リベンジ2.14



ソワソワ ソワソワ

早朝、始発の船で島を出た
今日という日をずっと楽しみにしてたから
でも約束の時間よりも……とてもとても早く着きすぎてしまった
約三時間も前にフエンに到着するなんて
何して待っていよう……
って、考えて考えて悩んで突っ立っていたら


トウキ「待ち合わせの時間とっくに過ぎたぞーっ!?」



2/14、当日。とても寒い日。
フエンタウンのポケモンセンター前。
何故だか一向に姿を現さないホカゲに対し、トウキの不安が膨らんだ。


トウキ「ま、まさか…」


ホカゲ君の身に何かあったとか
それとも……
僕に逢いたくないとか
チョコの日に誘い出すなんて、まだ早かったのかな
いやむしろ……
ホカゲ君のお家の人に、僕との関わりを反対されている、とか

うわあ……!


トウキ「大変だー。僕らに未来はあるのかー」

妄想で自分を追い込み、トウキはヨロヨロとポケセンの壁に手をついた。



バンナイ「トウキさん?」



トウキ「へ?」

名前を呼ばれて、思わずドキッとして振り返る。


バンナイ「ああ、やっぱりトウキさんだ」


長い間、ポケセンの前でしょんぼりポツンとしていたが、見覚えのある人物に声を掛けられ、トウキの表情はパァアと明るくなった。


トウキ「でも誰だっけ!!」

バンナイ「あ… ホ、ホカゲさんの身内でーす」

トウキ「あ、ホカゲ君の家にいた人か!ごめんな!!」

バンナイ「はいはい。ところで、こんな田舎で何してるの?」

トウキ「……」

トウキの顔が曇った。

バンナイ「わわ…涙ぐんじゃって。何かあったの?」

トウキ「実は…ホカゲ君を待っていて…」

バンナイ「え」

トウキ「でも来なくて…」

バンナイ「ええ」

トウキ「ホカゲ君のお兄さん、僕はどうしたらいいんだろう!」

バンナイ「Σえ、俺もお兄さん!?」

トウキ「何か知ってたら教えてほしいんだ…!」


真っ直ぐな瞳に見つめられ、さすがのバンナイも心がキュンと痛んだ…


バンナイ「言いづらいんだけど、ホカゲさんならたぶん…まだ寝てると思うよ」

トウキ「えぇ!?」




【マグマ団本部】


キャンキャン ワウワウ

ポチエナの鳴き声がうるさい。
ポチ公が興奮して走り回る音もうるさい。
ポチ公がホムラの膝に這い上がろうとして、もがく音もうるさい。
ホカゲは布団から片足を出すと、壁を軽く蹴っ飛ばした。


ドカッ

キャウン!!


