと、床に耳をくっつけた。

シュル…… シュル……

なにか、細長いものが動くような、不気味な音が聞こえてくる。


ホカゲ「(何かいるのは確かだな…)」


動くたび、近づいて来てる。「んー…」と、ホカゲは目を瞑ったまま更に、謎の音の正体を探る。


シュルシュル……シュッ ぽよんっ


ホカゲ「Σぶ!」


突然ホカゲの顔面に、なにか縦に長い、弾力のある物体が当たった。ホカゲはビックリして、顔を上げて目をパチリと開けてみた。


ホカゲ「な、なんだコイツ…」


床に屈みこんだホカゲの目前に、見慣れぬポケモンの“顔”があった。

階段を下から、ニョロニョロと這ってのぼってきた所でホカゲと接触したようで、プルプルふるえながら、こちらの様子をうかがっている。
ホカゲの顔をジーっと見つめるその大きな瞳は、ウルウル潤んでいる。
ホカゲは、思わず……


ホカゲ「め、めんこい…」


謎のポケモンの丸い頭を、そっと撫でてみた。人間慣れしている。ポケモンはソロ〜っとホカゲに近寄ってき、腕の中へおさまった。


ホカゲ「うわあああなんだこいつ、これは侵入者の罠か!」


だとしたら! トンでもなくキュートなトラップだ。
ホカゲは思わず、そのポケモンを腕に抱いたまま立ち上がったのだが、想定外に細長かったポケモンに驚いて、引っくり返って尻もちした。


ホカゲ「お、おめー…結構デカイのな…」

ポケモン「ミニリュウ」

ホカゲ「いやいや、ミニではねーだろう」


襲撃の現実を忘れ、ホカゲはすっかり夢中になってしまった。
そのため、階段の下から、またもや何かが近づいてくる気配には気付けなかった。這いつつも、硬い何かが擦れてくような音、ズル…… ズル……。


ホカゲ「おっ?」

ホカゲのつむじ――頭上から、何か生ぬるい風のようなものが吹きかかった。ホカゲは、そういえば自分のまわり一帯に、大きな影が出来ているなと気付いた。
何故だろうと思いながら、頭上を見上げてみた…


ホカゲ「まじでか」


とんでもなく凶悪そうな顔をした巨大ポケモンがいた。
階段の下から長い長い体を伸ばして、ホカゲを頭上から見下ろしている。赤く硬そうな巨体、尖ったヒレ、血走った赤い目玉、縦に開いた口…鋭い牙。先程の生温かい風とは、このポケモンのパックリギザギザ、巨大きな口から吐かれた、息……?


