スライム



真夜中、ホムラは目を覚ました。


何かの気配を感じたのだ。

ホムラは小首を傾げると、布団の中から天井を見上げて考えた。
部屋の天井の中から、何か小さく物音が聞こえたような気がした。

――夢か。俺が寝ぼけたのかどっちだ。

自分が布団にもぐり込み眠りについてから、どのくらい時間が経っただろう。
何だか気味悪く思えたが、やがて思考よりも眠気が勝り、ホムラは横へと寝返り、目を閉じた。


ボトッ


遠くの方で、何か落ちるような物音がした。

ホムラはそれに合わせて、再び目を開いた。
視線の先は、壁だった。部屋の右側の壁。
その壁を隔てた向こうには、同じ幹部のホカゲの部屋がある。

ホカゲは眠っているはずだ。

しかし、不審なその物音は、ホカゲの部屋の中から聞こえてきた。
何か続くことがあるかもしれないと、ホムラはそのまま聞き耳をたてる事にした。

しばらくすると、ガサゴソ……今度は何かを探るような物音が聞こえてきた。

きっと、先程の物音により起こされたホカゲが、眠たい目を擦りながらその原因を突き止めようとしてるに違いない。辺りは静まり返っているので、よく伝わってくる。

すると突然、ホカゲが叫んだ。


「ホムラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


呼ばれた。
ホムラは布団から抜け出ると、部屋の明かりをつけ、そのまま出て行った。


ホムラ「てめぇ、何時だと思ってんだボケ野郎」


すぐ隣のホカゲの部屋まで来ると、ホムラは力ずくで扉を開け放った。
すると中から這いつくばってホカゲが出てきた。
意外にも、ホカゲの部屋は真っ暗闇だった。


ホムラ「明かりもつけずに、何やってんだ」


Tシャツに、スウェットのズボンを腰からゆるく履いた寒そうな姿のまま、口をパクパクあけて……ホカゲは何故かしきりに床を指していた。


ホカゲ「ふふふふふんだ 踏んだ」

ホムラ「踏んだ?何を…」


ホムラは、思わずホカゲの足元へ目をやった。ホカゲは素足だった。踏んだという何かの感触が直に伝わってきて、慌てたのだろう。

だが、本人にはそんなことを説明する余裕はなさそうで、ホムラの足にしがみつくと、やはり必死で部屋を指差し訴えていた。

それがあまりにも哀れな姿に見えたので、ホムラは思わずホカゲの肩をさすった。


ホムラ「おい、落ち着け。どんなヤバイもんを踏んだってんだ?」


ホカゲはホムラを見上げると、振り絞ったような、だがはっきりとした声で言った。



ホカゲ「こんにゃく」


ホムラ「――は?」



よく理解できなかったホムラは聞き返した。


ホカゲ「こんにゃく、踏んじまったー!!」


ホカゲは大きな声で叫んだ。
そしてそのままヘロヘロと脱力してホムラの足にしがみついた。

ホムラは沈黙した。


ホムラ「…帰る」


一瞬の間でも、心配なんかして損した。
むかついたホムラは、とにかく自分の足にひっついているホカゲをガシガシ蹴って引き離そうとした。


ホカゲ「ま、待て。乱暴はよくねぇ!」


ホカゲは、振り払われまいと余計必死にホムラにしがみついた。


ホムラ「人を馬鹿にするにも程がある」


ホムラは眉を吊り上げ、ホカゲを睨んだ。


ホカゲ「で、でもオレのこと心配してすっ飛んで来てくれたんだろ!」

ホムラ「違う。放っておけば更にやかましくなると思って、様子を見に来ただけだ」

ホカゲ「だってオレ、びっくりして思わずホムラの名前を呼んじまったんだぜ!」

ホムラ「狽!?」


ホカゲの言葉に、ホムラは思わずバランスを崩し転倒しかけた。


ホカゲ「オレがピンチな時は、ホムラが助けにきてくれるんだな…感激だぁ」


ホカゲは大げさにうっとりした顔でホムラにむかって目をパチパチまばたきさせた。


ホムラ「買zカゲそれ以上気色悪ィ事ぬかすと、ぶっ飛ばすぞ!」

ホカゲ「ああ、好きにしてくれてかまわねぇ…!!」

ホムラ「鳥肌立っちまった」

ホカゲ「だから…その前にちょっとオレの部屋の中を、あらためろよ」

ホムラ「何だそれ」

ホカゲ「いや、いいからオレの部屋の中に入って安全かどうか調べろ」

ホムラ「…」

ホカゲ「…」

ホムラ「断る」

ホカゲ「白fるな!」