へへへ……ちくしょうめが。
ポチ公ども、ビックラして鳴きやんだー てか、さむい。

ホカゲは、片足を布団へ引っ込めた。


ドカッ


今、建物が揺れた。

ホカゲはビックリして布団から顔をちょこっと出した。
そしてそのまま固まった。
先程、自分が蹴った壁から、拳が突き出ていた。


ホカゲ「まじでか。マグマ団の建築って木造だったっけか…」


その拳は、ちょっと痛そうにヒリヒリ赤くなってた。
ホカゲは、思わずその拳をソロソロと撫でた。
拳はシュッと引っ込んだ。
そこに、小さいがポッカリと穴が開いた。


ホカゲ「隣人のホムラよ、いつかこーなると思ってた」


すると、小さな穴の反対側から、ホムラが顔をのぞかせた。


ホムラ「てめぇ。文明人のくせに言葉を使う手間を省いた結果だ」

ホカゲ「おはようなホムラ、これで同じ空気が吸えるなホムラ」

ホムラ「てめぇ、壁を弁償しろよ」

ホカゲ「Σ意味わかんねーし、オメェがこの覗き穴製作者だろうが!!」

ホムラ「誰が、誰を、覗くだァ?」

ホカゲ「Σ目つぶしっ」

ホムラ「Σあぶねッ!! 馬鹿かテメェ!!」

ホカゲ「てゆーか、ホムラ。なんか部屋から…すげぇいい匂いするなぁー」

ホムラ「お前、寝てたのか。髪大爆発だな、だっせぇ ハッ!」

ホカゲ「何ィ! ホムラの枕、ジーサンみてぇな色、ダッセェダッセェ!!」

ホムラ「見てんじゃねぇよ」

ホカゲ「おめーもな!!」


お互い、フンッと顔をそむけた。


ホムラ「お前、マジで今起きたのかよ」

ホカゲ「うん。今起きた」

ホムラ「いや、今日確かお前…」

ホカゲ「あ! チョコだ、ホムラの部屋にチョコあるな、それくれ」

ホムラ「良く見つけたな。別にこんなモンやるけど、今日確かお前…」

ホカゲ「え、チョコくーれーんのー? ありがとなー オレ感激」

ホムラ「うまいか?」

ホカゲ「うん、うめぇ」

ホムラ「良かったな、人間様用のチョコレートだったか」

ホカゲ「へ…何だって?」

ホムラ「貰ったままに積んだら、ポケモンのと混ざって分からなくなっただけだ」

ホカゲ「罰ゲームか! オレがなんか悪いことしたか!」

ホムラ「しただろう」

ホカゲ「てゆーか、ポケモン用のチョコって何?」

ホムラ「先月、シルフがポケモン用のチョコレートを発表して」

ホカゲ「なるほど! そんで、デボンがパクッってホウエンでも発売したんだな」

ホムラ「という話をしていた下っ端団員と出くわして…何故かそのまま貰った」

ホカゲ「なんと哀れな団員ども…没収される前に、自ら差し出し逃れたか」


口周りがチョコ化してゆくホカゲを見つめ、ホムラは眉をひそめた。


ホムラ「おい、それよりお前今日…」

ホカゲ「バレンタインっていつだっけ」

ホムラ「今日」

ホカゲ「そっか、今日か。トウキさんと遊ぶ約束してんだバレンタインに!」

ホムラ「だから今日」

ホカゲ「――いま何時?」

ホムラ「俺がアイツだったらお前のこと、ぶっ飛ばしてるぜ」

ホカゲ「……」

ホムラ「……」

ホカゲ「何ーでもっと早く教えてくれねーんだよ!」

ホムラ「散々言おうしたが、お前に遮られた」

ホカゲ「現実逃避してぇ…ホムラ起こしてほしかった…」

ホムラ「知るか、てめぇの予定なんか」

ホカゲ「壁に穴開いたから、今度からそっから優しく起こしてな」

ホムラ「お前が帰るまでに塞いでやる」

ホカゲ「うん。まじ塞げよな」


舌打ちするホムラを横目に、ホカゲは着替えを取り出した。


ホカゲ「おお!こんな所に覗き穴…ホムラ助平な」

ホムラ「あァ?そうかそうか。さっさと脱げよ、見ててやるぜ」

ホカゲ「Σまじでか。あ、穴を後でオレに塞がせて下さい…」

ホムラ「ああ、構わねェ」