ホカゲ「Σた、食べられちまう!」

ホカゲはアワワワと慌てて、自分の腰に手を回した。

ホカゲ「おおおおオレ、ポケモン忘れた。おーー」

平和ボケしたマグマ団の幹部は、戦地へ向かう最中だろうが丸腰だった。

ホカゲ「マグマ〜ック、マグカルゴ〜、あとはオ〜スバメ…」


呼んだって、来なかった。

至近距離で凶悪ポケモンの顔を拝めるなんて、人生最初で最後に違いない。だって、そいつには恐らく、明日は無いから……。


ホカゲ「もっと、もっと長くフエンに住みたかったです…」


すると、ずっと手に抱いていた先ほどのポケモンが突然モゴモゴ動き出した。



男「そこに誰かいるのか」



階段に、大きな声が響いた。
その声に反応して、巨大ポケモンもゆっくりと顔を動かした。


ホカゲ「ダメだ、こっち来るな!お前もコイツに食われるぞ!!」

男「はあ〜?」


階段の下から、怪訝そうな顔をした謎の男がヒョイッと顔を出した。


ホカゲ「Σうおっ、凶悪ポケモン!!」

男の顔を見て、ホカゲは思わず叫んだ。

男「誰が凶悪ポケモンだ!オレは人間だ!!」

男は怒って階段を駆け上がってきた。

男「お前、オレのミニリュウ返せよ!」

男は、ホカゲの腕に抱えられたポケモンを見つけて声を上げた。

ホカゲ「このミニリュウ、おめーのだったか、ごめんな」

ホカゲが軽く詫びて、ポケモンを返そうとすると、

男「お前となら、話が出来そうだ。ミニリュウはまだ持っててヨシ」

ホカゲ「まじでか! ミニリュウ抱かせてくれてサンキューな!」

男は、横目でホカゲの様子を見て、戦意ゼロ・敵意ナシと判断した。

ホカゲ「そういえば、お前…どちらさん?」


すっかり安心したホカゲは、男に尋ねた。


男「聞くまでもないだろ?」


男は、はあ? と、呆れた感じで、親指で「オレオレ」と自分を指さした。


ホカゲ「見慣れない顔に、見慣れないポケモン…わかったぞ、犯人はお前だ!」

男「Σは、犯人だァ…?」

ホカゲ「うちの下っ端と一悶着おこして、本部まで殴り込みにきたん、お前だろ!」

男「そう、それが正しい!」


男は突然背後へ手をやって、勢いよく“何か”を払いのけるような動きをした。

スカッ


男「Σしまった今日は、マントを忘れた!」


続いて男はひとりで衝撃を受けたような素振りをして、ドウヤ!とホカゲを見た。だが、ホカゲには良く理解できなかったようで、表情はポカンとしていた。


男「う゛?」

ホカゲ「あれ もしやどっかで、オレが個人的にお世話になりましたか…」

男「違う違う。お前なんか知らねーよ オレのこと、分からないのか?」

ホカゲ「ヒントをおくれよ」

男「お前、一応恐らくトレーナーだろ。ポケモンリーグとか、興味は…」

ホカゲ「オレ、そっちの業界人はトウキさんくらいしか知らないから…」

男「ド田舎地方のトウキ! シバだったら名前聞いて泣いて喜ぶな」

ホカゲ「Σおめー今、大声でトウキさんとムロ島をバカにしたな!」

男「してねぇしてねぇ、頑張ってるんだろ?」

ホカゲ「マグマ団とオレは、トウキさんを心の底から応援してます」


男「オレは、ワタルって言うんだよ」


男は、一向に気付く気配のないホカゲに向かって、つぶやいた。
ちょっとスネていた。


ホカゲ「なんか、聞いたことある…!ドラゴン使いの――」

ワタル「ドラゴン使いの…!!」

ホカゲ「――タケル?」

ワタル「そいつ オレの 偽物商売 してる 野郎ッ!」

ホカゲ「Σオレの鼓膜をブチ破る気か…!」


とんでもない大声に、ホカゲは腕に抱いていたミニリュウを離してしまった。ミニリュウはそのまま、階段の下の方まで避難してヒョコっと顔を出した。


ワタル「どうしてオレより、偽物のことのが詳しいんだ!」

ホカゲ「い、いや…そんな事言われても、オレら初対面だし…」


キィィンと鳴る耳を押さえ付けながら、ホカゲは答えた。


ワタル「オレは、そいつと話をつけるため、ホウエンへ来た。
いま、リーグのオフシーズンなんだ。だから所属の奴らは、修行に出たり、思い思いに好きな事をしてる。オレは、このトレーナーにとって大事な期間を利用して、まさに自分の“イメージアップの旅と修行”を、することに決めたんだ。
まず、手始めに。ホウエン地方に、ドラゴン使いの肩書きで『タケル』って名前の紛らわしい奴が、“りゅう(↑)せい(↓)の滝”って、これまた地名がややこしい場所で、どうもオレを思わせる姿で、現れるらしい」


ホカゲ「Σ流星の滝か!? あれは、“りゅう(→)せい(→)”な…!」


ワタル「聞け。ポケモンリーグに憧れる“とある少年”が通りかかったところ、突然バトルを挑まれ、戦ったら“弱かった…”らしく。話を聞いたトウカの親御さんってのが勘違いして、ポケモンリーグを通して、何故かオレに、注意と苦情が来たんだ…(そうだ、トウカって場所にも行かねぇと)。
確実に、オレのイメージを悪くしている原因の一種だと思うだろ!? 徹底的に 潰してやりたいと 思うだろ!?