ホムラ「お前が無事なのはわかった。だから帰る」

ホカゲ「お前いま、カッコイイこと言った。来世で抱いてくれ」

ホムラ「来世では、お前と他人になりたい」

ホカゲ「買`キショー、ホムラの薄情モン!」


うおぉ! と、ホカゲはホムラを突き飛ばした。
ここでようやくホムラは、ホカゲから解放された。
ホカゲは冷たい床へヨロヨロ蹲ると、ポツリと呟いた。


ホカゲ「明朝、オレがぽっくりオダブツしてたらホムラのせいだ」


そしてぺチンと床を叩いた。


ホムラ「こんにゃくごときで、どうしてお前はこんな大騒ぎが出来るんだ」

ホカゲ「だって、部屋にこんにゃく落ちててソレ踏んだら誰だってビックラするだべ」


恨めしそうな目で見つめられたホムラは、うんざりした。


ホムラ「ホカゲ。俺が部屋の中を見渡せば、それで気が済むんだな…」


ホムラが折れた。
その言葉を聞いた途端、ホカゲの顔にパァっと笑みが広がった。


ホカゲ「持つべきものはマブダチ!友よ、サンキューな」


ホムラは呆れて、思わずハアァと大きなため息をついた。


ホカゲ「狽スめ息をつくなっ!!」


ホカゲは床から立ち上ると、そのままホムラの背後へ回り込んだ。そして、ホムラの背中をグイグイ押して、自分の部屋の中へと無理やり押し入れた。ホムラが完全に部屋に入りきったところで、パッと手を離して身を引いた。


ホムラ「一体、何のつもりだ」

ホカゲ「さて、ホムラ。気をつけろよ、奴はただのこんにゃくではない!!」


ホムラは、はあ?と顔をしかめて聞き返した。


ホカゲ「ホムラよ、グッドラック。オレ、お前の無事をここで祈ってる」


ホカゲはそう言うと、南蛮渡来のアーメン・ポーズをして部屋の扉を閉めようとした。


ホムラ「ちょっと待て。ドアまで閉めるとは何事だ」


何か嫌な予感がしたので、ホムラはとっさに扉を手で止めた。
しかしホカゲは、尚更に力を加えて扉を閉めようとした。


ホカゲ「い、いや…危ねぇから」


ホカゲの口から、やはり何か物騒さをうかがわせる言葉が出た。


ホムラ「おい、こんにゃくだろ?こんにゃく…」


こんにゃくと呟きながら、ホムラはここで重大な事にハッと気づいた。


ホムラ「おかしいじゃねぇか、何でテメェの部屋にこんにゃくなんかあるんだ…」

ホカゲ「買Vケた」


ホカゲは思わずチョロっと舌の先を出した。
それを見たホムラは、もう眠気も友情もすっぱり覚めた。


ホムラ「詳しく…説明してもらおうか」


手を伸ばして、ホカゲのシャツの胸倉を掴まえると、そのまま部屋の中へと力任せに引きずり込んだ。


ホカゲ「す、すまねぇ〜…!!」


部屋の扉は、乱暴に閉まった。




壁際のスイッチを手で探り当て、まずはホカゲの部屋に灯りをつけた。
でもなんだか、ぼんやりと薄暗かったのでホムラは不満を口にした。


ホムラ「ものぐさな奴だ。電球くらい、マメに取り替えろ」

ホカゲ「だって届かねぇんだもん あ、すまんジョークです」

ホムラ「部屋の鴨居、頭垂れないと通れないテメェが届かないワケがない」

ホカゲ「狽ィ前だって、よく鴨居に頭ぶつけてブチ切れてるだろ」

ホムラ「そんなことはない」

ホカゲ「いや、オレの部屋の鴨居に過去3回は頭ゴツンしてるはずだぜ」

ホムラ「それがどうした」

ホカゲ「ど、どうもしねぇ…」

ホムラ「さて、説明をしろ。一体この部屋で何があったのか」

ホカゲ「そ、それが実のところ…オレにもよくわかんねーんだ」

ホムラ「何かを踏んだんだろ。どういった物か、確認はしなかったのか」

ホカゲ「うん、部屋が暗くて何も見えなかったから」

ホムラ「そうかよ」

ホカゲ「だってオレ、ずっと気持ちよく眠ってたんだぜ。そしたら、いきなり何か変なモンが、オレの顔面にブチ当たってきたような気がして起きちまった!」

ホムラ「顔面に変なモン?」

ホカゲ「ああ。変なモン…なんか、冷たくってペトッとしてて、グニャッとしてて…こんにゃく?」

ホムラ「……」

ホカゲ「すぐに変だなと思って。気になったから、手探りであたりを探したんだけど…ラチあかないから、それで電気をつけてから本格的に捜索をしよーと思って、立ち上がったその瞬間、グニャッと何か踏んじまって…」