数分後、マッハで支度を終えたホカゲは玄関にいた。
靴を履いて今、飛び出そうとしている所へ、反対に外から帰ってきたバンナイが声を掛けた。


バンナイ「今から?」

ホカゲ「おう!今から」

バンナイ「手ぶらで?」

ホカゲ「何だよ、バンナイ君」

バンナイ「トウキさんさ、ずっと待ってたみたいだけど…」

ホカゲ「Σうえ!会ったのか! トウキさん元気だったか!!」

バンナイ「会ったとも。ポケセンの前で…まるでそう、凍える子犬のようだった…」

ホカゲ「グサッ。オレ、想像できちまった。罪悪感MAX」

バンナイ「あんたが悪い。あんまりにも可哀想だったので…連れて来ちまったぜ!」

ホカゲ「連れて…来た!?」

バンナイは、ビシッと外の遠くを指差した。
一本道の遠くから、ガチガチな動きで手を振る人影が見えた。


トウキ「お゛ーい゛ ホカゲく゛ーん゛」


ホカゲ「ト、トウキさん!?」


 トウキ「ホカゲく゛ーん゛、ゲンキ゛ダッタガー!!」


ホカゲ「ト、ト、トウキザ〜ン!!!!」


ホカゲは思いっきりダッシュして、トウキに飛びついた。


トウキ「ホホホホカゲクンだ、ホカゲクンが生きてた、無事だったァ!」

ホカゲ「トウキさん、うお、トウキさんだ!本物のトウキさんだ!!」

トウキ「ホ、ホカゲグンに…何かあったんじゃナイガってオレ゛心配して…!」


トウキはガチガチの手でホカゲの背を撫でた。


ホカゲ「すぐ行けなくてごめんな、トウキさん…実はオレ、寝ぼ…


ホカゲは思わず言葉を飲み込んだ、トウキの純粋な目を真っ直ぐ見れなかった。ホカゲの背後では、バンナイが冷ややか表情で非難の視線を突き差していた。


バンナイ「取り合えず、中 入れば?」




トウキ「ハーックショイ !!」


すっかり冷え切っていたトウキだが、暖房とコタツの温もりで生き返った。

バンナイ「大丈夫? トウキさん、すっかり風邪引いてるんじゃない」

トウキ「(ズビッ)だいじょぶだ、僕、体は頑丈だからたぶん」

ホカゲ「ごめんなトウキさん、ほんとごめんな!オレが寝ぼ…あ、遅れたために」

バンナイ「ていうか、明日ジムの仕事出来ないんじゃない?」

トウキ「え? いや、大丈夫。明日はジム、休みにしたから゛」

ホカゲ「泊ってくのか?」

トウキ「Σえ! いや、そんな特に深い意味と理由は…

バンナイ「ないの?」

トウキ「あ…あるけど。Σいやいや、何かあった時のためにとか…

ホカゲ「何かって何だトウキさん」

トウキ「そ、それは…」

バンナイ「お泊り?」

トウキ「Σた…台風とか!! 来たらやだなー って!!それだけな!!」

ホカゲ「そっか」

バンナイ「真冬に台風ねぇ」

トウキ「お……大雪?」

ホカゲ「そっか、大雪か」

トウキ「積もったら、帰れないだろ?」

バンナイ「――それにホカゲ君と一線を越えたいし」

トウキ「そうそう、超えたいし!」

ホカゲ「え、オレ!?」

トウキ「Σわー!! やめろよ何だよ!! のせられたよ!!」

バンナイ「真っ赤だよ、楽しいねぇ、嘘つけないねぇ」

トウキ「んなワケないよな!! 友達だよな!!」

ホカゲ「オレで何だよ、オレが何だよトウキさん」


ホムラ「その辺にしとけ、くだらねぇ」


トウキ「ホ、ホカゲ君の一番上のお兄さんか! ありがとう」

ホムラ「お…おう」


不満そうな顔をしたバンナイの目の前に、ホムラはボン! と、コタツミカンを置いた。

会話も途切れた所で、見計らったかのようにマツブサが入ってきた。


マツブサ「やあ! みんな楽しそうですね。外は寒いのに、ここはとても暖かいね」


ホムラ「マツブサ」

バンナイ「マツブサさんだ、バレンタインおめでとうございます」

ホカゲ「おぉ! マツブサ居たのか」