ホカゲ「なんか知んねーけど、落ち着け。ハイパーボイスに、ポケモンがビビッてるぜ」


階下でプルプル震えるミニリュウと、頭上でビクビクと赤い凶悪な顔面を揺らすポケモン。


ホカゲ「ポケモンがポケモンなら、主人も主人だな…」

ワタル「トレーナーとして、お前は、オレに何か言える立場じゃねぇ!」

ホカゲ「すげぇビッグマウスだ…お前、そんな性格で大丈夫なのか…」


そうホカゲがボヤやくと、ワタルの表情がみるみる曇った……。


ワタル「……」

ホカゲ「急に静かになった…」


ワタル「先週。ポケモン週刊誌に“好きなトレーナーランキング”が掲載された。オレは昨年よりも、10ランクもダウンしていた。セキエイで、この人気のガタ落ちっぷりは史上初だと。オレのトレーナー人生で、こんな不名誉な記録更新は初めてだ! 一般回答の理由の多くが、オフで出会った時のオレの対応の冷たさ…あと、仲間内の裏切り行為だ! オレのことを売りやがった、“上司にするなら最低の男でござる〜”だとよ、あの成り上がり忍者め!」


ホカゲ「ん? 週刊誌の記事って…なんかそれ、オレも読んだ記憶が…」

突然、ホカゲは両肩をガシッと、掴まれた。


ワタル「オレは、トレーナーだ。 オレへの評価は、オレがするバトルで、くだすべきだと思わないか?


ホカゲの肩を掴む手の力が、ギリリと強くなってきた。


ワタル「オレのバトルは最高だ!いや、最高を心がけてる。オレのポケモンだって、誇りを持って戦ってる!!


ワタルの目。その奥は、爛々と燃えていた。
つい、秘めた本心をはきだしてしまったようだ。
しかし、その熱い想いとプライドを真剣に訴えてる相手が、何故だか見ず知らずの土地の、ホカゲ……。


ホカゲ「お前は、ひとつ大事なことを忘れてる」


ホカゲは、燃えたぎるワタルの、意外にも綺麗な瞳を見つめ返して静かに言った。


ホカゲ「オレがあえて言おう。週刊誌の記事なんか、気にしては いけない」


ホカゲは自らの愛読誌について、確信をついた。
その言葉を受けて、ワタルの時間は数秒止まった。


ワタル「Σし、信じてるワケじゃない。参考だ、そう参考にしようとしてる


ワタルは思い直したようで、ホカゲから手をバッと離し、ガッツポーズで否定した。――どうやら真面目に信じて悩んでいたらしい。

ゴッホン


ワタルはちょっと赤くなって、小さく(大きな音の)咳払いをした。


ワタル「まあ自分でも分かってるんだ…オレはすぐ頭に血が昇って失敗してる。だから戒めとして、その記事の切り抜きを、常に、ここに持ち歩いて…」


ガサゴソ……

 ガサゴソ……

  ガサ……


ワタル「無い、捨てた!」

ホカゲ「Σなんだと!お前、さすがにちょっと待てー!!」

ワタル「そうだ! さっき自分で見て、イラついて捨てちまったんだ!」


ワタルは開き直って、天井にむかってハハハハと爽快に笑ってみせた。ワタルがひたすら喋り続けるので、すっかり聞き手になっていたホカゲだが、一連の流れで、ちょっと気になることがあった。


ホカゲ「ところで…おめー、なぜフエンにいる」

ワタル「Σウッ…」

ホカゲ「おめーの話だと、ホウエン最大の目的地は流星の滝のはず」

ワタル「Σハッ…」

ホカゲ「どうして、どうしてフエンへ来たんだ!」


ホカゲは拳を握りしめて叫ぶと、恨めしそうにワタルを睨んだ。


ワタル「ハジツゲ経由のつもりが、迷ってフエンに着いちまったんだよ!」

ホカゲ「ま、迷った!? 迷った!?」

ワタル「そしたらロープウェイ最終便で戻れなくなった!分かったか!!


