ムロ殿ご来訪



ホカゲ君へ

今度、フエンまで遊びに行くよ
1泊2日でどうかな
お家の方によろしく

ビッグウェーブ!



団員「ホカゲさーん、郵便でーす」


ある日。
届けられた郵便物を見てホカゲは目を丸くした。
一通の手紙。消印は、なんとムロ島から。
そして、差出人は…


ホカゲ「ト、トウキさんから!」



週末。
フエンの街の入り口でホカゲは待っていた。 そろそろ約束の時刻。先程、煙突山の頂上へ向かってロープウェイが昇ったのを見た。あれに乗っていれば、もうじきやって来る頃。
交通機関皆無の田舎で申し訳ない。


青年「おーい!そこの人、ヤッホー」


こだま。
ホカゲは聞き覚えのある声に反応した。
デコボコの山道を、なんとも軽い足取りで歩いてくる人影が見えた。人影は、こちらに向かって大きく手を振っていた。ホカゲもつられて両手を振り、ヤッホーと返した。それを確認したようで、人影は猛スピードで走り出した。

ホカゲ「狽ィぉ、無理すんな!」

トウキ「やあ。元気か?」

ホカゲのもとへ到着すると、トウキは爽やかに挨拶をした。

トウキ「突然でごめんな。家の人に怒られなかった?」

ホカゲ「いや、平気。トウキさんこそ、ジムは?」

トウキ「うん、平気。今って不景気だから挑戦者が少な…

ホカゲ「うそつけ」

トウキ「うそです」

ホカゲ「でもオレ、トウキさんに会えてマジ嬉しいです」

トウキ「そっか。じゃあ、もっと再会を喜び合おう」

ホカゲ「どうやって」

トウキ「うーん、握手?」

ホカゲ「うん」


握手。


ホカゲ「何か、違くね」

トウキ「うーん、ハイタッチ?」

ホカゲ「うん」


わーい、ハイタッチ。


ホカゲ「ああ、こんな感じ」

トウキ「うーん、ハグ?」

ホカゲ「うん」


ハ…


ホカゲ「狽ヲ、遠路はるばるよう来なさった。慣れない山道で疲れたっしょ」

トウキ「狽コ、ぜんぜん?」

ホカゲ「すげぇ。てか、だいぶ荷物少ないですね」

トウキ「うん。ジムの鍵しか持ってこなかった。あ、これ土産」

ホカゲ「唯一の荷物が土産かよ」

トウキ「怒り饅頭」

ホカゲ「おぉ!珍しい、怒り饅じゅ…う?」

怒り饅頭。とある町の銘菓である。

ホカゲ「怒り饅頭、ムロタウンの饅頭だっけ?」

トウキ「ち、違う。ジ、ジョウト地方…」

ホカゲ「有名人が大好物ってよく宣伝してたな、確か四天王のシ…

トウキ「買t、フエン煎餅うまいよな!」

ホカゲ「狽ィ、おう!?」

トウキ「怒り饅頭は、昔から好きでさ。うちのジムにストック山積み」

ホカゲ「ほうほう、やはり。某四天王の影響で」

トウキ「お前なぁー…いい加減、週刊誌読むのやめろよな」

ホカゲ「最近トウキさんの記事載ってねーよな、つまんねーよな」

トウキ「今週、アダンさんが袋とじグラビアやっちゃったな。はだけた感じの」

ホカゲ「あれな、ナイスミドルを袋とじするなよな。トウキさんやらねぇの?」

トウキ「狽竄轤ヒぇよ!!!」

飛び上がったトウキにパシンとツッコミされて、ホカゲは気づいた。

ホカゲ「てか。そんなトウキさんも週刊誌読んでるし」

トウキ「やべ。バレたし」




立ち話も程々に、二人は街の中へと入っていった。

ホカゲ「それでは、オレ的にフエンご案内します」

トウキ「おー!よろしく」


まず木造建ての古い軒並みが連なる、こじんまりした商店街がお出迎え。老舗フエン煎餅屋などなど、めぼしい店何軒かをホカゲは説明した。
トウキは物珍しそうにキョロキョロした。


