ムロ島漂流記



青い空 白い雲

波の音が聞こえる

微かに キャモメの鳴き声も

助かったのか ここはどこだ

太陽の光が まぶじい…



青年「おーい! そこの人、大丈夫かー」


ホカゲ「おぉ…オレはここだ、ここはどこだ」

青年「良かった! 君、意識はあるんだね」

ホカゲ「た、頼む。み、水をおくれ…」

青年「ちょっと待って。ほら、これ飲みな――おいしいみず」

ホカゲ「おいしいみず? う、うめぇ。こんな、おいしいみず初めてです」

青年「落ち着いたかい?」

ホカゲ「お、落ち着いた」



青年「君…こんな島裏の浜辺で、どうして倒れていたんだ?」

ホカゲ「島? ここって島なんすか」

青年「そう、ここは ムロ島。何か覚えてる?」

ホカゲ「Σげーっ!」

青年「うわ、なんだよ!」

ホカゲ「じゃあオレ、ムロ島に流れ着いちまったんだな」

青年「君、どっから来たんだ?」

ホカゲ「あ、オレ フエンタウンのマツブサのとこから」

青年「フエン? 田舎だな」

ホカゲ「ムロ島もだいぶ田舎じゃねぇかよ」

青年「フエンって海ないけど、生きてけるの?」

ホカゲ「てかムロって温泉ねぇだろ、マジ生きてけるの?」

青年「ああ。人種が違うわけだ」


ホカゲ「なみのりピカチュウ、出没したってマジすか?」


青年「えーっと、はい?」

ホカゲ「107番水道で、あの伝説のなみのりピカチュウが目撃されたんだろ!」

青年「わ! 落ち着けよ、そんな急に体動かすと危険だぞ!」

ホカゲ「包み隠さず教えてくれよ、オレどうしてもなみのりさんを拝みてぇんだよ!」

青年「君。もしや、頭打ってる?」

ホカゲ「失敬な。オレは伝説の為ならば、この世の果てまで乗り出す男だぜ」

青年「あー君はダイビングを習得してないくせに笑顔でジーランス探すタイプだろ」


ホカゲ「オレのポリシーに反するけどな、まず“水ポケモン”を用意したんだ」


青年「(いきなり語りだした…)ポ、ポリシー? 君は炎タイプあたりの専門だったり??」

ホカゲ「カイナから“そいつ”と一緒に泳いできたワケよ、まず109番水道」

青年「うん。そいつは賭けだな」

ホカゲ「オレ、平泳ぎできねぇんだよね。気づいた時には108番水道」

青年「つまり、そのポケモン様様 だな」

ホカゲ「“すてられぶね”が見えた頃、奴に異変がおき始めた」

青年「水ポケモンに!?」

ホカゲ「いきなりハネだした」

青年「ハネる? 海の上で??」

ホカゲ「さすがのオレも、そのハネ具合に振り落とされ…」

青年「つまり、その、波にさらわれて」

ホカゲ「溺れた。ああ、溺れた。だってオレ、平泳ぎできねぇもん」

青年「生きてるのが不思議だね」

ホカゲ「そうですねオレもビックリ」

青年「君…、カイナビーチで“コイキング”を500円で買わされただろ!」

ホカゲ「Σはえっ 何故それを!」

青年「観光シーズンだからね。最近ムロによくコイキングが流れ着いてくるんだ」

ホカゲ「いや、お恥ずかしい。赤いモン見つけるとついつい他人とは思えなくて」


青年「カイナで宣伝文句に騙されて不法にコイキングを買ったマヌケな観光客が、その後気づいて怒って勝手に海へリリースしてるのさ。生態系が崩れるだろ、それにそのコイキング達は大きな波に乗ってムロまで流れてきて、君のようにこの浜辺に打ち上げられて迷惑してるって話さ。」