信じられなそうに覗きこんでくるホカゲから、ワタルはウザったそうに顔を背けた。


ホカゲ「それだけなのか…?」

ワタル「それだけだ…!」

ホカゲ「(カモられたな…)あのな、ロープウェイ便ならまだあるぞ!」

ワタル「は?」

ホカゲ「まだロープウェイ便あるし…、ドラゴン使いっていうなら空を飛んでけ」

ワタル「冗談やめろよ、パタパタ飛んでくなんて ダセェ」

ホカゲ「Σえ ダセェ? いや、大丈夫だ。カッコ良いカッコ良い!」

ワタル「カッコ悪い!」

ホカゲ「もういいから、とっととお引き取り下さい」

ワタル「Σな、なんで突然そんな冷たい事いうんだ!」


いきなりホカゲにツッパネられて、ワタルは困惑した。


ホカゲ「ナンデ〜って、さっさと出て行け!そして二度とオレらに関わらるな」

ワタル「畜生!なんだよ、ドイツもコイツもこの街は、オレのこと何だと思ってんだ!」

ホカゲ「おめーはうちの組織の襲撃犯だ!」

ワタル「…ソシキ?」

ホカゲ「マグマ団壊滅させて、迷い込んだついでのイメージアップ大作戦かよ!」


ワタルは“〜団”の、このワードにピクリと反応を示した。


ワタル「マグマだ…ん… なんだそれ知らん

ホカゲ「Σし、知らん!?」

ワタル「さっき街で因縁つけてきた奴らもマグマ団マグマ団って、言ってたな…」

ホカゲ「Σいや うちの団員に因縁つけたのは、絶対お前だー!」

ワタル「変な赤いキグルミを着て…って、そりゃ お前もか。なんだその赤」

ホカゲ「Σき、きぐるみぃ!? え オレら、キグルミ…!?」

ワタル「団ってことは、悪の組織か?でも知らねぇんだよなぁ。マイナー組織か?」

ホカゲ「失敬な。ホウエンでは名の知れた…」

ワタル「名の知れた…?」

ホカゲ「いや、名の知れる組織になる予定の…オレら、マグマ団!」

ワタル「ふむ、そいうや立派な施設だ。ここは悪の組織のアジトか」

ホカゲ「いや、本部さ」

ワタル「Σ素直だな。 …てことは、お前も組織の人間か」

ホカゲ「オレは幹部さ」

ワタル「そうか、オレと戦うつもりか…その?」

ホカゲ「そうさ」

ワタル「ま、丸腰で… プッ・・」


ワタルは、ついに笑いを堪え切れなくなって噴き出した。


ホカゲ「Σ そうだしまったーーーーーー!!!」

ホカゲは、やっちまったァ…!と床に崩れ落ちた。

ホカゲ「いや、素手だ。戦う。下で倒れた下っ端どものため…オレが弔い合戦を」

ワタル「待て待て。下の階のキグルミどもなら、ギャラドス見てノビてるだけだ」

ホカゲ「なに。うちのキグルミ、全員無事なのか」

ワタル「破壊光線ぶっぱなしたら、パタッとな」

ホカゲ「しかし、うちのハイテク施設を破壊しただろう」

ワタル「ああ、破壊光線で」


ワタルはケロリと答えた。
さりげなく指を折って、なにかを思い出しながらカウントしている。
――まさか破壊光線を、どんだけ撃った?
ホカゲはサァァと青ざめた。


ホカゲ「たのむ、弁償してくれぇ…! オレ、ホムラにぶっ殺される…!!」

ワタル「お前それでも幹部かよ」

ホカゲ「幹部なんだよ!」


ホカゲは頭を抱えてうなだれた。


ワタル「なんだか良く分からないんだが、そもそもマグマ団って何だ?」