トウキ「ホカゲ君、温泉はどこ?」

ホカゲ「もっと街の奥。ここはまだ商店街なもんで」

トウキ「僕、フエンタウンってもっと、温泉がボコボコ湧き出てると思ってたよ」

ホカゲ「実は街の奥の方でボッコンボッコン湧き出てますのでご安心を」

トウキ「でもなんか、温泉の独特の香りがする。あ、温泉卵か」

ホカゲ「温泉卵、食っていいよ」

トウキ「え、いいの?」

ホカゲ「この街でのオレらの買い物は、マツブサにツケといてもらってるから」

トウキ「う、うまい!こんな おいしい温泉卵 初めてだよ」

ホカゲ「まじでか」

トウキ「うん、ほかほかだ」

ホカゲ「なんか照れますな」

ホカゲの観光案内は、ホカゲにしては良い感じだ。
しかし、そろそろ、魔の領域


ホカゲ「げ…! 駄菓子屋」


突然、ホカゲはトウキの後ろに隠れた。
古い店のガラス戸の中から、駄菓子屋の主人が恨めしそうにホカゲを見つめていた。


ホカゲ「トウキさん、気をつけろ。フエンには妖怪が3匹いるんだ」

トウキ「よ、妖怪が?」

ホカゲ「煙突山のフエン煎餅売り子のオババと、あの駄菓子屋の当たりくじ撲滅宣言おやじ、そして」

トウキ「そ、そして?」

ホカゲ「妖怪親玉は美男子大好物の漢方屋のじーさんだ。トウキさん美形だから要注意な」

トウキ「う、うん…ホカゲ君もな」




商店街を抜けると、いよいよ温泉街が現れた。

ホカゲ「しかし我が街でのトウキさんの知名度の低さっぷりにビックリです」

トウキ「うん。フエンは(田舎で)凄いな、まさにお忍び旅行に最適だと思う」


温泉街入口にて足を止め、二人はしばし街を眺めた。
細い石畳の道に、老舗旅館やときどき洋館ホテルが並ぶ景観は中々のものだ。しかし、やけに坂道が多い。坂、坂、坂。この先もだいぶ坂がある。石の階段なども使うらしい。フエンというか、煙突山を登りまくってからの、マグマ団である。