ホカゲ「オレ反省。お兄さんすげーな、実は生態系を守るポケモンレンジャーか?」

青年「あれ、君…トレーナーだろ? 僕のこと知らないんだ」

ホカゲ「あ。オレそっか、オレもトレーナーだよな懐かしい響き」

青年「ポケモンジムとか、興味なかった?」

ホカゲ「なかった」

青年「Σへ、へえいるんだね。そういう人も!」

ホカゲ「ポケモン、ジム? ん? まてよ??」

青年「うん、待つけど」


ホカゲ「おぉ! みんなのトウキ兄やん!!!」


トウキ「そうそう、僕ムロタウンのジムリーダートウキです」

ホカゲ「すっげぇ、サインおくれ。てか触っていい??」

トウキ「いいよ。え、どこを??」

ホカゲ「すごーい、オレ全国の女子のキモチ分かっちまう」

トウキ「照れるぜ。ジムに興味ない人でもジムリーダーって興味ある?」

ホカゲ「あるある、だって読んだもんな。ゴシップ誌」

トウキ「わあああああああああああああ!!!!」

ホカゲ「Σ!?」

トウキ「Σ!?」

ホカゲ「あの、おたく大丈夫?」

トウキ「いつのだ……ええと、いつの……まさか、先週のアレ?」

ホカゲ「四天王のシバと、出来てるってマジに?」

トウキ「うわ! きたよ、先週のサンデーは誤解だからな、あの記事は誤解だからな」

ホカゲ「ずーっと、人里離れた山奥でよろしくしてたんだってな」

トウキ「し、してない! いいか、名誉毀損で訴えてる最中なんだ、シバを」

ホカゲ「え、シバを?」

トウキ「それより君の探してる なみのりピカチュウだが、ガセだよ」

ホカゲ「何だと!」

トウキ「誰から聞いたのか知らないけど、そんなの見たことも聞いたこともないね」

ホカゲ「そ、そんな…」

トウキ「ああ、かわいそうに。落ち込むなよ」

ホカゲ「なぁトウキさん、オレ…だまされたのかな」

トウキ「うん」

ホカゲ「うん」

トウキ「ああ、君な。すっかり忘れてたけど病院行こう」

ホカゲ「あ、お構いなく。オレの頭は正常中の正常だからな」

トウキ「頭じゃなくて体な。溺れて海水飲んでるだろ?検査だ」

ホカゲ「やめろ、オレに触るな! オレはもう、誰も信じられない!」

トウキ「うちの街の病院は可愛いホワイトナースがたくさんいるので有名だろ」

ホカゲ「ううぅ…腹が痛ぇ。海水の飲みすぎのようだ」

トウキ「行きたいか? そんな行きたいか?」

ホカゲ「だってね、フエンのホスピタルはヨボヨボのシルバーナースばっかなの」

トウキ「ああ、かわいそうに。そりゃ病院行かねぇよな」

ホカゲ「マツブサのとこで働いてるとね、周りはみんなゴツイ男ばっかでね」

トウキ「うんうん」

ホカゲ「街のキャバレーも廃れててね、ご年配のギャルキャストがたくさんなの」

トウキ「ダメだ、そんな街で暮らしてたら男としておかしくなっちまう!」

ホカゲ「だよな、しかし温泉だけは最高なんだぜ」

トウキ「そこまでして温泉をとるフエン人って何なんだ!」

ホカゲ「温泉が、オレたちにとって かけがえのないモノなんだよ!」

トウキ「よし…おぶってやる。今、すぐにギャルのもとへ連れてってやるからな」

ホカゲ「お、お兄やん。すまねぇ…な、泣きてぇ」




トウキ「僕もいつか行ってみたいよ。君がそこまで愛するフエンタウンに」




ホカゲ「というわけで、めでたく無事にホカゲザカムバック!」


ホムラ「よかったな。ところでシルバーナースには俺もほとほとウンザリだ」

マツブサ「ホ、ホカゲ君が行方知れずになってしまった時は僕心配で泣いたよ」

ホムラ「面倒ではあるが、そのジムリーダーには何か礼の品でも送っておくからな」

マツブサ「僕からもね、金一封をね…」

ホムラ「それで、お前が そのなみのりポケモンを探しに出た経緯だが…」


ホカゲ「あ! なみのりさん、な。ホムラの“イイコ”から聞いた」


ホムラ「???」

マツブサ「えぇっ、マグマ団は不純異性交遊禁止だって言ってるのに!」

ホカゲ「ホラ、オウムみたいな頭のあいつ」


バンナイ「――あ、俺?」


ホムラ「おい、てめぇ どっから沸いてきた」

マツブサ「ふ、不穏な空気が…」

ホカゲ「おお、マツブサ空気読めたのか」

バンナイ「いや残念だね。ホカゲさんってば、そのまま溺れとけよ」

ホカゲ「ムロのナースに癒されたね。オレは長生きするぜ」

マツブサ「ホカゲくん、不潔だ。こんなホカゲくん嫌だ」


ホカゲ「そうだ、今回は不発だったがな、なみのりさんは絶対存在すっからな!」


ホムラ「なみのりか…そういえば、昔オレンジ諸島で目げ…

ホカゲ「おぉ! マツブサ、オレ有給な じゃ、そういうことで!」

マツブサ「Σえぇ!?まさか」

ホムラ「おい、まてホカどこへ行く。やめておけ水辺は…!」

バンナイ「なんという…」

カナヅ…




ムロ島のトウキさんへ

オレ元気です。今日もレジェンドに生きてます。
こんどフエンへ来てください。うちのマツブサが精一杯おもてなしします。
なみのりさんは、絶対オレがつかまえてみせます。

ビッグウェーブ




トウキ「…で、今日はどうしたの?」


ホカゲ「あ、どーも。ちょっくらオレンジ諸島まで行くつもりでした」

トウキ「ここはムロ島って場所なんだけど」

ホカゲ「はい、あの、早々にホワイトナースの病院へ連れてって下さい」





おわり