ホムラ「こんにゃく、らしき物を?」

ホカゲ「そうだ、こんにゃく!でもってそのこんにゃく、生きてたんだぜ!!」

ホムラ「…は?」

ホカゲ「あれはきっと妖怪こんにゃくだ…。踏んだ瞬間、急に柔らかくなっていって、オレの足の指の隙間からニョロ〜っと逃げて行くのがはっきりと分かった!!」

ホムラ「そんな馬鹿げた事があってたまるか」

ホカゲ「マジだ、これは。オレはそれでビックリして、デカイ声でホムラに応援を要請したんだぜ」

ホムラ「ビビってたな」

ホカゲ「うん。とりあえずビビる」

ホムラ「いいかホカゲ、もう こんにゃく説は捨てろ。話がややこしくなる」

ホカゲ「こんにゃく説、分かりにくかったか?ごめんな。」

ホムラ「…お前の話を聞く限り、得体こそ知れないが さほど危険なものというワケでも無さそうだが」

ホカゲ「いや、油断大敵!オレらはまだ、敵の正体がわかっちゃねーんだ」

ホムラ「大げさだ。あと5分探して何も出てこなかったら、俺は帰る」

ホカゲ「買z、ホムラもしや飽きてきたのか!!」


2人は部屋の中を見渡し、思い当たる場所を探してみた。


ホムラ「特に、変わったよう物は見あたらないが…」

部屋の床の上に不器用にたたまれた衣類を、ホムラは蹴っ飛ばして歩いた。

ホカゲ「あとで直しとけよ」

ホムラ「あ?邪魔くせぇ、俺の通り道に置くから悪い」

ホカゲ「狽ネ、何ィ!」

ホムラ「こっちは睡眠時間削って付き合ってやってるんだ、俺に感謝しろ」

ホカゲ「お、お前なんか こんにゃく踏んじまえ…」

ホカゲは無残に崩されゆく服を拾いながら、くやしそうにホムラの背中を睨んだ。


グニャ


ホムラ「げ…」


そこで突然、ホムラが固まった。


ホカゲ「何、どうした」

ホムラ「…何か、踏んだ」

ホカゲ「こんにゃく?」

ホムラ「こんにゃく」


未知との遭遇に、ホムラの顔が引きつっていた。
ホカゲにも、ピーンと緊張が走った。


ホカゲ「ホムラ、ダイジョブだ。1、2、3で同時に下を見ような。せーの、1…

ホムラ「おかしい、何もねぇ」

ホカゲ「はやい。お前、協調性ゼロすぎ」


足元を見渡したり足の裏を返して覗き込んだりして、ホムラは首を傾げた。


ホカゲ「狽、ぉっ 違ぇ!!あっちだホムラ!!」


突然ホカゲが大きな声を出して、ホムラの背中を叩いた。


ホムラ「どこだ!」

ホカゲ「床だー、床、逃げてくこんにゃく!!」

ホムラ「こんにゃく…が逃げてく?」


ホムラはホカゲが指さす床へ視線を落とした。
薄紫色で半透明な何かが、床の上を必死でピョンピョン跳ねて逃げていた。まさにその跳ね飛ぶ何かが、この騒動の犯人に違いなかった。
しかし……、


