ホカゲ「隕石が落ちた」
と、ホカゲは会議室のドアを開くなり、そう言った。
本日、数十分は遅刻をしたホカゲの到着だった。
「は?」
彼の素っとん狂な発言には慣れている一同だったが、
リーダーも、幹部も、団員も。みんな揃って聞き返した。
まずはホカゲの話を聞き、簡潔にまとめる事から始まった。
ホムラ「…つまり、ハジツゲタウン近郊に隕石の落下が確認されたという事か」
宇宙創造にまで遡る話だったが、ホムラが素晴らしい要約をした。
ホカゲ「うん、短くまとめるとそうなるな」
マツブサ「その隕石の情報が本当なら、是非サンプルとして採取したいものだね」
バンナイ「マツブサさん、そんなお気楽な事でいいんですか?」
マツブサの隣で、机の上に頬杖をついて聞いていたバンナイは小首を傾げた。
ホムラ「その通りだ、すぐに調査隊を編成しハジツゲへ向かわせる」
ホムラのその言葉に合わせ、彼の側付の有能な団員が、任務執行のための書類をサッと差し出した。ホムラは黒いインクの万年筆を取り出し、あっという間にその書類を書き上げると、下部にサインをし、大きな朱印の判子をドンと押した。
そのドンの振動が響いたようで、団員は小さく跳ね上がった。
一連の作業を、リーダーともあろうマツブサはただ単にポケ〜っと見つめていた。その隣では、やはり机に頬杖をついたバンナイが、やれやれと呆れた顔をした。
ホムラ「では、細かい指示はお前に任せる。準備が出来次第、出発しろ」
団員「了解です」
通常なら、こうして任務が発生する。
完成した書類は今、ホムラの手から団員へと渡されようとしていた。しかし、まさに受け取ろうとした瞬間、横から“別の手”がスッと伸びてきてその書類を奪い取った。
ホカゲ「隕石の調査にはオレが行くっ!!」
真剣度100パーセントの顔をしたホカゲが、力強く叫んだ。
ホカゲの手には、任務の書類が握り締められていた。
ホムラ「おい、てめぇ書類を返せ」
ホムラが睨むと、ホカゲは手の取った書類を背中へ回し、団服マントの裏側へと隠し込んだ。
ホカゲ「落ちたてホヤホヤの隕石が拝みてぇんだよ。なぁホムラ、いいだろ!」
ホムラ「こんな任務、わざわざ幹部が同行する必要はない」
ホムラの顔は険しい。
しかし、今日のホカゲは引き下がらなかった。
ホカゲ「ふっ、幹部たるもの、マグマ団員たちに手本を見せねばならぬまい」
ホムラ「…」
マツブサ「狽ネ、ならぬまい」
バンナイ「な、ならぬまい??」
ホカゲ「きみたち、マグマ団の活動において隕石は重要なキーアイテムなんだろう」
ホムラ「…」
マツブサ「買Lキキ、キーアイテムなんだろう」
バンナイ「まじでか」
ホカゲ「そこでホムラ君、どうだろう。隕石採取に行かせては く れ な い か」
ホムラ「…」
ホカゲの瞳から発せられる輝き。
しかしホムラには刺さらない。
マツブサ「ホ、ホムラ君。ホカゲ君もあそこまで言ってるし任せてあげては」
マツブサが二人の間に入り、オロオロと意見を述べた。
しかしホムラは無視だった。
バンナイ「たかが隕石ひとつでそこまで興奮できるなんて、素晴らしいです」
バンナイは馬鹿にしたような笑顔で、ホカゲに向かって拍手を送った――「たかが」の部分が若干気になりはしたが、ホカゲはうんうん頷いた。
バンナイ「あんたこのまま留守番たって、隕石の事が気になって仕事どころじゃねぇよな」
ホカゲ「うん。仕事できねぇ」
ホカゲは素直な気持ちを答えた。
ホムラ「勝手にすればいい」
ホカゲの粘りに負けたホムラは、面白くなさそうにつっぱねた。つまり「OK」貰えたホカゲは、嬉しそうにホムラに駆け寄るとその肩をポンポン叩いた。
ホカゲ「ありがとな、しばらくはハジツゲ泊まりだから別れが寂しいな!」
ホムラ「寂しくなどない」
ホカゲ「帰ってきたら、また一緒に風呂行こうじゃねぇかホムラ君」
ホムラ「お前の長っ風呂に付き合わされずに済むのだから、物は考えようだ」
ホカゲ「オレが恋しくなったら、夜の愛情電話くらいは受け付けてやるぜ…」
ホムラ「ヘリを飛ばす準備をしろ、風は無いから回り込めば火山灰も平気だろう」
団員「は、はい」
ホカゲ「買Vカトだし」
マツブサ「ホカゲ君!!」
ホカゲ「狽ネんだー!!」