ホカゲ「というわけで、覚悟しとけよ」

そんなことを語るホカゲがはぁはぁ息切れしていた。

トウキ「少し休む?」

ホカゲ「い、いやオレのソウルはフエンの民だから気にするな」

トウキ「無理するなよ」

ホカゲ「ト、トウキさんジモティじゃねぇのに、何で平気なんすか」

トウキ「若者だから」

ホカゲ「そ、そうかオレは体力ねぇんだよ」

トウキ「カナヅチだしな」


カナヅチカチーン。

ホカゲ的に聞き捨てならない単語だったのでそこは反論した。


ホカゲ「オレはカナヅチじゃなくて、平泳ぎができねぇんだよ」

トウキ「じゃあ泳げるの?どのくらい」

ホカゲ「なんと、プールの半分くらいは」

トウキ「は ん…ぶん!?」


それを聞いたトウキは、大声でゲラゲラ笑った。
ホカゲはキョトンとした顔でトウキを見つめた。


トウキ「おかしな奴!お前、可愛いこと言うなぁ」

ホカゲ「な、何ィ!」

トウキ「まあでも君は溺れても、どうせムロ島に流れつくんだから大丈夫さ」

ホカゲ「いやあれは、マジキセキですから」

ホカゲは海水の味を思い出した。

ホカゲ「ココロザシなかばでオダブツするとこでした、その節はお世話になりました」

トウキ「うん。近年稀に見るカナヅ…あ、ビッグスイマーだよな」


ところでトウキは、ずっと気になっていた事を尋ねてみた。


トウキ「なあ。あの進行方向にそびえ立つ、巨大な建築物は何?」

ホカゲ「ん。あれ、オレん家」

赤くて大きなマグマ団本部が、旅館やホテルの並ぶ先にドーンと見えていた。




【マグマ団本部】


ホカゲ「ただ今帰ったぜ。噂のトウキさんです」

トウキ「こんにちは。一泊お世話になります」


真っ赤な団員達は、左右に分かれて一列ずつ並び、ソワソワと待機していた。二人が玄関口に現れた瞬間、団員達は声を揃えて一斉にお出迎えの挨拶をした。


団員『いらっしゃいませ、ようこそフエンタウンへ!』


トウキは思わずUターンして帰りそうになった。

ホカゲ「お、お兄やん!どこさいくべ、ここがウチだからな」

トウキ「いや、だってなんかおかしい宗教の集まりかと思った」


全ての団員の目線がトウキに集中していた。
誰もがキラキラと憧れの眼差しでトウキを一心に見つめていた。干、熱っぽい絡みつくような視線も入りまじっていた。


マツブサ「どうもどうも、いらっしゃーい」

そんな団員達の熱烈な視線をピコピコ弾きつつ、奥からマツブサが現れた。

マツブサ「ホカゲ君の命のご恩人さん、ようこそフエンへ」


マツブサはトウキの両手を取ると、そのまま握り締めて勝手に握手した。あぁぁ…という声と共に、団員達は羨ましそうな目でマツブサを見つめた。


トウキ「あ、どうも。ホカゲ君のご家族の方ですか」

マツブサ「狽ヲぇまあ!うちの子がお世話になってます」

トウキ「え、お父さん!?」

ホカゲ「え、オレのお父さん!?」

マツブサ「トウキ君、面白い子だね」

トウキ「お父さん、だいぶお若いんですね」

ホカゲ「いや。うちのマツブサも、もうそろそろ要介護です」

マツブサ「そうそう。バリアフリーでエレベーター設置しました…って、ホカゲ君!」

トウキ「はぁぁぁ!凄いな君の家、超デカイし…お手伝いさんもいるし」


ホカゲとマツブサは顔を見合わせた。 お手伝いさん、同じ赤い団服を着て整列する団員達の事かもしれない。


マツブサ「そう、うちで働くメイドさんたちね」

ホカゲ「あんまり気にしないでおくれな。空気みたいなモンですから」

トウキ「へぇ…」


トウキは、赤いお手伝いさんたちを不思議そうな目で見つめた。
メイドと呼ばれた団員たちはみんな変な汗を流していた。若干、トウキに見つめられて頬を赤く染める団員もいた。