ホカゲ「マグマ団は住み心地の良い大地を増やすために毎日頑張ってる組織だ」

ワタル「そんなのは悪の組織じゃねぇ、善良な組織だろ」

ホカゲ「悪の組織だー!! 目的のためには手段は選ばないぜ!!」

ワタル「ポケモン使って、悪事を働くのか?」

ホカゲ「フ、フフン! 悪事、悪事働くぜこれから」

ワタル「ポケモン使って、汚ない金儲けするか?」

ホカゲ「Σ金儲けできるのか!?」

ワタル「はぁ〜…」

ホカゲ「はぁ〜って…なんだよ!」

ワタル「どおりでブラックリストに無いはず、ただの環境お遊び団体だな」

ホカゲ「か、かんきょう…」

ワタル「疑って、悪かった。お前ら、見かけによらず…良い活動…してるんだな」


ワタルは、“良い活動”と言ったところで、「ん?」と何かを閃いた。

ホカゲ「Σ誉めるな!! ていうか、もうお前どっか消えてくれ!!」

ワタルはホカゲに寄ってきて、肩に手をかけ ニッと笑った。

ワタル「良い活動か…、オレにその発想は無かった!」


ゾクッ


ホカゲ「いま お、悪寒が…」

ワタル「Σオ、オカン? どこに??」




【その頃、本部上層】


マツブサ「なんてことでしょう。我が組織始まって以来の惨事…」

監視カメラの映像を解析させながら、マツブサは嘆き呟いた。



最初の映像。
本部施設のゲートに現れた、一人の男。
それと見張り番の団員とが、何か話している。
男は、自分が歩いてきたフエンタウンの方を指さし、何か訴えている。

そこに、興味本位で持ち場を離れて、ひとりまたひとりと団員達がやってくる。音声を上げると、「新人?」「新人?」と、誰もが口にしているのが聞こえる。
先にやってきた団員は、遠目から見物する他の団員を手招きして呼んだ。

野次馬のように次から次へと、寄ってたかって集まった団員達に、男は360度グルっと囲まれ、あっという間に姿が見えなくなってしまった。

そこで、団員達の輪のかすかな隙間を探し、見えた男の顔をズームアップすると、目を見開いて、眉を吊り上げた、爆発寸前の顔であった。


――と、ここで監視カメラの映像は激しく揺れ、乱れた。


すると男の周りを囲んでいた団員達が、己の耳を押さえつけながら、内側から次々順に、ドミノのように倒れていった。

崩壊した輪の中で、男がひとりだけ立ち残っている。

男は、最初に話していた見張り番の団員を見つけ出し、その胸倉を掴んで引き寄せると、ドンッと頭突きをかました。

クラクラと倒れる見張り番、蛮行に悲鳴を上げて一斉に逃げる団員達。
ほとんどの団員は、くるりと背を向け、施設の中へポケモンを探しに戻った。

しっかり自分のボールを携帯していた真面目な少数派は、足を止め、施設を背中に守り、モンスターボールを取り出そうとした。

その行動を一瞬で察知した男は、その場の誰よりも素早く、自分の腰へ手を回し、ものの数秒で1匹目のポケモンを出した。


――とんでもなく、男は戦闘慣れしている。


だが、現れたポケモンは何だかとっても可愛いニョロニョロ。
団員達は、思わず身を乗り出して 唖然とする。
男は、大げさに片手をあげてスパンと自分にツッコミを入れた――に思った、次の瞬間!

