かいだん

※怪談話



温泉街を夜、歩いてはいけない
もう、だれも 知らないだろう

むかし ここら一体は墓地だったんだ
ひろいひろい 墓地だった

むかし フエンは小さな温泉があるだけの小さな集落だった
いつしか外から人がやってきて 温泉で傷を癒すようになった

だれかが すこし、墓地を移動させた
小さな集落に 小さな温泉の宿ができた
人が人をよび 訪れる者はすこしふえた

すると だれかとだれかが またすこし、墓地を移動させた
小さな村は小さな温泉の町になった
ゆたかになった町に、ふしぜんにすこし 墓地がのこった

そこで みんなで ぜんぶ墓地を とおく とおくへ 移動させた
小さな温泉の町は りっぱな温泉の町になった
ひろい ひろい 墓地はなくなった

だれかが 思い出した

ひろい ひろい 墓地はなくなったけれど
だれかさんは埋まったままだ
だれかさんは今もまだ 土の中に埋まったままだ
だれかさんとは ひとりなのか ふたりなのか
すこしなのか たくさんなのか
どこと どこに 埋まったままなのか
まさか ひろい ひろい この温泉の町の下 全て埋まったままなのか

ああ ぼくたちは 時の流れとともに 忘れてしまった



ホカゲ「まじでか」

マツブサ「まじだよ。この下だよ」
ホムラ「ほんとにまじでか」
マツブサ「本当のところは」
2人「ところは」

マツブサ「もう、誰にもわからない」

2人「……」

ホカゲ「ホムラ、今夜は朝までずっとここにいることにしよう」
ホムラ「奇遇だな、俺もそうするつもりだった」

マツブサ「( つくり話だったのに )」





では俺もひとつ、聞いた話をするとしよう。

この部屋からも見えるな。
あれだ、敷地内の林に隣接してそびえ建つ旧棟。今はもう半分取り壊されているが、うちの組織が発足した当時は、あのボロを使っていたんだってな。


……だいぶ昔の話だぜ。


旧棟の地下にあった研究所の一室。

ある夜。
熱心な研究員の男が調べ物をするため遅い時間まで残っていた。
男は今さっき大量の資料を抱えてこの部屋に戻ってきたばかりだ。

電気のスイッチを入れた。
真っ暗だった部屋に、明かりがともる。

それにしても……と、男は思った。

日中は蒸し暑かったのに、夜はだいぶ気温が下がったな。
部屋の中は妙に ひんやりとしていた。
何となく心細い気もしたが、これも研究のためだ。
机の上に資料を広げ、男は仕事に取り掛かった。
夢中になって資料を読み進めていく。
だんだんと夜も更けていった。

そして何時間ほど経っただろう。

疲れを覚えて、何気なく時計を見上げたその時、ふと 気づいた。
部屋の入り口のドアが少し開いていた。

ああ、おかしいな。閉め忘れたっけか。

ドアの隙間から、暗い廊下のコンクリートの壁が、ぼんやり見えていた。
その時は、特に気には留めず男はドアを閉めに行った。
しっかり、ガチャ。確認するように閉じる音を、耳で聞いた。

男は再び机に戻り、資料を開いた。
建物の老朽化だろうか。いや、今は集中を。
すぐにドアのことなど忘れてしまい、読み物に没頭する。

 ギィ

しばらくして、何か擦れるような小さな音を感じた。
男は資料から目を離すと何となく、入り口のドアを見た。
先ほど閉めたはずの扉が、また少し開いていた。

おいおい 廊下に誰かいるのかい?
だけど、こんな夜中にまさかな。

男は再びドアを閉めに立った。
一応 廊下も見渡したが、勿論そこには誰もいなかった。
首を傾げながら戻ろうとした時

 ギ ィ

背後でまたあの音がした。
男は、すぐ振り返った。

ドアが、開いていた……。

あたりは しんと静まりかえっていた。
少し気味が悪かった。
こんな夜中に一人でいるから色々と考え過ぎてしまうのだろうか。
馬鹿だなと笑いつも、ドアを閉めた後、今度は鍵までかけてしまった。
朝になったら同僚の皆に話してやろうと思った。
そう朝になったら……。

気が散ってしまい、もはや仕事に手がつかなかった。
男は机まで戻ると、椅子にもたれ掛かった。

今夜は 帰るべきだろうか。

いつの間にか嫌な汗をかいてしまったようで、男はそれをタオルで拭った。
何故だか息苦しかった。首や肩が重く感じた。
まるで緊張をしているかのようだった。
男は机に積まれた資料を、じぃっと見つめた。
何かが起こるのを待っていた。

 ギ ィ

ああ、ドアの開く男がした。
男は手で自分の口を抑えた。
腹の中で冷たい何かがジワァと広がっていくような気がした。
内側から鍵のかかったドアだったのに、そのドアがまたも開いてしまった。
一体これは、どういうことなんだ。
何度か呼吸を整えて 男は、ゆっくりとあのドアを振り返った。
予測していたものの、男はその光景を見るのが嫌だった。
ドアが少し開いていた。その隙間から廊下のコンクリートの壁が見えていた。