マツブサ「トウキ君、遠いところをお疲れでしょ。お風呂にするご飯にする、ホカゲ君にする?」

ホカゲ「オレで何するんだよ」

トウキ「ホカゲ君のお父さん、やけに積極的ですね」

マツブサ「うーん。参ったね、深読みだよ婿殿」

ホカゲ「狽゙こ!?」

トウキ「ははは、おちゃめですね。お義父さん」

ホカゲ「粕ロ定しろトウキさん!!」

三人が和気藹々と喋っていると突然、玄関の扉が激しく開いた。


ホムラ「おい、てめぇら。この俺が本部に帰ったところを出迎えがねぇのは何故だ」


ホムラが立っていた。眉間にバリッと、縦ジワが入っていた。
その姿を目にした団員達は、一斉にぶるぶるぶると震え出した。


マツブサ「あわわわわホムラ君、予定よりお早いお帰りで…」

ホカゲ「ややこしい奴が帰ってきやがった。出迎えなくて寂しかったんだな」

トウキ「え、どちらさん?」


ホムラ「…あ?」


一瞬、その場が凍りついた。

マツブサ「秤艪ェ家のお兄ちゃんです。このタレ目が何とも可愛いでしょ」

ホカゲ「ホムラ、こちらはトウキさんでオレの命の恩人な」

トウキ「はじめまして。お邪魔してますお兄さん」


ホムラ「お、お兄…


マツブサが ホカゲが 見ている
ぜひ 空気を読んで いただきたい


ホムラ「い、いや…


トウキが 見ている
そのつぶらな瞳はホムラをじっと見つめている


ホムラ「お、俺たち… 双子なんだ…」


よりにもよって…

マツブサ「狽ヲぇ!そうなのうちの可愛い双子ちゃん、お父さん頑張っちゃった」

ホカゲ「そんな感じでうちの人たちです」

トウキ「ご丁寧にどうも。ムロ島のトウキ、一晩お世話になります」


ホムラ「ゆ、ゆっくりしていけばいい…」


マツブサ「そうそう、お夕食の支度が出来てるから。大広間にどうぞ」

ホカゲ「おぉ!もうメシの時間か。トウキさんこっちだ、宴会場へ行くぞ」

トウキ「え、宴会場? スゲエ…!」



マツブサ「二人とも、まずは手洗いうがいをねー…」

二人を見送るマツブサの後ろで、ホムラはポツリとつぶやいた。

ホムラ「マツブサ、話がある」

マツブサ「うん。でもね、あの子たちの夢だけは壊さないで」

その周りで団員達が、絞れるほど大量の冷や汗を流して震えていた。




【宴会場】


団員「俺、今日からトウキさんのファンになります」

団員「俺も。ナマのオーラは半端ないです」

団員「俺も。トウキさんのような爽やかな笑顔と筋肉がほしい」

団員「俺も。マグマ団はムロジムのトウキさんを応援します」

トウキ「うん。ありがとうな」

団員達『かかかかかっこいい〜!』

ホカゲ「お前ら、目がマジすぎるし」


大広間宴会場。
マグマ団員、勢揃いでトウキを囲んでいた。任務に出ているはずの団員らの顔や、見張り番のはずの団員まで。何だかんだで全団員、ジムリーダーを拝みに紛れ込んでいた。


マツブサ「みなさまご静粛に」


マツブサは宴会ステージの上から、マイクを通してその場を静めた。

マツブサ「これよりトウキ君の歓迎会をはじめます。一同、礼!」

 ゴン

マツブサはお辞儀をした瞬間に、マイクスタンドへ頭をぶつけた。

団員『だからマツブサさん、マイクからは50センチメートル離れて下さい!』


団員達は一斉に立ち上がって、マツブサに駆け寄っていった。大人数の駆け足の振動が座敷に座るトウキの体に伝わった。


トウキ「ホカゲ君の家、ご家族もお手伝いさんも男の人ばっかりだね」

ホカゲ「むさくるしくてすいません。マツブサのシュミです」

トウキ「土産足りなくてごめんな」

ホカゲ「とんでもねぇ。怒り饅頭は全てオレの胃袋に納まる予定です」


マツブサ「本日主役のトウキ君。良ければ何か喋ってよ」

ステージ上でマイクを正したマツブサは、本日の主役へ向け手招きをした。団員達がより一層目を輝かせて見つめてきたので、トウキは期待に応える事にした。


トウキ「どうも。ムロ島のトウキです。こういう場面、好きそうに見えるでしょ。でも本当は苦手なんで手短にするね。ホカゲ君と出会ったのは、ムロ島の海岸だったよ。水死体かと思って焦った。最初、海水の飲みすぎでボケてるのかと思ったんだけど、それがホカゲ君でした」