団員達の目前に、巨大なポケモンが現れた。

団員一同、目の前の大きな何かを把握しようと、顔を上げる。

反り返りながら必死に見上げ確認すると、団員達は皆「アッ!」となって、そのままパタンと地べたに倒れた。その後、ピクリともしない。

男は、辺りを見渡し監視カメラに気付くと、何かを言葉にした。

画面に激しい光が映ったところで、このカメラの映像は終わった。


マツブサは、同じように1F、2Fと映像を確認したが……あまりにも桁違いの、進撃とスタミナに「うぅ……」と唸り、黙ってしまった。


団員「最初はてっきり入団希望者だと思って…みんな喜んで歓迎して…」

団員は、映像を見て涙を流した。

バンナイ「あ〜…ついにこれは、手に負えないですね」

バンナイは、せっせと身の回りの物を纏め始めてる。

マツブサ「この分だと、ホカゲ君を向かわせたのは過ちだったかも…」

マツブサは、映像を止めさせ、悲痛そうに深くため息をついた。


不在のホムラは、己の任務を続行する姿勢を取った。
こちらがピンチな状況をなんとかして伝えようとするのだが、『ホカゲを現場へ向かわせろ』――それだけ言って、あとは無視だった。

所詮、一般団員……幹部ホムラの考えなど、解らない。


ホカゲ「ついてくんなよ〜…もう、いい加減にしろよ」


いまでは遠いところの……ホカゲの声が聞こえた気がした。

マツブサ「ふまじめを装っていたけど、本当は熱くて仲間想い…でも」


ホカゲ「まじ、ほんっとーに勘弁してくれぇ」


マツブサは、目頭がじんわり熱くなった。

マツブサ「あの子には、随分酷な仕事をやらせてきた。…僕のせいだ」

バンナイ「ホカゲさん、楽しかったよ。夜の綺麗な星になるんだぜ…」

団員「グスッ…」

一同は天井を見上げ、その先にあるであろう世界を見つめた。

マツブサ「じゃ、そろそろ避難しよか」


ホカゲ「やめろ、やめろ」


ワタル「うるせぇなあ! 挨拶すんだよ挨拶、おう 邪魔するぜー!!