ホムラ「あれの、どこが、こんにゃくだってんだ!」


ホカゲの発言による先入観のせいで、てっきり こんにゃくのような物体を想像してしたホムラは怒鳴った。


ホカゲ「狽ィお!ついに姿を現しやがったな、こんにゃくの妖怪め!!」

ホムラ「何が妖怪だ、どこがこんにゃくだ!あいつはどう見てもれっきとした…

ホカゲ「スライムだよな! こんにゃくってより、生きてるスライム系だよな!!」

ホムラ「スライムだと…?」


ホカゲの目がキラキラ輝き出した。


ホムラ「捕獲しろ!」

ホカゲ「捕獲する!」


ホカゲはニヤリと笑いながら、準備体操をはじめた。


ホムラ「お前は馬鹿か。ボールを投げりゃそれでカタがつくだろ」

ホカゲ「お前も馬鹿か。ボールがねぇから素手で捕まえるんだろ」

ホムラ「は?」

ホカゲ「は?」

ホムラ「捕獲しろ!!」

ホカゲ「捕獲する!!」


ホカゲは、3メートル程の距離をてくてく歩いてゆくと、その場にかがみ込み、飛び跳ね逃げていたスライムをひょいっと摘み上げた。


ホカゲ「うおおお!スライム、GETだぜ〜!」


謎のスライムは、いとも簡単にホカゲに捕獲をされた。


ホムラ「準備体操もボールも、意味ねぇのかよ」

ホカゲ「いにしえの、ボールの存在せん時代、我々の祖は素手で捕獲を…

ホムラ「ホカゲうるせぇ。現代人はシルフに感謝しろ」

ホカゲ「シルフのパクリ製品作ってるデボンにも感謝しろ」

ホムラ「……」

ホカゲ「というワケで、観念しやがれスライムめ」

『モ、モ〜ン…』


ホカゲの手の中で、スライムが小さく鳴いたような気がした。


ホムラ「これで終わりだとは、騒いだ割りに合わず実にあっけない一件だった」

ホムラはそう言うと、捕獲されたスライムを掴んで、プニ〜っと引っ張った。

ホカゲ「スライムはこの一匹だけか、実は伏兵スライムが隠れてたりしねぇか」


ホカゲもそう言いながら、スライムを掴むとプニプニと揉んでみた。


ホムラ「分身か」

ホカゲ「スライム核分裂か」


二人は、スライムの顔を覗き込んだ。
片や引っ張られ、片や揉まれ続け、なされるがままになっていたスライムは、二人の好奇な視線に気づくと、プルプル怯えて震えた。


ホムラ「何だ、それ程高度な芸当は出来ねぇのか…」

ホカゲ「てゆーかスライムよ、一体お前はどこからオレの部屋に入ってきたん?」


すっかり謎のスライムの虜となっていたホカゲだったが、ふと思い出し聞いた。その問いを理解したようで、スライムは体をプルンと震わせると、ホカゲの手から腕へ、腕から肩へとモソモソ移動を始めた。