トウキ「お帰りなさいホカゲ君のお父さん!!」


マツブサ「そうそう改めまして、ホカゲ君のヤングダディ・マツブサで…


トウキ「ハーックション! あ、話の途中にすいません」

マツブサ「う、うん。風邪かな?」

バンナイ「マツブサさん、今日は外出してるんじゃなかったんですか」

マツブサ「今年こそ君達からチョコレートを貰えると思い込み、早めに帰宅しました」

ホカゲ「そうか、今年も残念だったな」

バンナイ「今年も残念ですねマツブサさん」

ホムラ「不愉快だ」

マツブサ「すみません」


トウキ「チョコじゃないけど、何か持ってくればよかった“怒り饅頭”とか…」

ホカゲ「今年のバレンタインもジムに“怒り饅頭”山積みなのかトウキさん…」

マツブサ「や、優しい! なんて良い青年なんだろう、うちに入団してほしい…」

ホムラ「無理だ」

ホカゲ「無理だろ」

バンナイ「天下のジムリーダーですよマツブサさん」

マツブサ「だよね」

ホカゲ「トウキさん、震えてどうした?」

トウキ「僕に…、にゅ…入籍してほしい…って」

マツブサ「Σすごく気が早い!!」


バンナイ「そういえば、ジムリーダーのチョコ事情ってどうなの?」

ホカゲ「おぉ!どうなんだトウキさん!!」

トウキ「えぇ、どうって言われても…ふつうだよ」

ホムラ「普通って、何だ」

ホカゲ「珍しくホムラが食いついた…」

トウキ「全地方で、一番凄いのはやっぱルネシティジムだろ」

ホカゲ「昨日も夜なべ中継みたぜ…徹夜組女子ハンパねーのな」


一同:(…だから寝坊したのか…)


トウキ「Σまさか今日、本当に寝坊だったのかホカゲ君!!」

ホムラ「コイツで寝坊の他に何がある!」

バンナイ「恋って盲目こわいっ!」

ホカゲ「す、すまねぇ。まじすまねぇトウキさん…オレは」

トウキ「うん、うんいいよ。いいよホカゲ君…!」

マツブサ「ま、まぶしい…」

ホムラ「マツブサ」

バンナイ「台無しだ」


ホカゲ「話をルネに戻そうぜトウキさん」

トウキ「ルネシティジムは、歴代リーダーの誕生日とかも凄いし…チャンピオンも…」

ホカゲ「トウキさん?」

トウキ「チャンピオンも…ダイゴさんも…」

ホカゲ「トウキさん寒いのか、全身震えが…」

トウキ「凄いし… 怖いし… 」


 ぶわっ


ホカゲ「泣いたー!?」

ホムラ「何故、泣くんだ」

バンナイ「もしや、うちのホムラさんと下っ端団員みたいな関係なのかな」

ホカゲ「なんか凄く辛そうだなトウキさん、みんなで温泉行くか?」

ホムラ「温泉入って、風邪を飛ばしちまえ」

バンナイ「わ、わかったよ!俺も温泉付き合うよ!!」

マツブサ「じゃあ、僕もご一緒に…

トウキ「――あ、お父さんは大丈夫です」

ホカゲ「そうだぞ、マツブサ便乗よくない」

バンナイ「せっかくのバレンタインに男同士で友情風呂かー」

ホムラ「おい。マツブサ、お前はあれだ…」

マツブサ「何、まさか…このマツブサにチョコレートケーキを注文しろって言うのかい」

ホムラ「何故分かった、その通りだ」

マツブサ「ハートキャッチ」

ホムラ「では行ってくる、行くぞお前ら」

ホカゲ「トウキさん、今夜は語り明かそうな。みんなオレの部屋で寝よーぜ」

トウキ「え…? 夜は2人っきりがいい…なーんてな!! なーんてな!!」

ホカゲ「え、別にいいよ?」

ホムラ「Σま、待て! まだ壁の穴を塞いでいない」

バンナイ「じゃあ、俺ホムラさんの部屋泊るわ」

ホムラ「断る」

ホカゲ「いつの間にそんな仲良しになったんだ、お前ら!!」

ホムラ「なってない」

トウキ「あ。やべ、クシャミでそう で、でない」

バンナイ「どっちだ!!」


マツブサ「みんな仲良しでとても羨ましいです」





おわり