ホカゲ「うおおお〜本気でやるのか、本気なのかおめーは…!」


ドカッ


不自然な音がして、マツブサ達のいる部屋の扉が開いた。

マツブサ「Σあれ!?」

上層部の団員認識でパスした時のみ開くはずの自動ドアが、手動で開いて、そのまま剥げた。


ワタル「はじめまして、マグマ団!」


ワタルが片手を上げながら、まんべんの笑顔で入ってきた。
その後ろでは、ホカゲが懸命にワタルの服を掴んで阻止しようとしていた。


マツブサ「Σホ、ホカゲ君!?」

バンナイ「なんだ生きてやがった…しかも最悪な展開」


ワタル「無視するな お前らもオレに挨拶をしろ!!」


マツブサ「Σはじめまして、リーダーのマツブサです」

バンナイ「どうもホウエンでははじめましてバンナイです」

団員「しししししたっぱですすすす」


先程まで映像内で暴れていた男が、ついにリアルに現れた。
取りあえず全員一列に並び、言われるがまま挨拶した。


ホカゲ「あ、ちなみにオレはホカゲです…」

ワタル「お前、ホカゲ?」

ホカゲ「オレ、ホカゲ」

ワタル「ホカゲ!」

ホカゲ「ホカゲ…」

ワタル「そうか。お前、ホカちゃんな」

ホカゲ「Σえ オレ、ホカちゃん?」

ワタルはホカゲの肩に手をおくと、マツブサ達へ目をやった。

ワタル「マツブサさんで、バンナイ、お前らはキグルミな。ん?バンナイ

ワタルは言葉の途中で、バンナイを見返した。

ワタル「お前、いつ 出てきた?」

バンナイ「あ…だめ、それは俺とあんたの秘密だ」

バンナイは笑いながら片目を閉じ、中指を一本自分の唇にあてた。

マツブサ「Σし、知り合いですか」

ワタル「こいつ…ちょっとした腐れ縁なんだよ、またブチ込んでやるからな」

マツブサ「Σなにを…?」

バンナイ「また縛り上げにきたのか」

ホカゲ「Σえ、縛るの…?」

マツブサホカゲ下っ端団員は、なんとなくバンナイから遠のいた。

バンナイ「あんたら差別って、俺と何が違うんだよ」

マツブサ「あ。そうでした」

ホカゲ「こら! マツブサ戻ってゆくな。俺は違うからな」

団員「……」

ホカゲ「おい、下っ端よ。なぜ戻ろうとする…!」

バンナイ「チッ、ホカゲさんだけ裏切られたよ。どうせ俺は札付きですよ」

マツブサ「あ。そっち…」

ホカゲ「おお。そっちか、じゃあ俺も友達だ」

団員「ホッ…」

バンナイ「は? どっち?」


ワタル「おーい おまえらー オレをわすれるなー」

せっかくやって来たというのに、注目を奪われたワタルはショゲた声を出した。


マツブサ「で、君はどうしてここに来たの?どこから来たの?」

ワタル「おいおい、コイツもあれか。分からないのかオレのこと」

バンナイ「俺は知ってますよ、正義のひとだよ。組織ツブシのプロだ」

マツブサ「Σそうなんですか、なんとか見逃してもらえませんか?」

ワタル「いや、確かにオレはそういった事もするけどな、本職は――」

ホカゲ「Σポケモンリーグ所属らしいぜ…すげぇよな ジムリーダーだっけ?」

ワタル「だれが?」

バンナイ「ホカゲさん、まじなのか。あんた、今の発言あとで絶対後悔するよ」

ホカゲ「あれ、違うのか…じゃあ…まさか! し、四天王…!?」

マツブサ「し、四天王って…あのあわわ…リーグ別に4人しかいない?」

ワタル「情報、古くねぇか?」

バンナイ「うわやめろやめろ、それ以上恥を上塗りするな!」

ホカゲ「あれ、違うのか?じゃあ…ポケモンリーグの…」

マツブサ「Σあれっ まさかキミって…」

マツブサは気づいた、しかし信じられない。

ホカゲ「ポケモンリーグ社員さんか?コネあるひと? 掃除か?」

バンナイ「 ヴァッカ 」

ホカゲ「Σばかとはなんですか! でも週刊誌載ってる人じゃあ違うな」

ワタルの視界はまっしろになった。

ワタル「見えるぞオレ… これって、挫折って…はじめてこういう気持ちに」

あんなにも自信に満ちていたはずのワタルの声は、かすれていた。

バンナイ「Σ落ち込んでる…あのワタルさんが…!!」

マツブサ「Σやっぱりあのワタル氏」

マツブサは、バンナイの言った名前にハッとして口元を押さえた。