マツブサ「ハジツゲは火山灰が本当に凄いんだよ。マスクを持っていくんだよ!!」
ホカゲ「買Iレ、ハジツゲだいぶ行った事あるし」
バンナイ「そうそう、ホカゲさん」
ホカゲ「なになに、バンナイ君」
バンナイ「またパッチールに襲われたら、死んだふりしろよ」
ホカゲ「狽ィまえ、過去のトラウマをほじくり返すな」
ホムラ「ではホカゲ、出発の前に一旦こちらへ顔を出せよ」
マツブサ「心配だから」
バンナイ「ホカゲさん、ついでにパッチール捕まえてこいよ」
ホカゲ「じゃあな、準備してくる。 あ、パッチールは心底無理だから」
ひとまず任務に向かうための調節で、ホカゲは会議室を出た。かなり気合いが入っていたようで、ドアを勢いよく閉めたあとも廊下を走って去った。
マツブサ「あれは若さ故の情熱なのかなぁ。あ、僕もとても若いですけど」
マツブサがポツリとつぶやいた。
静寂。
ホムラ「最近、ハジツゲでは隕石のビジネスとやらが流行っているそうだな」
バンナイ「は?また隕石かよ、何ですかそれ」
マツブサ「昔からハジツゲ周辺は、不思議とよく隕石が見つかるんだよ」
バンナイ「じゃあそこらに落ちてる隕石で、勝手に商売を始めたってワケですか?」
ホムラ「火山灰ばかりで、何も無い土地だからな。住民連中は面白くないんだろう」
マツブサ「えんとつ山の火山灰は全て、山の北側ハジツゲ方面へ降るからね」
バンナイ「へぇ。年がら年中、罰ゲームみたいな土地ですねハジツゲタウン」
ホムラ「ハジツゲは、特にフエンを目の敵にしてるらしいが、これも本当か?」
マツブサ「柏フからそうらしいよ。フエンには温泉もありますし、空気もすこぶる綺麗ですからね」
バンナイ「そうですね。フエンで火山灰だなんて見た事ありません」
マツブサ「ハジツゲも良い町なんだけどちょっと幸が薄いというか…可哀想だよね」
バンナイ「そりゃあ、ハジツゲ側にとっちゃ隕石で商売くらいしてやりたくなりますよ」
マツブサ「そういえば最近、ハジツゲ町長さんが隕石に詳しい学者先生を呼んだらしいね。ソラマメだかエダマメ」
ホムラ「ソラマメに、エダマメとは何だ」
バンナイ「ソラマメと、エダマメって何ですか?メンデル系ですか」
マツブサ「隕石の研究をしてる人で、物質を細かく分析してデータにしてるそうです」
ホムラ「そうか」
バンナイ「そうなんだ」
ホカゲ「泊S然違ぇぇぇぇぇ!そいつは、ソライシ博士って言うんだ!!」
ハジツゲ談話に花を咲かせていると、隕石調査任務の準備を終えたホカゲが現れた。
とにかく、大荷物だった。
ホムラ「何故、そうなる」
マツブサ「ご苦労さまです」
バンナイ「お菓子がはみ出てますよ、いい加減にしろ」
ホカゲ「いよいよだぜー!これより現地へ向かうので後のことは宜しくな」
ホムラ「…」
マツブサ「ヘ、ヘリに乗るときは必ずパラシュートをつけるんですよ!!」
バンナイ「早くいけよ、ハジツゲのマメイシ先生に大事な隕石パクられちまうぜ」
ホカゲ「ソライシ!おう、それじゃあな!隕石丸ごとGETだぜー!」
ホカゲは拳を突き上げ「エイ・エイ・オー!」とやってみせた。が、ホムラがそれを静して言った。
ホムラ「待て。ホカゲ、たった今この計画は中止にした」
ホカゲ「えぇ!?」
マツブサ「ホムラ君、一体どういうことですか」
バンナイ「何か悪知恵でも働らかせたんですか」
ホカゲ「ホムラ、そんな冗談はよせよ」
ホムラ「冗談ではない。…正しくは、延期だな。」
ホムラ「何だと!」
ホムラ「お前ら、考えてもみろ。隕石の専門学者がいるんだぜ。今日の隕石は一度、そのソライシとやらに預けてやろうじゃねぇか。しばらくして、分析結果が出た頃…奴のもとを訪ね、俺達への協力を要請する。了承すればこれに越したことは無い。だが、拒否を示した場合は、隕石とその研究データを、そっくりそのままコチラで頂いてしまおうという訳だ」
マツブサもバンナイも、ああそうかと頷いた。
マツブサ「ホムラ君は抜け目が無いね」
バンナイ「あんた悪い奴ですね」
ホカゲだけは納得できない様子でウルル…とホムラを見つめていたのだが、やがて諦めると、代わりにひとつだけ条件を出した。
ホカゲ「じゃあさ。せめてハジツゲまで、隕石見物に行かせてくれよ」
さすがに誰も、止めはしなかった――
ホムラ以外は。
おわり