ホカゲ「狽ィお、何だ?」


まさにスライム感触で、ペトペトと体をのぼられてゆくホカゲは微妙な表情をした。


ホカゲ「なんか、きめぇ感触…」

ホムラ「……」


やがてスライムは、ホカゲの頭の上にちょこんと乗ると、その身体の、手らしき部位でちょいちょいと頭上を指し示した。


ホカゲ「上ぇ? って、天井か…!ああー、見ろよホムラ。天井の板がズレてらぁ」

ホムラ「天井の板だと…?天井の板をずらし、そこから侵入して来たと言うのか」


スライムはコクコクと頷いているようだった。


ホムラ「なるほどな、つまり一連の不審な騒ぎは全て、テメェの所為か」


ホムラは、再びスライムを掴むと今度は両手で力強くビヨ〜ンと引っ張った。


ホムラ「天井裏でゴソゴソ物音たてて動いてたのはテメェだな、起きちまっただろ」


『モ、モ〜ン…』

そうに鳴いた。


ホカゲ「狽、おい!スライム虐待反対、だいすきクラブに訴えられるぞ」

ホムラ「そんなもん、知らん」

ホカゲ「…しかし天井裏とは、スライムよお前は時代劇のこそ泥か!」

ホムラ「野生か?トレーナーがいねぇから、こんなふざけた出現するんだろ」

ホカゲ「狽竅A野生…だって?」


野生の二文字に、ホカゲのハートのレーダーがピコーンと反応した。ホカゲの脳内に、超スピードでスライムとの未来計画が練られ始めていた。


ホカゲ「…なあ、オレ。こいつ飼ってもいいかなぁ…」

ホムラ「何故、俺に聞く」

ホカゲ「ホムラが飼ってイイってんなら、オレ…飼うよ?」

ホムラ「飼えよ。知らねぇよ、責任持って世話しろよ」

ホカゲ「まじでか」

ホムラ「まじでだ」

ホカゲ「あ…ありがとうホムラ。オレ、大事にするよ」

ホムラ「何だこの会話…お前の手持ち、這う系コレクションで埋めちまえ」

ホカゲ「狽ヘはは這う系コレクションだって!?」

ホムラ「……」

ホカゲ「なんだその怪しげなパーティは!!お前は天才か!!」


またもやうっかり、ホカゲのハートに点火してしまったようで、ホムラはイラッとした。


ホムラ「…ところでコイツ、ポケモンだよな。名前が思い出せねぇ」

ホカゲ「おお!オレもさっきから気になってた、珍種だよな。何の何べぇだっけ」

ホムラ「コイツ、ホウエンに生息はして…るか、してねぇか、図鑑は?」

ホカゲ「オレんとこに図鑑なんかは、無い!」

ホムラ「いや、待て…ああ、そうに違いない。ベトベトンだ」

ホカゲ「?え?まじでか、ベトベトンだな。イイんだな、オレはホムラ、信じるからな」

ホムラ「俺を信じろ」

ホカゲ「よーし、ベトベトン!お前、結構かわいいよな」


ホカゲは"ベトベトン"と断定されたスライムを撫でようとして、その表情が悲壮に歪んでいる事に気づいた。


ホカゲ「え…やっぱ、ベトベトン違ぇーんじゃねぇのか…」

ホムラ「そんな事はない 名前でも付けてやればそれで良い」

ホカゲ「おお!そっか、名前つけてやるよ。どっちが良いかな…!

 ――“こんにゃく と スライム”」




“ベトベトン”の顔が、とてつもなく歪んだ気がした。




バンナイ「あ。 俺のメタモンだ」


翌日。
バンナイは、ホカゲの頭の上にちょこんと乗ったスライムを指さし、声を上げた。


ホムラ「何だ、テメェ」

ホカゲ「おお、バンナイ君。朝から寝言はやめろよな、ていうか何?」

バンナイ「いや、何って…」


ホムラとホカゲに怪訝そうな目を向けられて、バンナイは思わず言葉を詰まらせた。


バンナイ「ホカゲさん、あんたの頭の上の透明鏡餅みたいなの、それは俺の”メタモン"なワケで」

ホムラ「透明鏡餅だと…」

ホムラは眉を吊り上げてバンナイを睨んだ。

バンナイ「そうそう、メタモン。やあ凄い凄いね、一体どこで見つけたんですか?」

ホカゲ「オ、オレんとこ… って、おいホムラ。メタモンって、どういう事だよ」

ホムラ「つまり…」

ホカゲ「こんにゃくはスライムで」

ホムラ「スライムはベトベトンで」

ホカゲ「ベトベトンは本当は、メタモーンだったってのか!!」


バンナイ「は?」


ホムラ「は?」

ホカゲ「はあ?」

バンナイ「あんたら何言ってんの。ベトベトンなんか乗せたら、頭腐りもげ落ちるぜ」

ホカゲ「狽ワじでか。ていうか、ホムラまじでか…」

ホムラ「俺にだって…知らない事はある」

ホカゲ「狽アんな自身の無いホムラは始めてです…」

バンナイ「どうもありがとうございます、わざわざね。迷子でさ、困ってたんですよ」


そう言うとバンナイは、ホカゲからメタモンをサッと取り上げた。


ホカゲ「狽、お!?」


バンナイは、メタモンを自分の肩に乗せると、爽やかに微笑んだ。その様が、何だか絵になるようだったので、ホカゲは唇を噛み締めた。メタモンはバンナイの肩の上で、嬉しそうに小さくピョンとその場で飛び跳ねた。


ホムラ「まじでか」

ホカゲ「スライム、まじでか」


バンナイ「さてね。そんな事情により、紹介してませんでしたが、こいつが俺の手持ちのメタモンです。ホカゲさん、スライムじゃねぇよ。メタモン持ってる奴なんて珍しいでしょ。俺、変装が好きで得意なんだ。だから持ってるポケモンもメタモンだってワケなんです。今後も宜しくどうぞ! …って、あれれ」


ホムラ「ところで、天井裏から現れる手持ちのポケモンなんぞ、聞いた事が無い」

ホカゲ「飼い主の品性の問題だよな。マナーなってねぇぞ」

バンナイ「狽ヲぇ!?」

ホムラ「とりあえず、一発殴らせろ」

ホカゲ「オレの夢のスライムが…バンナイ、畜生め」

バンナイ「えぇと、えぇと。なんとか許してよ…事情は良くわかりませんけど」





おわり