トウキがそこで一旦区切ると、マツブサをはじめ団員一同うんうんと深く頷いていた。


バンナイ「はいはい、質問。なみのりピカチュウっていますかね」

トウキ「うん、いないと思う」

ホカゲ「Σな、何ィ!!」


トウキ「ホカゲ君の話を聞いていたら、良い奴だったんで友達になったよ! そしてこうしてフエンに来る事が出来た。嬉しいぜ。みんな宜しく、ビッグウェーブ!」


団員『ビッグウェーブ!』


トウキ「ホカゲ君のお父さん、マイクお返しします」

マツブサ「どうもありがとう。マツブサはムロジムのトウキ君を応援します」

トウキ「うん。ありがとう」

マツブサ「爽やかさは罪だね、乾杯!」

団員『カンパーイ!』


トウキ「――僕のスピーチ、中々だったでしょ」

ホカゲ「オレ、褒められたの?けなされたの?」


ついに料理が運ばれてきて、トウキはお持て成しレベルに驚いた。

トウキ「君の家、凄い。いつもこんな豪勢にパァっとやってるのかい?」

ホカゲ「今日は奮発です。しかしやるときゃやります、うちの組織」

トウキ「ソシキ?」

ホカゲ「Σそ、そーしき?」

トウキ「Σえ、葬式で!? このダイナミックさ。じゃあ結婚式とかどうなっちまうんだ?」

ホカゲ「あれよ、フエン凱旋パレードですからなんつーかね」

トウキ「なんてことだ!」


バンナイ「はい。ホムラさーん、おひとつどうぞ」


少し離れた場所では、ホムラが団員数人に酒をつがせていた。
その一帯だけ、ずーんと空気が重い…バンナイはホムラの隣へ割り込んで座り、手にした酒瓶をグラスへ注いだ。


ホムラ「今日はどんな粉が入ってんだかな。おい、お前飲め」

ホムラは、そのグラスを何の罪もない横の団員の前に置いた。

団員「よ、よろこんでー…」

団員が震えながらグラスへ手を伸ばすと、バンナイは笑顔でその手を叩いた。

バンナイ「ホムラさん、お可哀想にな。友達取られちまって寂しいんだろ」


ホムラにチラッと睨まれた。
バンナイは周りの団員たちを手で追い払うと、改めて酒のとっくりを手に取った。


バンナイ「今夜は、俺に付き合わせて下さいよ」


ホカゲ「今夜から、俺と好き合って下さいよ」

トウキ「今夜から、俺と愛し合って下さいよ」


背後から声がしたので、バンナイはビックリして振り返った。

バンナイ「狽、ぉおお!何だあんたら聞いてやがったのか!」

ホムラ「何だお前ら、こっちへ来たのか」

ホカゲ「お前らが大衆の面前で妖しげな雰囲気かもし出すからだべ」

トウキ「なんとも言えない妖しげな雰囲気だったよ」

バンナイ「待って下さいよ、そう言うんじゃねぇから誤解するな!」

ホムラ「不愉快だ」

バンナイ「あ、刺さった。今何かがグッサリ刺さった」

ホカゲ「てかトウキさん、さっきのセリフはさすがに助平だろ」

トウキ「日も暮れた頃だし、そろそろいいかなと思って」

バンナイ「へぇへぇ。お二人、お似合いですよ。同類の香りがします」

ホムラ「同感だ」

ホカゲ「オレら、これから温泉行くんだ。お前ら来るか?」

ホムラ「いや、いい」

バンナイ「ごゆるりと、むつまじくどうぞ」

ホカゲ「何だよ。つまらねー奴ら」

トウキ「じゃあお先に! ご馳走様でした」


ホカゲとトウキは風呂用タライをかかえて出かけていった。

下っ端団員達は、話足りず残念そうに見送った。
若干、両者羨ましそうに悶々と見送る団員もいた。


バンナイ「あの人ら食ってすぐ、よくも風呂に入れるよな」

ホムラ「常人の感覚がないんだろ」

バンナイ「てか、見て。あの人らの席の空の酒瓶の量」

ホムラ「ムロ島の男は酒豪だそうだ、凄まじいな」

バンナイ「ところで、そこで寝てるマツブサさんどうするんですか」


座敷の中央で、マツブサは酒瓶を抱えてすやすやと眠っていた。その周りでは、野球拳で負けた数名の団員が半裸でしくしくと泣いていた。


ホムラ「組織の恥だ。放っておけ」

バンナイ「いや、あの人が頂点なんですけど…」




【温泉銭湯】


ホカゲ「夜の露天風呂なんて素晴らしいですな」


ホカゲ「トウキさんの筋肉羨ましいぜ」

トウキ「そう?」

ホカゲ「オレはもっとたくましくなりたい」

トウキ「ホカゲ君はそのままでいいと思うけどね、バランス良く鍛えてある」

ホカゲ「まじでか」

トウキ「ホカゲ君。何で金髪にしたの」

ホカゲ「気がついたら金髪だったの」