バンナイ「やい、ホカゲ!週刊誌のバックナンバー全部あさってきな!」

ホカゲ「Σなんでバンナイ君が怒るんだよ…!」

バンナイ「この人はな、この国のド真ん中のセキエイリーグの――」

ホカゲ「もしや、リーグの王者さんですか…」

バンナイ「Σああ、いま、言おうとしたのに!!」

バンナイが悔しそうに跳ね返った。


ワタル「所詮、セキエイのチャンピオン か…」


スケールが大きすぎる台詞が、ため息まじりに聞こえた。


バンナイ「Σいやワタルさん、その発言トチ狂ってるから…」

マツブサ「Σキミの防衛戦みたことがあります」


ワタル「やはり全国統一、オレはドラゴン軍団でリーグを制す」

ワタルの目に闘志が戻り、燃えてきた。


バンナイ「よっ、ワタルさん日本一!常識破りのリーグの寵児!!」

マツブサ「マグマ団はセキエイのワタル氏とムロジムのトウキ君を応援します!」

ホカゲ「Σトウキさんを後手にまわすなマツブサ!」

ワタル「またトウキか!シバだったら名前聞いて泣いて喜ぶだろうよ」

バンナイ「ところでワタルさん俺たち今後どうなるんですか解散ですか壊滅ですか」

ワタル「お前ら 環境保護活動のチャリティ大好き組織 なんだろ」

マツブサ「いやそんな良いものではないですよワタル氏」

ワタル「ヒトとポケモンのため良い大地を無償で増やす、その精神感銘した」

バンナイ「どうしてそうなったのワタルさん」


ワタル「オレ、ここを拠点にしばらくホウエンに馴染もうと思う」

ワタルは笑顔で、宣言した。



マツブサ「ここ?」

バンナイ「ここって、ここ?」

ホカゲ「そう…みたいだぜ」

ワタル「マグマ団、上等だ!オレも仲間に入れろ!」

マツブサ「え。うちに協力してくれるんですか?」
バンナイ「ワタルさん、イカレちまったんですかね?」

ワタル「まあ、オレが協力してやれるのはオフシーズン中だけだけどよ」

ワタルは目を閉じて、フッとクールに鼻を鳴らした。

ホカゲ「すまねぇ、何度言っても都合良く誤解したままで聞かねぇんだ…」

ホカゲの表情はウンザリだ。

バンナイ「ご都合どころか、内容がすげぇエスカレートしてるよ」
マツブサ「どうしよう彼が踏み込んでいいのだろうか、光の道を歩む彼が」
バンナイ「絶対、あんたの後ろめたい過去になるから、やめて下さい…」

ワタル「お前ら、なんで喜ばねぇんだよ…」


ワタルは気を悪くしたようで、睨んできた。
いつの間にかその手に、"ギャラドス"と刻印された立派なボールが握られている。今度はご冗談は抜きで、一匹目から本気のようだ……!


マツブサ「Σい、一緒にだ、大地を増やしましょう!」

バンナイ「ΣとりあえずGメンとして極秘潜入中です、とかにしておけば?」

ホカゲ「え、Gメン!?」

バンナイ「それか、俺を追いかけて極秘潜入中です、とかもいい…」

ワタル「ンなショボイ理由で、ホウエンなんか来るか」


バンナイ「マツブサさ〜ん…やっぱりダメだよ入団、断固反対」

マツブサ「まあ…まあ、彼の気のすむまで置いてあげよう」
ホカゲ「マツブサよ、権力に屈したか!」

マツブサ「ヒソヒソ。あの性格だから、好きなようにさせとけば、そのうち彼も飽きて出て行くでしょ」

ホカゲ「ヒソヒソ。なるほど。マツブサ、利口だな」

バンナイ「そう上手くいけばいいですけどね。あのひと過去に、自分の機嫌ひとつでロケット団潰してますからね」

バンナイのおぞましい言葉に、マツブサとホカゲの目は点になった。

ワタル「よーし!決まったところで、明日は流星の滝へ行くぞ!」


やっと要求が通り、ワタルは、嬉しそうにホカゲの肩へ腕をまわした。
だがホカゲは、真顔でその腕を振りほどいた。


ワタル「お…」

ホカゲ「誰に言ってんだよ、オレは明日は忙しいんだからな」

バンナイ「あ、俺も明日は忙しいんだ」

マツブサ「残念だねぇ。僕も明日は、書類の他に修理とか諸々手配を…」

団員「では ホムラさん へ収束を報告してきます」

その場の全員が、ワタルの期待を込めた視線を避けた。



ワタル「お前ら、もっとオレを、歓迎しろ!」



とんでもないモノをかかえ込んでしまったが、

マグマ団に新しい仲間が増えた。





おわり