やはり、今夜はもう。

男はゆっくりと立ち上がった。
ここから出た方がいい そう強く思った。
その距離はとても長く感じた。
どうしてか足が重い、一歩一歩、歩くのが難しかった。
最後にあのドアのノブに手をかけ 慎重にゆっくりと押した。
部屋から出た途端、男は体中から力が抜けたようにその場に膝をついた。

さあ帰ろう、今夜はもう帰ろう。

何となく、背中の後ろに気配がした。

そして男は、たった今自分の出てきた部屋を静かに振り返った。
直後、男は固まった。

白い手が 見えた。

今出てきた部屋の中から白い手がすうっと伸びていて、
その手は、男に向かって伸びていた。

男は声にならない言葉を発した。


 バタンッ


大きな音をたてて、ドアは勢いよく閉まった。
その振動が体に伝わり、男はようやく確信した。

あのドアは、勝手に開いたわけではなく

外からのいたずらの せいでもなく

あの部屋の内側から、何者かがドアを開けていたようで
それがあの白い手であることは、およそ間違いなかったわけだ。

どうやら あの白い手は、男があの部屋に入ってしまったその時からずうっと、男を追い出そうとしていたに違いがなかった。

すっかり足がすくんで動けなくなってしまった。

男はふと、ドアの上の表札を見た。

4号室 と書いてあった。

ああ、おかしいな。
研究室は3号室までしかなかったはずなのに……。



ホカゲ「まじでか」

ホムラ「まじだ。ここから見えるあの旧棟だ」
マツブサ「ほんとにまじですか」
ホムラ「本当のところは」
2人「ところは」

ホムラ「でまかせだろ」

2人「……」

ホカゲ「やだ。超悪質じゃねぇ?」
マツブサ「明朝 旧棟を灰と化す計画を急ピッチで練ったのに」

ホムラ「( くだらねぇ )」





皆さんとんでもなく作り話がウマいですね。
純粋なオレはまんまと騙されてしまいました。

オレのような純粋な男は嘘はつけません。
というワケでね、ノンフィクションをオレ思い出しちまった。

『the かいだん』

階段あんじゃん。階段に噂あんじゃん。
マジお前ら知んねーの??
本部の北階段、あんま使う団員いねーだろ。
実は、あの4階な。

……4?

いや別にホムラプロデュースの作り話に被せちゃねーから。
4時59分。昼と夜と境目なんだって。
……あれ?
……4時59分だっけ??


 ホムラ「――どっちだよ」


いや、知らねぇ。
午後○時59分としよう。やべーんだって。
あの北階段、数えながらのぼると ふつー12段なんだ。
だが運悪くその1分間中に階段のぼると、どっか別の空間に行っちまうらしい。


 ホムラ「つまりその午後○時59〜午後○時00分の1分間に何か起きるのか」


オレ、そうだつってんじゃん。
その1分間に、幻の13段目が出現しやがるんだってよ。
最高峰のフィニッシュ12段目のはずが、うっかりもう1段あって、登山家的にビックリですね。

さっきオレさ、ノンフィクションって言ったじゃん。

これ団員から聞いたんだ。
1人とか2人じゃねぇ、なんと3人だ!


 ホムラ「……」


ちなみにこのオレ! 4人目のリアル体験者様になろうと思ってよ。
幻の13段目を求めて、1日に24回訪れる59分〜00分 の度に、北階段4階でスタンバイしてたのだが、なんと何事も御座いませんでした。


 ホムラ「仕事サボって楽しそうだなおい」


オレじゃダメなんだよ霊感とか持ってねぇから。
その事実にオレ凹んだね。

ああ〜いいなぁ〜。

羨ましくて超ジェラシーだぜノンフィクションの団員3人。
こんなオレが、いつか幻の13段目を拝めたら すげくない! って話。

終わり! センキューナイス!



 ホムラ「お前が終れ」



マツブサ「その話はまじですか」

ホカゲ「まじだぜ。なんてたってノンフィクションだからな」
ホムラ「お前の頭がまじでか」
ホカゲ「本当のところは」
2人「ところは」

ホカゲ「どうなんかねぇ。オレはロマンを信じるぜ」

2人「……」

ホムラ「ウマとシカって書いてホカゲって読むんだろ」
マツブサ「ホカゲ君は火山灰の中を笑顔でノコッチ探索するタイプだろうね」

ホカゲ「(よくわからんが、きっと褒められてるのだろう)」



ホムラ「……しらけた」
ホカゲ「オレ、まあまあ楽しかったぜ。またやろうな」

マツブサ「うん。君たちとお喋り出来て今夜はとっても有意義でした」

ホムラ「日の出だ」
ホカゲ「まじだ。あ 敷地内の林に隣接する旧棟が見えた。ショックだ」

マツブサ「朝日とともに燃えてしまえばいい、敷地内の林に隣接する旧棟め」

ホムラ「ホカ、銭湯開いてるとこあったっけか」
ホカゲ「あった。確かあった。ぼったくり駄菓子屋の裏と記憶してる」

マツブサ「今日は私もご一緒しよう」

ホムラ「結構だ」
ホカゲ「マツブサ助平だな。セクハラよくない」

マツブサ「はい。マツブサもっと君たちと仲良くなれるように努力するね」





おわり