トウキ「まじでか」


温泉の白い湯煙が、夜空に向かって立ち上がっていた。
ホカゲはパシャっと湯を手ではじいた。乳白色のなめらかな湯で、心地良い。


トウキ「僕は詳しくなけど、温泉って成分とかその効果とかあるんだろ」

ホカゲ「あるぜ、ここは美白だ!」

トウキ「び、美白?」

ホカゲ「び、美肌?」

トウキ「ああ、つまり肌にいいんだな。」

ホカゲ「えーと、確かだな。番頭がナンタラカンタラ自慢してたんだが」

トウキ「でもホカゲ君なら、美白も美肌も当てはまるよな!」

ホカゲ「トウキさん、そんな目でオレを見ないで下さい」

トウキ「さてな。どんな目だろうな」

ホカゲ「…あと、やっぱり火傷や傷だな」

トウキ「ああ、湯治に来るお客さんもいるんだろうな」

ホカゲ「オレ、昔。火傷を負ったんだ」

トウキ「えっ、ホカゲ君が?」

ホカゲ「治ってきたよ。それから俺はずっと温泉に通ってるんだ」

トウキ「まさかと思うけど…顔じゃないよな」

ホカゲ「さてな。どうだかな」

トウキ「はあ?うん、いいよ別にそんな興味ないし」

ホカゲ「Σな、何ィ!」




二人が帰ると、来客部屋の前にバンナイが立っていた。


バンナイ「ああどうも、お帰りなさい。お布団の準備は万端ですから〜」


ニヤニヤと笑ってる。
二人は「はあ?」と、小首を傾げて扉を開けてみた。


ホカゲ「…」

トウキ「…」


開けてびっくり。敷布団が二つ、ピッタリとくっついて並んで敷かれていた。
二人はびっくり! 顔を見合わせた。


ホカゲ「あ、どうそ宜しくお願いします」

トウキ「いえ、こちらこそ」


バンナイ「ちょ。マジで布団そのままに就寝するの? えっと…がんばって!」




【翌日】


ホカゲとトウキは、フエンタウンの入り口に立っていた。
昨日待ち合わせをした場所だ。

帰り際。マツブサは大量の土産を持たせようとしていた。団員達は泣きながらファンレターを手渡ししようとしていた。しかし、その場に予期せずホムラが現れたので全て未遂に終った。
マグマ団一同、実にこざっぱりした見送りであった。


トウキ「…さて、帰るかな。観光したし、ウマイもん食ったし。温泉入ったし」

ホカゲ「トウキさん、昨夜はだいぶ激しかったな。寝相が…」

トウキ「本当ごめんな、お前を下敷きにして。しかし、ふかふかの枕でした」

ホカゲ「人を押し潰しておいて、ふかふかとは何ですか」

トウキ「だから、謝っただろ」

ホカゲ「これに懲りず、できればずっとダチでいてほしいです」

トウキ「当たり前だ! 心配するな」

ホカゲ「まじでか。ほっとしました」

トウキ「また妙な伝説を追っかけてたら、助けてやるよ。ムロ島で」

ホカゲ「ありがとう。オレはムロジムのトウキさんを応援します」

トウキ「うん。嬉しい」


そしてトウキは名残惜しそうに町を見渡した。
静かな温泉街からし白い煙が立ちのぼっていた。


ホカゲ「もっとゆっくりしてきゃいいのに」

トウキ「またいつか来るよ。好きな街が増えて嬉しいんだ」

ホカゲ「じゃあな」

トウキ「うん」

ホカゲ「トウキさん、どうしたムロが待ってるぜ。早く行けよ」

トウキ「ホカゲ君、ちょっとおいで」

ホカゲ「おう、どうし…


ハグ。


トウキ「行きに出来なかったハグ、いまなら出来そうな気がした」

ホカゲ「い、今…突然?」

トウキ「次、会う日まで元気でな」

ホカゲ「ああ…じゃあいつか」

トウキはホカゲを放すと、ビシッと指をさして言った。

トウキ「言っておくけどー、今のは 友情 ハグだからな!」

するとホカゲもビシッとトウキを指さした。

ホカゲ「おう!でもオレ、トウキさんとなら週刊誌にとられても構わねぇー!」


ホカゲは高らかに叫んでみた。
みるみるうちに、トウキの顔が真っ赤になっていくのが分かった。トウキはくるりと背を向けると、そのまま無言でさくさく山道を歩いて行ってしまった。

ポカンと眺めていたホカゲは、ある事に気づいた。


ホカゲ「狽ィ、お兄やん逆! 帰り道こっち!! おーい、そこの人ー!!」


ホカゲは慌てて後を追いかけて、やっとトウキの腕を掴んだ。

ホカゲ「うおっ、熱っ! 腕が熱っ!」

トウキは耳まで真っ赤にして地面を見つめてつぶやいた。

トウキ「ホカゲ君、俺、何やってんだ…」

ホカゲ「お兄やん、大丈夫か。もう一泊とまってけば」

トウキ「…うん。そうする」





おわり